異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

81.嫌な予感

そう呟いたのはお兄ちゃんだった。そうだ、この人はなんでこのタイミングで帰って来たんだっけ?首を傾げる我が兄を見つめる。








限りなく軽装で、本当に丸腰で、いつものようにやる気のなさそうな顔をして、銀の瞳だけは悠然と煌めいている。うん、お兄ちゃんだ。お兄ちゃんなんだけどさ、お兄ちゃん特有の嫌な案件を持って来ているような、ないような。








「ーーー実はさあ、勇者(笑)が隣国で精霊の愛し子って祀り上げられてるんですな」






「ですな、ってオイ」






「確かに色そのものは精霊の愛し子のものなんですけどね、バカばっかりだから」






「うちの可愛い双子が偽者扱いされたんだね」








アハハハハ、そう!と濁りきった笑みを浮かべたお兄ちゃん。疲れているうえに怒っているらしい。可愛い双子を陥れるつもりなのかーーーーちょっと待て?








「もしかして、のもしかして」






「大いにありえるよなァ、依織チャン?」






「無くはない可能性だけど…」








隣国の方々は、私たち桜咲兄妹を陥れようとしてんの?本当にありえなくはない。まず、陥れられる理由が分からないけど。まだ国単位で恨みは買っていない筈だ。








「その勇者な、多分お前の後輩になるかもしれないが、心当たりあるか?」






「後輩?後輩が勇者(笑)って恥ずかしくない?名前は?」






「希一莉乃」






「あー…あー…あー…アイツかあ。後輩も後輩。学生時代の後輩で、軍人時代の後輩でもある」






「恨まれてんのか?」






「…そりゃあ、あの子は時雨のストーカーだったし。私のこと嫌ってたわよ」








嫌な子だったんだよなあ。時雨さんは貴女から解放されたがってる云々言われたっけ。事あるごとに、私に突っ掛かって来てた子だった。だから、隣国の人たちが私の存在を吹き込んだりしたら、こんな事態になるかもしれないな。








「軍人時代の後輩っつうことは、丸っきりか弱い少女でもないんだな」






「植物女よ、普通に弱くない。ちょっとまあ、頭は弱いみたいだけど」






「植物女?そんなやつ居たか?」






「居た居た。植物を自在に操る奴が……んぇ?」






「植物を自在に操るやーつー…ん?」








私とお兄ちゃんが顔を見合わせてから、話に着いてこれなかったシヴァ様とロベルト様を見やった。二人もお互いを見合わせてから、私たちを見た。








なるほど、私たちは喧嘩を売られたんですね。









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