捕まった子犬、バーテンダーに愛される?【完結】
カクテル3/優しいオオカミさん
『真穂って純粋で新鮮だよな』
初めて一緒にご飯を食べにいった居酒屋で、お酒を飲んでほろ酔い気味の琢磨さんが笑かけた顔にきゅんとした。
『そんなとことが可愛いんだよ』
全然琢磨さんのツボがわからないけど、抱き寄せて優しいキスをくれる琢磨さんに胸がときめいた。
『何か困ったら、自分で抱えず頼れよ。俺が近くにいんだろ』
残業中、ついに限界来てデスクで泣いていた私に気づいて抱き寄せて、頼れって言ってくれた琢磨さん。
『え、まじ?真穂初めてなの?…すっげー嬉しい、大事にする、痛くしないように気をつけるから…』
初めて琢磨さんの部屋でそういう行為をするときになって、耐えきれずにカミングアウトしたら、優しく優しく壊れものを大事に扱うように、大切に奪ってくれた。
こんなに夢の中の琢磨さんは優しくて幸せでいれるのに、なんで、現実は苦しくて辛いの?
琢磨さん…苦しいよ、なんで、浮気したの…?
「ん…っ」
目を刺激する光と頭を殴られているような痛みで目を覚ますと、私はいつの間にかベッドの上にいた。
だけど、周りの景色は見慣れないものばかりで私の部屋じゃないし、置かれているインテリアや配色から男の人の部屋に見える。
直に触れる冷気に身ぶるいして、腕を体に巻きつけて気付いた。
「……全裸、」
しかも、胸の周りには身に覚えのないキスマークがいくつも付けられていて、恐る恐る視線を下に向けると、散らばって床に落ちている私の洋服たちに混じる、男の人の服。
隣に眠る人を見つけて思考がついに止まった。
「きゃああああああ!」
私の叫び声に反応して目を覚ました相手は、バーテンダーの三浦さんだった。
三浦さんはまだ寝ぼけてる様子でうつ伏せの状態から体を起して頭を抑えながら私を見る。
その時にはだけたシーツから見えたのは、引き締まった筋肉質な胸元と、下半身に続くきれいなラインは私と同じ全裸だった。
「……なんで、どういうこと…?」
「なんでって、セックスしたから」
「え……」
三浦さんが気にすることなく発した言葉はとんでもない威力を持っていた。
何も覚えていないのに、私の蜜口が濡れた感触がした。
「本当にしたんですか…?」
「覚えてない?」
「……はい」
「真穂の左の太もも付け根に小さなホクロと、腰に三角形のほくろがある」
「ななななな…!」
「あと、真穂はバックから突かれるのが好きらしい。元カレの趣味?」
「もう信じるからちょっと待って!」
顔が真っ赤になっているのがわかるほど動揺していた。
次々に三浦さんが話すことは全部合ってるし真実!だけど、刺激が強すぎるので待ってほしい!
み、見られたってこと!?セックスしたってこと!
私、何にも覚えてないのに…?
「真穂が昨日自棄酒して店でつぶれて、同棲している彼氏のところに帰れないだろうからってオーナーが先に上がらせてくれたから真穂を連れて帰って」
「なんでこんなことに…?」
「…真穂が、琢磨って泣くから」
「え……」
「夢でも元カレに泣かされてんのにムカついて、イライラして。キスしたら元カレと間違えて応えてきたからそのままセックスした」
「なんで、そうなるの!三浦さんのバカ!」
私は床に散らばった服をかき集めてトイレに駆け込み閉じこもった。
どうしようどうしよう!どうしてこうなっちゃうの!
昨日に引き続き今日まで取り返しのつかないことになっちゃって、もう琢磨さんのところに戻れないかもしれない。
不安で泣きそうになっていると、トイレのドアをノックする音に三浦さんの声が続いた。
「真穂、まだ6時半だからシャワー浴びて支度すれば会社間に会おうから。洗面所にタオルとか用意した。メイク道具とか持ってる?」
「お直し程度のコスメならあると思う…」
「簡単なスキンケアと足りないコスメ買ってくるから、俺が出たらシャワー浴びに行けよ」
そう声をかけて、三浦さんは本当に出かけたみたいで、鍵を閉めて歩いていく足音が聞こえた。
私はそーっと扉を開けて一応周りを確認してから、間取り的にありそうな場所に歩いていくと洗面所とお風呂場を発見して、好意に甘えてシャワーを浴びる。
三浦さんの家はシンプルで清潔感があって無駄がない。
モノトーンとウッド調で統一されていて、意外にも女性物のアイテムが一個も置いてなくて、三浦さんが普段使っているシャンプーたちを借りることにした。
二日酔いの体に熱い体は強い刺激だけど、頭をすっきりするにはもってこいだった。
頭では覚えてないはずなのに、体に残る倦怠感と違和感の正体に心当たりがあるので、三浦さんとのセックスが生々しく実感されてきた。
色んなことを洗い流したくなって念入りに体を洗って外に出ると、ちょうど帰宅した三浦さんの「ただいまー」が聞こえてきた。
そのまま一直線に私のいる浴室まで来た三浦さんは「真穂、開けるぞ」と私の返事を確認せずに本当に開けた。
「きゃッ!なんで返事する前に開けるの!?」
「すぐ使いたいだろ?」
買ってきた袋を私に渡して、三浦さんも衣類を全部脱いで後ろの浴室に消えていった。
少しすると、シャワーを流す音が聞こえてきて、三浦さんも一緒に支度をするみたい。
渡された袋の中を確認すると、新品の下着とストッキングとメイク落としとスキンケア一式に下地が入っていた。
やっぱり慣れてる?
三浦さんの職業的に女の人と出会う機会だって多いし、女性物がないからって女の人がいないわけでもないと思う。
現に、同棲している彼女がいるのに連れ込んで浮気する男もいるわけだし。
私は先に服を来てからメイクを落としてスキンケアをその場でして、ある程度支度が落ち着いてからリビングに戻った。
私がリビングに戻るころに三浦さんもちょうど出てきたから、急いで逃げるように洗面所を後にした。
私のバッグはリビングの真ん中にあるローテーブルの上に置かれていて、バッグの中からメイクポーチを取り出しメイクにとりかかる。
洋服を着た三浦さんがリビングを抜けてキッチンに行き、料理を始める音が聞こえてきた。
「三浦さん、こんな時間に起きてることもあるの?」
「いつもは帰宅がこの時間かな。店に残って練習したり後輩の様子見たりしてると始発組と残ってることも多いし」
「そうなんだ…いつもお店が終わるのも2時とかで遅いもんね」
三浦さんとはお店以外で会うこともこうやって過ごすのも初めてでプライベートは全然知らなかった。
実は、私のいとこのお姉ちゃんと三浦さんが同級生で、私の二十歳の誕生日のお祝いにRedMoonに連れてきてくれたのをきっかけに三浦さんと出会った。
メイクも完成、髪の毛は簡単にひとつに束ねて終わりにして、キッチンで料理をする三浦さんを見に行くと、彩きれいなサラダにオムレツ、トーストのおしゃれ朝食がテーブルに並べられていた。
「さすが三浦さん!手際いいね!見た目もきれい!」
barに行くまで、バーテンダーさんのお仕事ってお酒を作ることがメインの仕事だと思ってたんだけど、地味に洗い物も多いし、RedMoonは軽食もメニューにあるから三浦さんも作ることが多い。
お酒もうまいし料理もうまいし話もうまいって、パーフェクトなバーテンダーさんって三浦さん以外いない気がする。
しかも、三浦さんは高身長のモデルスタイルに整ったイケメン顔。三浦さん目当ての女性のお客様も実際に多いし。
2皿ずつ用意されてるから、きっと私の分もある!と解釈して三浦さんの向かいの席に座ると、ミルク多めのコーヒーを置いてくれた。
「三浦さんありがとう!いただきます!」
手を合わせて用意された朝食を口に含むと、すっっごい美味しい!
三浦さんが私の様子を見ていることなんて気づかず、私は夢中で朝食を味わった。
「すっごく美味しい!三浦さんはなんでもできるね」
「ありがとうございます」
意地悪く笑いながらブラックコーヒーを口に含む。
いつもはセットされてる髪が今日は無造作に下ろされていて、初めて見る前髪がある三浦さんのギャップに少しだけドキッとした。
三浦さん、髪の毛下ろしてるといつもより幼く見える。
髭も薄いし肌もきれいだから、余計に実際の年齢よりも若く見られるんだろうな。
「いいね、三浦さんちに泊まれば豪華な朝食付きだね」
お泊りいいかも~なんて暢気に言ってた私は一瞬見せた三浦さんの男の目に見られた気がしてドキッとした。
おかしい、昨日のことは覚えてないはずなのに、なんでか三浦さんの目線や手を意識してドキドキしてくる。
「お代は体で払ってもらいますが、それでも良ければいつでもお泊りください、姫」
「もう嫌です!もう自棄酒しないし、お泊りもしないから大丈夫!」
「えー残念」
とかいいながら、面白がってからかってるのが見え見えです。
朝食を食べ終わると出社にちょうどいい時間になっていたから、三浦さんに申し訳ないけど洗いものとか任せてマンションを出ようと思っていた。
「三浦さんありがとう!ごめん、洗いものも何にもできてないんだけど、そろそろ会社に行きたくて…」
「ん、いいよ。先に玄関行ってて」
駅まで案内してくれるのかな?なんて思ってたら、ライダースを着た三浦さんがブーツを履いて、私の後に続いて外にでた。
「駅まで案内してくれるの?」
「うんん、会社まで送ってくよ」
「え、どうやって?」
「バイク」
「え……」
その場で立ち止まった私に気付いた三浦さんは腕を掴んで、抵抗も文句もさせてくれず、三浦さんのバイクが置かれている駐輪場まで連れてきた。
「怖い!怖い…!無理!」
その場で踏ん張って抵抗する私にしびれを切らした三浦さんは抱き上げて、無理やりバイクの後部座席に座らせると、スポッとヘルメットをかぶせた。
三浦さんもバイクに股がりヘルメットを被るとエンジンをかけるので、私はもう覚悟を決めるしかなかった。
「怖い怖い怖い…」
と何度もつぶやく私に「怖いならしっかり捕まっとけ」と腰に腕を回させて、ゆっくりとバイクを走らせた。
三浦さんの腰は見た目以上に締まっていて、固かった。
バイクは風を切って走るから体に当たる部分は寒く感じるのに、三浦さんの背中に触れている部分は温かく感じた。
意外とこの時間が心地よくて、琢磨さんとだったら味わえない貴重な体験だった。
怖いと思ってたバイクも全然怖くなくて、余裕を持って会社の前まで来れたことに感謝しかなかった。
「三浦さんありがとう!時間に余裕もあって助かったよ」
三浦さんの腰から腕を離し、三浦さんの腕を掴んで、高さのあるバイクから地面に降りた。
被っていたヘルメットを三浦さんに渡すと、暗い視界の中でも私を見つめる三浦さんの目線に気付いた。
顔を隠してもイケメンであることまで隠しきれないみたいで、周りの女性社員の目線を集め出していた。
三浦さんはそんなことを気にする様子もなく「帰りも迎えにくるから持ってろ」と私にヘルメットを返してきた。
「え…、でも、三浦さん仕事あるのに…」
「じゃあ真穂は今日どこに帰んの?」
「あ、」
そうだ、まだ琢磨と話ができていない今、今度のことがどうなるのか全然わかんない状況だった。
「正直、今の状況でそんなクソ野郎のところに真穂を返すつもりないから、必ず迎えにくる。まってて」
「……うん、わかった。ありがと三浦さん、18時には帰れると思うから、頼みます」
三浦さんに軽く頭を下げると、優しい手つきで私の頭を撫でて、「がんばれよ」と言葉を残して去っていった。
残された私は周りの興味津々といった視線を受け取らないように顔を下に向けて会社のビルに入っていった。
やっと落ち着いて鞄の中からスマホを探して取り出すと、かろうじて充電が残っていて、急いでポータブル充電器と繋いで、琢磨からの連絡が入っていないか確認した。
着信は1件も入っていなかった。
次にラインを開いて確認すると、琢磨さんからの通知が入っていた。
昨日、話なら明日聞くからって言ってた。
だから、急な別れ話とかじゃないよね?
嘘でもなんでも信じるから、浮気の言いわけの連絡だよね?
なんて、昨日のあんなことがあっても、優しい琢磨さんを忘れられずに期待したバカな私は簡単にどん底まで落とされた。
琢磨さんからのラインは、謝罪も言いわけもなく、私と琢磨さんの関係を終わらせる言葉だった。
『別れてほしい。彼女と同棲したいから早く荷物を取りに来て、出ていってほしいんだけど、いつ頃出ていける?』
今までも琢磨さんとは思えない文面に、顔面を殴られたように視界が歪んだ。
こんな一瞬で、初めての彼氏も帰る場所もなくなるの?
恋愛初心者の私には、これを乗り越える自信が、ない…。
初めて一緒にご飯を食べにいった居酒屋で、お酒を飲んでほろ酔い気味の琢磨さんが笑かけた顔にきゅんとした。
『そんなとことが可愛いんだよ』
全然琢磨さんのツボがわからないけど、抱き寄せて優しいキスをくれる琢磨さんに胸がときめいた。
『何か困ったら、自分で抱えず頼れよ。俺が近くにいんだろ』
残業中、ついに限界来てデスクで泣いていた私に気づいて抱き寄せて、頼れって言ってくれた琢磨さん。
『え、まじ?真穂初めてなの?…すっげー嬉しい、大事にする、痛くしないように気をつけるから…』
初めて琢磨さんの部屋でそういう行為をするときになって、耐えきれずにカミングアウトしたら、優しく優しく壊れものを大事に扱うように、大切に奪ってくれた。
こんなに夢の中の琢磨さんは優しくて幸せでいれるのに、なんで、現実は苦しくて辛いの?
琢磨さん…苦しいよ、なんで、浮気したの…?
「ん…っ」
目を刺激する光と頭を殴られているような痛みで目を覚ますと、私はいつの間にかベッドの上にいた。
だけど、周りの景色は見慣れないものばかりで私の部屋じゃないし、置かれているインテリアや配色から男の人の部屋に見える。
直に触れる冷気に身ぶるいして、腕を体に巻きつけて気付いた。
「……全裸、」
しかも、胸の周りには身に覚えのないキスマークがいくつも付けられていて、恐る恐る視線を下に向けると、散らばって床に落ちている私の洋服たちに混じる、男の人の服。
隣に眠る人を見つけて思考がついに止まった。
「きゃああああああ!」
私の叫び声に反応して目を覚ました相手は、バーテンダーの三浦さんだった。
三浦さんはまだ寝ぼけてる様子でうつ伏せの状態から体を起して頭を抑えながら私を見る。
その時にはだけたシーツから見えたのは、引き締まった筋肉質な胸元と、下半身に続くきれいなラインは私と同じ全裸だった。
「……なんで、どういうこと…?」
「なんでって、セックスしたから」
「え……」
三浦さんが気にすることなく発した言葉はとんでもない威力を持っていた。
何も覚えていないのに、私の蜜口が濡れた感触がした。
「本当にしたんですか…?」
「覚えてない?」
「……はい」
「真穂の左の太もも付け根に小さなホクロと、腰に三角形のほくろがある」
「ななななな…!」
「あと、真穂はバックから突かれるのが好きらしい。元カレの趣味?」
「もう信じるからちょっと待って!」
顔が真っ赤になっているのがわかるほど動揺していた。
次々に三浦さんが話すことは全部合ってるし真実!だけど、刺激が強すぎるので待ってほしい!
み、見られたってこと!?セックスしたってこと!
私、何にも覚えてないのに…?
「真穂が昨日自棄酒して店でつぶれて、同棲している彼氏のところに帰れないだろうからってオーナーが先に上がらせてくれたから真穂を連れて帰って」
「なんでこんなことに…?」
「…真穂が、琢磨って泣くから」
「え……」
「夢でも元カレに泣かされてんのにムカついて、イライラして。キスしたら元カレと間違えて応えてきたからそのままセックスした」
「なんで、そうなるの!三浦さんのバカ!」
私は床に散らばった服をかき集めてトイレに駆け込み閉じこもった。
どうしようどうしよう!どうしてこうなっちゃうの!
昨日に引き続き今日まで取り返しのつかないことになっちゃって、もう琢磨さんのところに戻れないかもしれない。
不安で泣きそうになっていると、トイレのドアをノックする音に三浦さんの声が続いた。
「真穂、まだ6時半だからシャワー浴びて支度すれば会社間に会おうから。洗面所にタオルとか用意した。メイク道具とか持ってる?」
「お直し程度のコスメならあると思う…」
「簡単なスキンケアと足りないコスメ買ってくるから、俺が出たらシャワー浴びに行けよ」
そう声をかけて、三浦さんは本当に出かけたみたいで、鍵を閉めて歩いていく足音が聞こえた。
私はそーっと扉を開けて一応周りを確認してから、間取り的にありそうな場所に歩いていくと洗面所とお風呂場を発見して、好意に甘えてシャワーを浴びる。
三浦さんの家はシンプルで清潔感があって無駄がない。
モノトーンとウッド調で統一されていて、意外にも女性物のアイテムが一個も置いてなくて、三浦さんが普段使っているシャンプーたちを借りることにした。
二日酔いの体に熱い体は強い刺激だけど、頭をすっきりするにはもってこいだった。
頭では覚えてないはずなのに、体に残る倦怠感と違和感の正体に心当たりがあるので、三浦さんとのセックスが生々しく実感されてきた。
色んなことを洗い流したくなって念入りに体を洗って外に出ると、ちょうど帰宅した三浦さんの「ただいまー」が聞こえてきた。
そのまま一直線に私のいる浴室まで来た三浦さんは「真穂、開けるぞ」と私の返事を確認せずに本当に開けた。
「きゃッ!なんで返事する前に開けるの!?」
「すぐ使いたいだろ?」
買ってきた袋を私に渡して、三浦さんも衣類を全部脱いで後ろの浴室に消えていった。
少しすると、シャワーを流す音が聞こえてきて、三浦さんも一緒に支度をするみたい。
渡された袋の中を確認すると、新品の下着とストッキングとメイク落としとスキンケア一式に下地が入っていた。
やっぱり慣れてる?
三浦さんの職業的に女の人と出会う機会だって多いし、女性物がないからって女の人がいないわけでもないと思う。
現に、同棲している彼女がいるのに連れ込んで浮気する男もいるわけだし。
私は先に服を来てからメイクを落としてスキンケアをその場でして、ある程度支度が落ち着いてからリビングに戻った。
私がリビングに戻るころに三浦さんもちょうど出てきたから、急いで逃げるように洗面所を後にした。
私のバッグはリビングの真ん中にあるローテーブルの上に置かれていて、バッグの中からメイクポーチを取り出しメイクにとりかかる。
洋服を着た三浦さんがリビングを抜けてキッチンに行き、料理を始める音が聞こえてきた。
「三浦さん、こんな時間に起きてることもあるの?」
「いつもは帰宅がこの時間かな。店に残って練習したり後輩の様子見たりしてると始発組と残ってることも多いし」
「そうなんだ…いつもお店が終わるのも2時とかで遅いもんね」
三浦さんとはお店以外で会うこともこうやって過ごすのも初めてでプライベートは全然知らなかった。
実は、私のいとこのお姉ちゃんと三浦さんが同級生で、私の二十歳の誕生日のお祝いにRedMoonに連れてきてくれたのをきっかけに三浦さんと出会った。
メイクも完成、髪の毛は簡単にひとつに束ねて終わりにして、キッチンで料理をする三浦さんを見に行くと、彩きれいなサラダにオムレツ、トーストのおしゃれ朝食がテーブルに並べられていた。
「さすが三浦さん!手際いいね!見た目もきれい!」
barに行くまで、バーテンダーさんのお仕事ってお酒を作ることがメインの仕事だと思ってたんだけど、地味に洗い物も多いし、RedMoonは軽食もメニューにあるから三浦さんも作ることが多い。
お酒もうまいし料理もうまいし話もうまいって、パーフェクトなバーテンダーさんって三浦さん以外いない気がする。
しかも、三浦さんは高身長のモデルスタイルに整ったイケメン顔。三浦さん目当ての女性のお客様も実際に多いし。
2皿ずつ用意されてるから、きっと私の分もある!と解釈して三浦さんの向かいの席に座ると、ミルク多めのコーヒーを置いてくれた。
「三浦さんありがとう!いただきます!」
手を合わせて用意された朝食を口に含むと、すっっごい美味しい!
三浦さんが私の様子を見ていることなんて気づかず、私は夢中で朝食を味わった。
「すっごく美味しい!三浦さんはなんでもできるね」
「ありがとうございます」
意地悪く笑いながらブラックコーヒーを口に含む。
いつもはセットされてる髪が今日は無造作に下ろされていて、初めて見る前髪がある三浦さんのギャップに少しだけドキッとした。
三浦さん、髪の毛下ろしてるといつもより幼く見える。
髭も薄いし肌もきれいだから、余計に実際の年齢よりも若く見られるんだろうな。
「いいね、三浦さんちに泊まれば豪華な朝食付きだね」
お泊りいいかも~なんて暢気に言ってた私は一瞬見せた三浦さんの男の目に見られた気がしてドキッとした。
おかしい、昨日のことは覚えてないはずなのに、なんでか三浦さんの目線や手を意識してドキドキしてくる。
「お代は体で払ってもらいますが、それでも良ければいつでもお泊りください、姫」
「もう嫌です!もう自棄酒しないし、お泊りもしないから大丈夫!」
「えー残念」
とかいいながら、面白がってからかってるのが見え見えです。
朝食を食べ終わると出社にちょうどいい時間になっていたから、三浦さんに申し訳ないけど洗いものとか任せてマンションを出ようと思っていた。
「三浦さんありがとう!ごめん、洗いものも何にもできてないんだけど、そろそろ会社に行きたくて…」
「ん、いいよ。先に玄関行ってて」
駅まで案内してくれるのかな?なんて思ってたら、ライダースを着た三浦さんがブーツを履いて、私の後に続いて外にでた。
「駅まで案内してくれるの?」
「うんん、会社まで送ってくよ」
「え、どうやって?」
「バイク」
「え……」
その場で立ち止まった私に気付いた三浦さんは腕を掴んで、抵抗も文句もさせてくれず、三浦さんのバイクが置かれている駐輪場まで連れてきた。
「怖い!怖い…!無理!」
その場で踏ん張って抵抗する私にしびれを切らした三浦さんは抱き上げて、無理やりバイクの後部座席に座らせると、スポッとヘルメットをかぶせた。
三浦さんもバイクに股がりヘルメットを被るとエンジンをかけるので、私はもう覚悟を決めるしかなかった。
「怖い怖い怖い…」
と何度もつぶやく私に「怖いならしっかり捕まっとけ」と腰に腕を回させて、ゆっくりとバイクを走らせた。
三浦さんの腰は見た目以上に締まっていて、固かった。
バイクは風を切って走るから体に当たる部分は寒く感じるのに、三浦さんの背中に触れている部分は温かく感じた。
意外とこの時間が心地よくて、琢磨さんとだったら味わえない貴重な体験だった。
怖いと思ってたバイクも全然怖くなくて、余裕を持って会社の前まで来れたことに感謝しかなかった。
「三浦さんありがとう!時間に余裕もあって助かったよ」
三浦さんの腰から腕を離し、三浦さんの腕を掴んで、高さのあるバイクから地面に降りた。
被っていたヘルメットを三浦さんに渡すと、暗い視界の中でも私を見つめる三浦さんの目線に気付いた。
顔を隠してもイケメンであることまで隠しきれないみたいで、周りの女性社員の目線を集め出していた。
三浦さんはそんなことを気にする様子もなく「帰りも迎えにくるから持ってろ」と私にヘルメットを返してきた。
「え…、でも、三浦さん仕事あるのに…」
「じゃあ真穂は今日どこに帰んの?」
「あ、」
そうだ、まだ琢磨と話ができていない今、今度のことがどうなるのか全然わかんない状況だった。
「正直、今の状況でそんなクソ野郎のところに真穂を返すつもりないから、必ず迎えにくる。まってて」
「……うん、わかった。ありがと三浦さん、18時には帰れると思うから、頼みます」
三浦さんに軽く頭を下げると、優しい手つきで私の頭を撫でて、「がんばれよ」と言葉を残して去っていった。
残された私は周りの興味津々といった視線を受け取らないように顔を下に向けて会社のビルに入っていった。
やっと落ち着いて鞄の中からスマホを探して取り出すと、かろうじて充電が残っていて、急いでポータブル充電器と繋いで、琢磨からの連絡が入っていないか確認した。
着信は1件も入っていなかった。
次にラインを開いて確認すると、琢磨さんからの通知が入っていた。
昨日、話なら明日聞くからって言ってた。
だから、急な別れ話とかじゃないよね?
嘘でもなんでも信じるから、浮気の言いわけの連絡だよね?
なんて、昨日のあんなことがあっても、優しい琢磨さんを忘れられずに期待したバカな私は簡単にどん底まで落とされた。
琢磨さんからのラインは、謝罪も言いわけもなく、私と琢磨さんの関係を終わらせる言葉だった。
『別れてほしい。彼女と同棲したいから早く荷物を取りに来て、出ていってほしいんだけど、いつ頃出ていける?』
今までも琢磨さんとは思えない文面に、顔面を殴られたように視界が歪んだ。
こんな一瞬で、初めての彼氏も帰る場所もなくなるの?
恋愛初心者の私には、これを乗り越える自信が、ない…。
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