異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

17.アベルドside

出て行った彼らの背中を見送って、僕とロベルトはため息を吐いた。どうしようもない、やるせなさと無気力感。加えて脱力感まである。夜通しの会議に疲れたのだろう。これから、まだまだ忙しくなるのに。






もう一度ため息を吐いた後、脳裏に背中までの黒紅髪の女性がよぎった。双刀を腰に佩いて、さっさと出て行った彼女。初めて見た時、見たこともない魔術を使って、僕を攻撃してきた。そういえば、あの魔術の原理を聞いてないなあ。






「イオリ、どんどん株を上げるのも良い傾向なんけど、比例するように敵も増えてるんだよねぇ」






「いくらグレイアス様の娘で、黒帝の傍仕えでも駄目なんですか?」






「シヴァの傍仕えってだけが駄目なんだよ。分かるだろ、アーロミス商会が煩いんだ。なんで、婚約者の居るシヴァに女の傍仕えを与えたんだ!って」








いや、分かるけどさあ。シヴァにもそういう相棒っていうか部下が必要と思ったから提案してみたんだけど、どうやら裏目に出たみたいだ。この前、図書室の前を通ると偶然・・聞こえたけどあの爺様が心配してるし、どうして父上は面倒な婚約者をシヴァに与えたのかなあ。








うーん。でも、シヴァはあの女婚約者の事を好いているみたいだし。シヴァはちゃんと人間らしさを持っているから何とも言いにくい。戦神なんて言われるけど、あれでも優しいからなあ。








「面倒臭いですねぇ、本当に。陛下があんな提案するから、こんなことになってるんですよ?」








「やっぱ僕の所為?でも、イオリは役立つと思ったんだ。シヴァの荒々しい雰囲気も魔力も落ち着いてるし、小耳に挟んだけど最近は取っ組み易いんだって」








「そりゃ、イオリのおかげもあるかもしれませんけど、元々シュヴァルツ様は穏やかな人ですよ?」








「――どう足掻いたってイオリ次第、かあ。どう足掻いたって叶わないだろうけど」








僕はふと天井を見上げた。僕の傍仕えにしてたら良かった。僕なら婚約者なんか邪魔者いないし。失敗したなあ。イオリって少女っぽく見えたりするし、一気に女性になる時もあるんだよねぇ。無邪気さもあるけど、血の気の多さもある。戦場向きかもしれないけど、事務の仕事も有能だって文官たちの評判も良いしさ。






「異動、させるおつもりで?」




「うーん…そしたら、まずはシヴァ本人から、次いで騎士団からも苦情が来るだろ?」




「…あぁ、確かに」






イオリが朝礼会議に出始めてから、騎士団の雰囲気が変わったとジェラールが嬉々として報告に来たのはついこの前だ。一番出席しなければならないシヴァやジェラールが参加しないのは如何なものかと思って、と朝礼会議に堂々と出席したイオリ。周りの情けないジジイ共古参大臣の威圧感など、感じてないかのように凛として、騎士団の現状を述べていた彼女。








いつの間にか、騎士団たちとも友好を深める様になり魔物の討伐任務にも出るようになったと聞く。そうしてついたあだ名が、金目の猫の意味を持つウェルミスだ。どんな風に戦ったのか、聞いていないけれど、きっと試験の試合の時の様に前を見据えて双刀を構えたのだろう。








雅やかな魔術としなやかな剣術で応戦したことだろう。何人の騎士たちが見とれたんだろう。なんか羨ましいな。僕も見たかったー。そういや、ドラゴンの侵入の時も凄まじかったと聞く。傍で見れた奴羨まし過ぎるだろ。








「どれが、何が、最善の選択なんだろうねぇ」






「……陛下、もしかして、のもしかしてですか?」






「ん?何のことだい、ロベルト」








ロベルトは苦笑とも言い難いような表情を浮かべて、首を振り何もない事をアピールした。いくら乳兄弟でも深入りは禁止だよ?








「さー。仕事するかねぇ。徹夜なんて久しぶりだけど、今日頑張ったら明日は休もう」




「調節しておきます」






ついでに、イオリの休暇も、と呟いたロベルト。流石、よく僕のこと分かってるじゃん。断然、やる気でたね。さっさとたんまりと運ばれてくる書類たちを片付けるかな。










―――のちに、緊急事態として連絡が入った。






ドラゴンは火の王の息子で、イオリと契約を交わしたと。―――











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