異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。
64.その認識を改めよ
「なかなか言うな、この娘は」
「でしょう?」
前皇帝の声は、思いのほか低くて威厳に溢れていた。金と銀の目を細めて私を見てくる。白帝やシヴァ様とは違う色味のあるそのオッドアイは、どことなく父さんやノルエルハに似ていた。皇位継承者である証の一つ目は金と銀のオッドアイ、二つ目は容姿に黒白を持つこと。双帝の様にオッドアイで且つ黒白を保持する継承者が現れるのは何百年ぶりらしいから、皇族の血を引き金目と銀目さえ保持しておけば皇帝にもなれるのはまあ、当然の摂理なのだろう。
この一族、穏やかそうに見えて実に皇位継承者争いが絶えなさそうな一族である。
「だが、あの娘の言うことも一理あると思うがな」
「――…というと?」
「私の威厳がないと婚約できないなんて、まことに情けないぞ。好いた女の一人や二人、手の平で転がさねばなあ?」
「…」
一オクターブ声が低くなった白帝。そして、止めを刺す様な前皇帝の冷ややかな言葉。ほう、この事態は前皇帝も知らなかったのか。白帝よ、アンタどうなってんだ。
「それに、忙しい筈の騎士団長や魔術師団長まで呼び出しおってからに。お前は、あの小娘に反撃されると手も足も出ないのか?」
「…父でも、言って良いことと悪いことがありますよね」
「そうさな。でも、お前も同じことをこやつらにしておる」
ニヤリと笑う前皇帝。あ、やっぱり双帝と親子だわ。私、この人のブラックリストに名を挙げているらしいから、即刻取り下げを願いたい。前皇帝だからってナメてかかると酷い目にあうヤツだ。ナメてた。認識を改めたいと思う。
「…分かりました。こんなことで呼び出したりしてごめんね、みんな」
「下がって良いぞ。バカ息子の我が儘に付き合わされてたら、いつになっても仕事が終わらんからな」
「それでは失礼します」
一番先に下がったのは、ジェラール団長。貴方、そういう所ではあっさりしてるんですね。次いで、マリベル様とロベルト様が下がった。お兄ちゃんとシヴァ様は残っている。何か用事でもあるのかな。私も一緒に下がろうと、頭を下げて背を向けたのだが
「これこれ、お主まで下がってどうするや」
「え…」
「お主が根源ぞ?」
「えぇー…」
諸悪の根源みたいに言わないでほしい。私だって仕事があるのだ、帰って仕事がしたい。
「元はと言えば、お主が魅了するからこんなことになったのだ」
「魅了って、そんな勝手なこと言わないで下さいよ。私はそんな気さらさらないのでお断りしてますし、結婚するつもりもございません」
「とは言え、こうなったのも事実ぞ」
「事実であれ、私は嫌です。私は戦場で生きる身、余計なものは背負いたくないんです。例え、求婚者が戦神と名高いシヴァ様であっても、遠慮願いたい」
「余計なもの、か。果たして、女のお前がどこまで出来るのかにもよるがな」
「国の一つや二つ、滅ぼすのに何日も掛かりませんよ」
私は笑って見せた。この親あってこそ、この子ありだな。白帝とシヴァ様を一度に相手している気分だ。とにかく、私は結婚するつもりはない。シヴァ様への片思いは、ありゃ気がトチっていたんだと思う。あんなことで、私のストレスが溜まっていたとはまだまだ未熟だ。
「――好き勝手に言ってくれるね、ふたりとも」
不穏な魔力が謁見の間を取り巻いた。
「でしょう?」
前皇帝の声は、思いのほか低くて威厳に溢れていた。金と銀の目を細めて私を見てくる。白帝やシヴァ様とは違う色味のあるそのオッドアイは、どことなく父さんやノルエルハに似ていた。皇位継承者である証の一つ目は金と銀のオッドアイ、二つ目は容姿に黒白を持つこと。双帝の様にオッドアイで且つ黒白を保持する継承者が現れるのは何百年ぶりらしいから、皇族の血を引き金目と銀目さえ保持しておけば皇帝にもなれるのはまあ、当然の摂理なのだろう。
この一族、穏やかそうに見えて実に皇位継承者争いが絶えなさそうな一族である。
「だが、あの娘の言うことも一理あると思うがな」
「――…というと?」
「私の威厳がないと婚約できないなんて、まことに情けないぞ。好いた女の一人や二人、手の平で転がさねばなあ?」
「…」
一オクターブ声が低くなった白帝。そして、止めを刺す様な前皇帝の冷ややかな言葉。ほう、この事態は前皇帝も知らなかったのか。白帝よ、アンタどうなってんだ。
「それに、忙しい筈の騎士団長や魔術師団長まで呼び出しおってからに。お前は、あの小娘に反撃されると手も足も出ないのか?」
「…父でも、言って良いことと悪いことがありますよね」
「そうさな。でも、お前も同じことをこやつらにしておる」
ニヤリと笑う前皇帝。あ、やっぱり双帝と親子だわ。私、この人のブラックリストに名を挙げているらしいから、即刻取り下げを願いたい。前皇帝だからってナメてかかると酷い目にあうヤツだ。ナメてた。認識を改めたいと思う。
「…分かりました。こんなことで呼び出したりしてごめんね、みんな」
「下がって良いぞ。バカ息子の我が儘に付き合わされてたら、いつになっても仕事が終わらんからな」
「それでは失礼します」
一番先に下がったのは、ジェラール団長。貴方、そういう所ではあっさりしてるんですね。次いで、マリベル様とロベルト様が下がった。お兄ちゃんとシヴァ様は残っている。何か用事でもあるのかな。私も一緒に下がろうと、頭を下げて背を向けたのだが
「これこれ、お主まで下がってどうするや」
「え…」
「お主が根源ぞ?」
「えぇー…」
諸悪の根源みたいに言わないでほしい。私だって仕事があるのだ、帰って仕事がしたい。
「元はと言えば、お主が魅了するからこんなことになったのだ」
「魅了って、そんな勝手なこと言わないで下さいよ。私はそんな気さらさらないのでお断りしてますし、結婚するつもりもございません」
「とは言え、こうなったのも事実ぞ」
「事実であれ、私は嫌です。私は戦場で生きる身、余計なものは背負いたくないんです。例え、求婚者が戦神と名高いシヴァ様であっても、遠慮願いたい」
「余計なもの、か。果たして、女のお前がどこまで出来るのかにもよるがな」
「国の一つや二つ、滅ぼすのに何日も掛かりませんよ」
私は笑って見せた。この親あってこそ、この子ありだな。白帝とシヴァ様を一度に相手している気分だ。とにかく、私は結婚するつもりはない。シヴァ様への片思いは、ありゃ気がトチっていたんだと思う。あんなことで、私のストレスが溜まっていたとはまだまだ未熟だ。
「――好き勝手に言ってくれるね、ふたりとも」
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