異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

43.予想外の乱入者





「そんなの許さないんだから!!」








白で紛い物の心臓を突こうとしたその時、女の甲高い怒声が響いた。あと数ミリの所で、私の動きが止まる。私自身が止めたワケではない。恐らく、怒鳴った女が私の動きを拘束したのだろう。グルルルと始音が唸る。紛い物が小さく舌打ちをした。








紛い物にとっても不都合な相手なの?








「マスター…ここには来ない筈では?」






「ジエロ、煩いわよ!どうしてその女をさっさと殺してしまわないの?!あまつさえ、自分から殺してくれだなんて!!」






…マスター?ジエロ?どうなってやがる。紛い物の主人は死霊魔術を使ったアイアではないのか。そして紛い物に名を与えるなんて。








《依織、このニオイ知っている》






「え?」






《黒帝の婚約者のニオイだ》






拘束の魔術を乗っ取り、自ら打ち消す。強い拘束じゃなかったから反動も無しで大丈夫だったけど、これが強力な奴だったらゾッとする。それより、始音の言葉の方がとてつもない威力を持っていた。な、んだって!?柱の影から出てきたのは、確かに黒帝の婚約者だ。薄金髪の髪に翡翠の瞳のマリアナ・アーロミス。








「ん゛ん゛ん゛っ!?」






《なんてことだ》






「まったく、ジエロ。アンタがあの小娘を殺してくれないと、私が結婚できないじゃない!!」






「…マスター」








「とんだヒステリー女だね…」








キィキィ叫ぶシヴァ様の婚約者。女傑って言ってたよな、とんだヒステリー持ちなんだけど。誰だよ、こんな女を女傑って言ったの。甲高い声が反響して耳が痛い。この場合、どうすれば良いのだろう。連行するべき?此処で殺るべき?分からない、たすけてお兄ちゃん!!








紛い物に怒り続け、私たちには目もくれない。分からねえ。どうするべきかと始音を見たけど、始音ですら首を振って否定した。やべぇ、成す術がない。怒り続けている内容は明快。私が邪魔らしい。私が死ねば、シヴァ様と結婚できると思っているらしい。阿呆な女である。もう一度訊くが、誰がこんな女を女傑と言ったんだ。






た す け て お に い ち ゃ ん !!






困った時の兄頼み。頼りになるお兄ちゃんが恋しい。地下で戦っているんだろうか。私が地下に行きたかった。何だか今日はダメダメな日だ。ロクなことが無い。






《志貴はもう来るらしい。地下も片付いたと》






「…早く来い」






私、こんなに自分が無力だって思わなかったー。こういう意味で無力だって知りたくなかったー。やだ、どうしよう。修行に出させてもらおうかな。実に無力。








「アンタを造れば、あの女をどん底に落としてシヴァの傍から離せると思ったのに!!どうしてアンタが殺されそうになるの!?アンタ、強いんでしょ!!」






「…もうやだ、なにあの女」






《女とは時にあぁいう生き物になるだろう?知っているクセに》






同情などしないが、紛い物の目が死んだ魚の目になってる。あの女が出て来る前に殺っていたら良かった。哀れだな。ただ、紛い物がアーロミス商会の銃を持っていたことに納得がいく。あの女がバックに居たのなら、銃でも何でも手に入るわけだ。






予想外の登場だけど、これで上層部の一掃が出来そうだ。上層部にアーロミス商会と深い繋がりを持つジジイが居るんだよね。黒帝には悪いけど、白帝には良い報告が出来るだろう。









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