異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

86.叔父の怒り

席に着いたノルエルハ。それにならって、立ちっぱなしだった私たちも席に着く。やっと落ち着いて会議が出来る。目の前に置かれた黒帝の剣は、艶々していてうっとりする。あぁ、武器だけじゃなくて鑑賞物としての剣としても最高だよなあ。








「灰も残さず燃やすことが駆除方法として一番良いんですか?」






「あの花は存在するだけで毒だからね。上手く話を逸らしたつもりかい、ロベルト」






「…すみません」






「ふふ、それで?イオが命懸けで毒を取り除くのは分かったけど、隣国への対処はどうするのかな?」








視線が私に集まった。冷え冷えとしたノルエルハの金と銀の瞳が私を捕らえる。思考が止まるのも一瞬のことで、ノルエルハが何を言ったか即座に理解する。








「ノルエルハ、命懸けだなんて」






「対象物が多いうえに、取り除かなければならない相手は白帝とドラゴンだよ?体力も精神力も削られる。シキや黒帝たちは短期戦だと思っているんだよ?」






「短期戦ではないですけど、私が取り除くことに取りかかっている間は、何も気にしなくて良いと伺っているので、短期戦だろうが長期戦だろうが陛下たちに関係ないですよ」






「もしそのまま死ぬことがあれば?」






「愛しい兄妹がいるので、こんな所で死ぬ気はさらさらありませんが」








一応、騎士大公爵として来ているから敬語を交えて話す。心配してくれていることは痛いぐらいに分かる。分かるけど、これ取り除くしか方法はないのだ。解毒剤を開発するのは至難の技。ならば、確実に取り除くことが出来る私がするしかない。








「ノルエルハの心配は嬉しいです。私は死にません。グレイアスの、父の力が私を殺すなんてありえないから」






「…死んだらどうするの」






「死にませんって何回言わせるんですか。それよりも、シバルヴァの駆除はいかがなさるんですか?」






「騎士と魔術師たちを国中に散らして燃やすことが、一番手っ取り早いかと」








私の言葉に答えたのはジェラール団長。マリベル様との冷戦は落ち着いたのか、マリベル様もジェラール団長の言葉に頷いた。








「それが早いな。ジェラールはマリベルと編成を組んでくれ。城は俺が守るから、使える者はすべて駆り出して殲滅を。ロベルトは文官を数名連れて仕事の調節を頼む」






「はっ」 






「御意」






「シキも不安だろうが殲滅に掛かってくれ」






「はい」






「大叔父上は、隣国の件を」






「…あぁ、お隣ね」








シヴァ様の素早い指示に、蜘蛛の子を散らしたようにそれぞれが動き出した。お兄ちゃんは、私の頭を一撫でして出ていった。頼んだぞってところだろうか。久しぶりに撫でて貰ったなあ。






「リーリンはあの国に未練はないと」






「それは、潰しても良いと?」






「あぁ。元々、あの子は側室にすら認めてもらえなかった侍女の娘だ。僕に嫁いだのだって、王女は仮の称号だからね」








向こうは下心が見えていたけど、と続けたノルエルハの瞳には影が掛かっていた。それは憤り。自分の妻に対してされていたことに対して。








ノルエルハは、自分がどうこう言われるのはかまわない。けれど、懐に入れた者を他人にとやかく言われると殺してくれと乞われるぐらい怒る。隣国は、もうすでにノルエルハに対して喧嘩を売っていたのだ。

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