捕まった子犬、バーテンダーに愛される?【完結】
カクテル5/さよなら大好きだった人
オーナーもそれがいいじゃん!と話をまとめてしまい、明日荷物を取りにいくことを琢磨に連絡して、この話は終わりになった。
三浦さんから聞いた話だと、私を連れて帰るために昨日も早めに上げてもらったらしく、今日も明日に備えて閉店作業をせずに一緒に帰れることになった。
車まで一緒に歩く道のりはなぜか無言で、琢磨さんだったら気になって話題を考えてしまう沈黙が嫌じゃなかった。
車に乗り込んでやっと三浦さんが口を開いた。
「真穂は、まだあいつに未練あんの?」
支払いを済ませた車をパーキングから走らせ落ち着いた街並みを走っていく。
「……わかんない。簡単にはい、さよならってなかったことにできる恋ではないよね」
人生の中でみたら1年ちょっとの付き合いで、同棲半年、あと何年かしたら痛みもなくなる恋愛かもしれないけど、初めての彼氏で今の私には強烈な痛みを残した相手だった。
「……真穂、気分転換にドライブ行くか。明日休みもらったし」
「え、行くの?」
三浦さんは自宅に向かっていた進路を変更して、慣れた運転で車を進めていく。
行き先は決まっているみたいなので、私は窓から見える景色を眺めながら、少しだけ考え事をしていた。
景色がどんどん変わり、自然が増えてきたな―と思ったら車はどんどん坂を上って高いところを目指していく。
そこでようやくどこに連れて行こうとしているのかわかった。
円を描くように登っていく景色の途中から見える夜景はキラキラ光ってとてもきれいで、三浦さんは一番きれいな景色でみられる場所を目指して運転を続けた。
高台に辿りつくと、深夜3時を過ぎていたため夜景を見に来たのは私たちしかいない状況だった。
冬の深夜は寒いので、このまま車の中で夜景を楽しむことを選択した。
「……真穂はさ、あいつのどこに惹かれたの」
ぽつりと話した三浦さんの声が小さいのに威力があって、一瞬びくっと肩を震わせた。
どこが良かったのか、どこだっけかなーの真剣に考えてみたけど、三浦さんが納得してくれる答えを提示できそうにない。
「大人で余裕があって優しくて仕事もできてってところに惹かれたはずなのに、結局今、こんな別れ方強いられて、全然大人でもないし余裕もないし…」
「…………」
「三浦さんの方が大人だし余裕があるし優しかった。だから、三浦さんが納得できる惹かれたところが今はわからない」
「……真穂がどんなところをあげたって、俺は納得なんかできないけどね」
「え?」
真剣な目に見惚れてる間に、三浦さんが発した言葉を私は聞きとることができなかった。
「全然大人でも余裕でもないし……」
私が三浦さんの声に反応した一瞬の間に、頭の後ろに回された手が私を引きよせて、唇を重ねていた。
軽く触れるだけのキスが離れる。
目を開けた三浦さんと目線があったのは一瞬で、すぐに唇が重ねられた。
少し開いた隙間から舌が入りこみ、絡み合う濃厚なキスに変わった。
逃げても逃げても絡めてくる三浦さんの舌に、息がだんだん苦しくなってくる。
歪んでくる視界に自分が押し倒されたことに気付いた時には、シートが倒され三浦さんが自分が覆いかぶさった後だった。
行為が終わったあと、動けない私に三浦さんが優しく洋服を着せていってくれて、口に含んだ水分を口移しで飲ましてくれた。
 私が飲みこんだのを確認すると三浦さんも水分補給をした。
慣れてる、色んな意味で三浦さんは慣れている。
三浦さんからしたら2回目のセックスだけど、私は素面で経験する初めてのセックスだから、刺激が強すぎた。
「私、三浦さんと前回もこんなセックスしたの…?刺激強くて死ぬかと思った…」
「前回も真穂は感度良かったよ。まじで元カレの影響?」
結構顔が本気で、怒っているようにも読みとれたので、急いで否定の意味を込めて首を横にふる。
もう喉がカラカラで必要以上の声を出せない。
「三浦さんだから…」
そう答えるので今の私は精いっぱい。
返事がないのが気になって三浦さんの顔を見れば、嬉しそうに笑って私を見つめていた。
「またしような」
優しい触れるだけのキスを落とした三浦さんに「死んじゃうかも…」と、素直な心情を伝えたら、「手加減する」と楽しそうな声が返って来た。
バーテンダーの仕事もして夜景のドライブもしてセックスもして自宅に向かって運転している三浦さんは、まだ余裕も元気もありそうで、バケモノかも…なんて思ったのを最後に意識が途切れた。
今度は琢磨の夢は見なかった。
三浦さんとドライブに行くまではどん底だったのに、簡単に楽しい記憶で塗りかえられてしまって、三浦さんの腕の中で守られて眠る夢を見た。
温かくて安心するこの夢を、ずっと見ていたいと思った。
パチ。
急に覚醒したように目が覚めて、周りの景色に目を向けると安心できた。
「三浦さんの部屋だ…」
三浦さんを確認するように隣に視線を向けるけど、そこには誰もいなくて、触ってみるともう体温が消えて冷たい場所になっていた。
私は急いでベッドを下りて廊下をパタパタと走りリビングの扉を開けると、ダイニングテーブルで新聞とニュースを確認していた三浦さんが「おはよう」と声をかけた。
「おはよう、ございます…」
「寝れた?急に慌てた様子でこっち来たからびっくりした」
「隣に、三浦さんいると思ったらいなかったから…」
思わず口から出た言葉に恥ずかしくなって、そこから動けなくなってしまった。
三浦さんとは恋人同士じゃないのに、この言葉は重たい女だったかも…。
反応が怖くて顔をあげれない私をふわっと包んだ香りは、もう鼻が慣れた三浦さんの匂いだった。
三浦さんはぎゅーっと圧の強いハグで私を拘束して、「そんな可愛いこと言うなよ、夜まで我慢できないじゃん」なんて恐ろしいことを口にした。
私が軽い抵抗を見せるとすぐに体を離して両頬を包み込んで、優しいキスをした。
「今日も一緒に寝ような」
「昨日も一緒に寝てくれた?」
「寝たよ。寝落ちした真穂をお姫様抱っこで寝室まで運んで…」
「ほんと!?」
「嘘だよ。おんぶで連れて帰ってベッドに投げおろしたのに全然起きないから一緒に寝たんだよ」
「さいってー!最低!乱暴最低!」
なんて怒ったけど、本気で思ってないよ。
お姫様抱っこは嘘かもしれないけど、投げおろすとか乱暴なことな三浦さんはしない。
だって、三浦さんに優しくされた夢を見たもん。
「そろそろ起こそうと思ってたんだよ。あんま遅くなってから荷物取りに行くのもやだったから」
「……あ!忘れてた!」
「すぐに食べれるなら用意してある朝食あるし、先に支度するなら風呂入れるけど…」
「先に朝食食べる!お風呂は大丈夫!着替えてメイクしたらすぐに行きたい」
「……まじでいいの?俺の香水の匂いとか混じってるけど」
「関係ないもん、あんなクズ」
はっきり言いきった私がツボに入った三浦さんはお腹を抱えて笑っていたので、無視してダイニングテーブルに向い、今日も彩よく並べられた料理に手を合わせた。
今日も美味!な三浦さんの朝食を食べてる間、三浦さんも向かいに座って新聞に目を通している。
年代問わず色んな人と話ができるのは、こういったところでも手を抜かない三浦さんの真面目さもあるのかな。
支度を終えて同棲していたマンションについたのは12時を少し過ぎたあたりだった。
一応時間帯があれだから、着いたけど行ってもいいか確認とってみたら、「今日は外出してるから自由にどうぞ」と簡潔な返事がきた。
主の確認がとれたので、自分が持っている鍵で開けて三浦さんと一緒に中に入った。
いくつか用意した段ボールに自分のものを詰め込んでいく。
自分たちで運ぶのは大変そうな家具やインテリアは業者を頼んだので、まとめられそうなものは私の部屋の入り口近くにまとめた。
こうやって荷造りして見ると私個人の荷物は少なくて、2往復ぐらいで三浦さんの車に全部詰め込むことができた。
最後に部屋を一回り確認して、鍵を閉めたらポストに戻して帰る。
もう二度とここに足を踏み入れることはない。
同棲するまで料理をしたことなかったけど、琢磨さんのために一生懸命練習して、今じゃ人並みに美味しいものを作れるようになった。
柔軟剤の匂いでケンカして、お風呂に一緒に入るのをじゃんけんで争ったり、リビングでゲームバトルをして大人げない琢磨さんに泣かされて…。
全部、琢磨さんと過ごした時間はここに置いていく。
先に外に出た三浦さんに続いて玄関を抜ける直前で、誰もいない部屋に向かって「さよなら」とお別れの言葉を残した。
鍵をしめて、ずっと大事に守ってきたこの部屋の鍵を郵便受けに入れた。
コトン―――
小さな小さな音だった。
琢磨さんの浮気現場を見た瞬間は
人生最悪だと思ったけど
今、三浦さんの近くにいれて、
辛い時はすぐに気付いてくれて、
甘やかしてくれて、
優しくしてくれて、
セックスも気持ち良くて、
琢磨さんの時みたいに、【恋人同士】って
形はないけど、
今が一番幸せだよ。
ありがとうございました。
琢磨さん、
……さようなら
三浦さんから聞いた話だと、私を連れて帰るために昨日も早めに上げてもらったらしく、今日も明日に備えて閉店作業をせずに一緒に帰れることになった。
車まで一緒に歩く道のりはなぜか無言で、琢磨さんだったら気になって話題を考えてしまう沈黙が嫌じゃなかった。
車に乗り込んでやっと三浦さんが口を開いた。
「真穂は、まだあいつに未練あんの?」
支払いを済ませた車をパーキングから走らせ落ち着いた街並みを走っていく。
「……わかんない。簡単にはい、さよならってなかったことにできる恋ではないよね」
人生の中でみたら1年ちょっとの付き合いで、同棲半年、あと何年かしたら痛みもなくなる恋愛かもしれないけど、初めての彼氏で今の私には強烈な痛みを残した相手だった。
「……真穂、気分転換にドライブ行くか。明日休みもらったし」
「え、行くの?」
三浦さんは自宅に向かっていた進路を変更して、慣れた運転で車を進めていく。
行き先は決まっているみたいなので、私は窓から見える景色を眺めながら、少しだけ考え事をしていた。
景色がどんどん変わり、自然が増えてきたな―と思ったら車はどんどん坂を上って高いところを目指していく。
そこでようやくどこに連れて行こうとしているのかわかった。
円を描くように登っていく景色の途中から見える夜景はキラキラ光ってとてもきれいで、三浦さんは一番きれいな景色でみられる場所を目指して運転を続けた。
高台に辿りつくと、深夜3時を過ぎていたため夜景を見に来たのは私たちしかいない状況だった。
冬の深夜は寒いので、このまま車の中で夜景を楽しむことを選択した。
「……真穂はさ、あいつのどこに惹かれたの」
ぽつりと話した三浦さんの声が小さいのに威力があって、一瞬びくっと肩を震わせた。
どこが良かったのか、どこだっけかなーの真剣に考えてみたけど、三浦さんが納得してくれる答えを提示できそうにない。
「大人で余裕があって優しくて仕事もできてってところに惹かれたはずなのに、結局今、こんな別れ方強いられて、全然大人でもないし余裕もないし…」
「…………」
「三浦さんの方が大人だし余裕があるし優しかった。だから、三浦さんが納得できる惹かれたところが今はわからない」
「……真穂がどんなところをあげたって、俺は納得なんかできないけどね」
「え?」
真剣な目に見惚れてる間に、三浦さんが発した言葉を私は聞きとることができなかった。
「全然大人でも余裕でもないし……」
私が三浦さんの声に反応した一瞬の間に、頭の後ろに回された手が私を引きよせて、唇を重ねていた。
軽く触れるだけのキスが離れる。
目を開けた三浦さんと目線があったのは一瞬で、すぐに唇が重ねられた。
少し開いた隙間から舌が入りこみ、絡み合う濃厚なキスに変わった。
逃げても逃げても絡めてくる三浦さんの舌に、息がだんだん苦しくなってくる。
歪んでくる視界に自分が押し倒されたことに気付いた時には、シートが倒され三浦さんが自分が覆いかぶさった後だった。
行為が終わったあと、動けない私に三浦さんが優しく洋服を着せていってくれて、口に含んだ水分を口移しで飲ましてくれた。
 私が飲みこんだのを確認すると三浦さんも水分補給をした。
慣れてる、色んな意味で三浦さんは慣れている。
三浦さんからしたら2回目のセックスだけど、私は素面で経験する初めてのセックスだから、刺激が強すぎた。
「私、三浦さんと前回もこんなセックスしたの…?刺激強くて死ぬかと思った…」
「前回も真穂は感度良かったよ。まじで元カレの影響?」
結構顔が本気で、怒っているようにも読みとれたので、急いで否定の意味を込めて首を横にふる。
もう喉がカラカラで必要以上の声を出せない。
「三浦さんだから…」
そう答えるので今の私は精いっぱい。
返事がないのが気になって三浦さんの顔を見れば、嬉しそうに笑って私を見つめていた。
「またしような」
優しい触れるだけのキスを落とした三浦さんに「死んじゃうかも…」と、素直な心情を伝えたら、「手加減する」と楽しそうな声が返って来た。
バーテンダーの仕事もして夜景のドライブもしてセックスもして自宅に向かって運転している三浦さんは、まだ余裕も元気もありそうで、バケモノかも…なんて思ったのを最後に意識が途切れた。
今度は琢磨の夢は見なかった。
三浦さんとドライブに行くまではどん底だったのに、簡単に楽しい記憶で塗りかえられてしまって、三浦さんの腕の中で守られて眠る夢を見た。
温かくて安心するこの夢を、ずっと見ていたいと思った。
パチ。
急に覚醒したように目が覚めて、周りの景色に目を向けると安心できた。
「三浦さんの部屋だ…」
三浦さんを確認するように隣に視線を向けるけど、そこには誰もいなくて、触ってみるともう体温が消えて冷たい場所になっていた。
私は急いでベッドを下りて廊下をパタパタと走りリビングの扉を開けると、ダイニングテーブルで新聞とニュースを確認していた三浦さんが「おはよう」と声をかけた。
「おはよう、ございます…」
「寝れた?急に慌てた様子でこっち来たからびっくりした」
「隣に、三浦さんいると思ったらいなかったから…」
思わず口から出た言葉に恥ずかしくなって、そこから動けなくなってしまった。
三浦さんとは恋人同士じゃないのに、この言葉は重たい女だったかも…。
反応が怖くて顔をあげれない私をふわっと包んだ香りは、もう鼻が慣れた三浦さんの匂いだった。
三浦さんはぎゅーっと圧の強いハグで私を拘束して、「そんな可愛いこと言うなよ、夜まで我慢できないじゃん」なんて恐ろしいことを口にした。
私が軽い抵抗を見せるとすぐに体を離して両頬を包み込んで、優しいキスをした。
「今日も一緒に寝ような」
「昨日も一緒に寝てくれた?」
「寝たよ。寝落ちした真穂をお姫様抱っこで寝室まで運んで…」
「ほんと!?」
「嘘だよ。おんぶで連れて帰ってベッドに投げおろしたのに全然起きないから一緒に寝たんだよ」
「さいってー!最低!乱暴最低!」
なんて怒ったけど、本気で思ってないよ。
お姫様抱っこは嘘かもしれないけど、投げおろすとか乱暴なことな三浦さんはしない。
だって、三浦さんに優しくされた夢を見たもん。
「そろそろ起こそうと思ってたんだよ。あんま遅くなってから荷物取りに行くのもやだったから」
「……あ!忘れてた!」
「すぐに食べれるなら用意してある朝食あるし、先に支度するなら風呂入れるけど…」
「先に朝食食べる!お風呂は大丈夫!着替えてメイクしたらすぐに行きたい」
「……まじでいいの?俺の香水の匂いとか混じってるけど」
「関係ないもん、あんなクズ」
はっきり言いきった私がツボに入った三浦さんはお腹を抱えて笑っていたので、無視してダイニングテーブルに向い、今日も彩よく並べられた料理に手を合わせた。
今日も美味!な三浦さんの朝食を食べてる間、三浦さんも向かいに座って新聞に目を通している。
年代問わず色んな人と話ができるのは、こういったところでも手を抜かない三浦さんの真面目さもあるのかな。
支度を終えて同棲していたマンションについたのは12時を少し過ぎたあたりだった。
一応時間帯があれだから、着いたけど行ってもいいか確認とってみたら、「今日は外出してるから自由にどうぞ」と簡潔な返事がきた。
主の確認がとれたので、自分が持っている鍵で開けて三浦さんと一緒に中に入った。
いくつか用意した段ボールに自分のものを詰め込んでいく。
自分たちで運ぶのは大変そうな家具やインテリアは業者を頼んだので、まとめられそうなものは私の部屋の入り口近くにまとめた。
こうやって荷造りして見ると私個人の荷物は少なくて、2往復ぐらいで三浦さんの車に全部詰め込むことができた。
最後に部屋を一回り確認して、鍵を閉めたらポストに戻して帰る。
もう二度とここに足を踏み入れることはない。
同棲するまで料理をしたことなかったけど、琢磨さんのために一生懸命練習して、今じゃ人並みに美味しいものを作れるようになった。
柔軟剤の匂いでケンカして、お風呂に一緒に入るのをじゃんけんで争ったり、リビングでゲームバトルをして大人げない琢磨さんに泣かされて…。
全部、琢磨さんと過ごした時間はここに置いていく。
先に外に出た三浦さんに続いて玄関を抜ける直前で、誰もいない部屋に向かって「さよなら」とお別れの言葉を残した。
鍵をしめて、ずっと大事に守ってきたこの部屋の鍵を郵便受けに入れた。
コトン―――
小さな小さな音だった。
琢磨さんの浮気現場を見た瞬間は
人生最悪だと思ったけど
今、三浦さんの近くにいれて、
辛い時はすぐに気付いてくれて、
甘やかしてくれて、
優しくしてくれて、
セックスも気持ち良くて、
琢磨さんの時みたいに、【恋人同士】って
形はないけど、
今が一番幸せだよ。
ありがとうございました。
琢磨さん、
……さようなら
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