異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

60.私の人生、前途多難である。

「…無理だと思うか、イオ」








「えぇ、すみません…」








「奇遇だな、俺もそう思う」








深いため息を吐くしかなかった。白帝アルベルドという人物は、一番周りを見ているようで一番自己中だと私は思っている。本当にタチが悪い。何もタチが悪いのは白帝だけじゃない。黒帝だってタチが悪い。とどのつまりこの双子自身、タチが悪いのだ。








「お兄ちゃんだと周りに言われ続けていたせいか、アイツはヤケに物わかりが良い。だが、正直言うと性格は捻くれている」








「…本当に捻くれているだけですか?」








「……それ以上は訊いてくれるな」








言いにくそうに顔を逸らした黒帝。捻くれているだけではないらしい。身に覚えもあるようだから、恐らく相当なレベルで捻くれているのだろう。










「参ったなあ」








こんなに上司とのやりとりが面倒くさいと思ったのは何時振りか。実に面倒くさい。どうして私なんかを、と言い出したらキリがない。気に入られて、懐に入れたいと思われているのだ。それを回避したものの、なぜか回避の仕方を間違えたような気がしてならない。








「アルのことは置いといて、仕事を続けよう。こんなにも仕事が溜まってるんだ」








「おかしいですねぇ、溜めない様にしていた筈なのに」








「…まあ、片付くさ」








黒帝は苦笑して机に向かったけど、私は何となく察した。この仕事、白帝からの嫌がらせが含まれているのだろうと。器の小さい男になってるぞ、白帝アルベルド。










白帝の子供っぽい嫌がらせはさておき、ここまでを少しまとめてみようと思う。










嫉妬に駆られ魔に堕ちた黒帝シュヴァルツの婚約者、マリアナ・アーロミス。宰相ロベルトの妹に禁忌を犯させた本人であり、国外追放となり何者かに殺された。生涯を共にすると約束したドラゴンのルルベルも共に死んだ。










一方でアーロミス商会の娘が捕まったことにより、教皇派との深い繋がりが露見した。教皇派の魔物やドラゴン、人間を使った実験の資金はアーロミス商会から出ていたことも確認が取れている。また、それを手引きしたアーロミス商会の人間が、上層部の一部とも関わりがあり白帝アルベルドによって一掃された。










時雨の魂を入れられた男、ジエロは白帝の密偵となって他国へ入った。敵意は無いことは聖女ルシエラによって証明されている。魂は時雨のものだが、人格はジエロ肉体のものらしい。難しいことは解らないが、死んでも輪廻を廻れないというのだけは解る。










黒帝シュヴァルツの傍仕えとして復帰した私の立ち位置は、というと。絶妙なバランス具合で保たれている。言うなれば、不信感がハンパない。黒帝からアーロミス商会の女傑を奪ったという尾びれ背びれの付いた噂は、今でも人々の中で渦巻いている。表出しているのが、今朝の会議でも分かるように白帝の一掃を免れたタヌキ爺たちだ。








幸い、ジェラール団長率いる騎士団やマリベル様率いる魔術師団、聖女ルシエラ様筆頭にした蒼の離宮の人たちからは特に不信感もないと思う。侍女たちや位持ちの連中には怪しまれているけれど。侍女は滅多に用事もないし、位持ちの連中にも用事がないから問題になることは今のところない。








「イオ」






「はい?」






「これ、アルの書類なんだが…」






ただ、問題があるとすれば。








「……あとで書類を取りに来る武官に持たせましょう」






「そうか」








白帝アルベルドと前皇帝だろう。白帝に関しては、分かると思う。ただ、前皇帝は違うんだよなあ。ロベルト様にも気を付ける様に言われてしまったが、前皇帝からすれば、私は厄介者の括りに入ってるらしい。ブラックリスト入りってことだ。








前途多難。波乱万丈。これ如何に。









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