異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

92.除去及び駆除、始動

キラキラ。キラキラと。蒼く幻想的な煌めきを放つ神聖な泉。透き通った水は深い蒼の闇を生み出し、澄み渡った空気を作り出していた。いつか見た、黒く淀み濁った水ではない。








そこは、神の眠る場所に相応しい場所だった。








《依織よ》






「さすがに緊張するわね」






《大丈夫だ、何も案ずることはない》








足元に座る始音と終歌。蒼い目と赤い目が私の心を落ち着かせる。この場に居るのは私たちだけで、お兄ちゃんたちはシバルヴァの駆除に向かった。シヴァ様は守りの薄い城と蒼の離宮に集中するべく、今日は執務はお休みしている。








《今日で片を付けるとは、無茶苦茶ではないか?》






「まあね。でも、何日も掛けて片を付けるよりは良いの。ドラゴンたちや白帝が持たないからね」






《だが、守りの薄さを考えると…》






「守りが薄く出来るのは今日だけ。だから、前皇帝も出ているし、休暇中や引退した騎士や魔術師までもを駆り出して、シバルヴァの駆除に取り掛かってるの。お兄ちゃんが国を見通しているから、シバルヴァの見落しもない」








万が一、シバルヴァを一株でも見落としていれば、私のすることは無意味になる。シバルヴァは繁殖力が非常に高い。一株だったのが一晩で百株を越えるときもあるのだ。








お兄ちゃんはそれを知っているから、国全体に意識を広げ指示を出す役を買って出た。お兄ちゃんとドイル副団長が協力して、シバルヴァの発見と指示を行っている。








国を挙げて、シバルヴァの駆除をやらねばならない。そして、私が国中のシバルヴァの毒を取り除く。マスクをしていても、毒は空気に混じって吸い込んでしまう。そうなれば、解毒する術はなく死を待つのみ。そうなる前に、私が取り除くのだ。








「そろそろね」






《身を任せよ。何かがあれば我等が守る》






《そうだぜ、だから何も気にしなくて良い》








取り除く合図は始音が勤める。そして、私が取り除き始めて5分が経過した時、終歌が駆除の合図を出す。みんなが、息を潜めて合図を待つ。








「よろしくね、始音、始音」








目を閉じて深呼吸をひとつ、ふたつ。私は独りじゃない。始音と終歌が私を守ってくれる。シバルヴァは皆が駆使してくれる。これが終わったら、シヴァ様に任せて大丈夫。大丈夫だから。何も、気にしなくて良い。








ひたひたと、己の中に満ちてくる水。天上から降り注ぐ暖かな光。澄んだ空気も、流れる水の音も、すべてを己の内に取り込む。足元に突き刺した白帝の剣と、右手で柄を握り締め眼前に翳す黒帝の剣。神の子たちがこれまで使い続けてきた物。僅かに感じる神気。








「ーーさぁさぁ来たれ、神の国に根付く花野の毒よ」








失敗は、死は、私には恐れるに足りないのだ。私は神童と呼ばれ、最強の軍人として世界に名を轟かせたグレイアスの娘で、双帝がひとり黒帝シュヴァルツの懐刀だ。








「ーーさぁさぁ来たれ、この国を染める存在しない物の毒花よ」








鞘から抜いた抜き身の刃。諸刃のそれは、蒼の闇のなかで美しく輝きを放つ。幾多数多の血を啜り、この国を建国の時から守ってきた。皇帝の武器として。戦場で味方を鼓舞する物として。








それを、毒で染める。そのあと、私が毒を異物として浄化する。ルシエラ様に頼んだのは、これを行う為だ。もし私が直接取り除いた場合、間違いなく私は死に至る。だが、神器とまではいかずと、国宝の中の国宝をクッションで挟むと違うと思う。毒の効果は薄れ、穢れに遷移する。多分。








まあ、そんなこんなで、死にはしないと思う。例え寝込んで、穢れに魘されたとしても死ななきゃ良い。








白帝とドラゴンたち、そしてこの国を守れるなら。少しぐらい寝込むのは厭わない。







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