異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。
16.やっちゃった。
神々によって支配された世界。今までで初めての体験を私はしているのだ。神という空想だった存在が実現している。あっちの世界は、神や聖獣は空想にしか過ぎなかった。ドラゴンもそうだ。だが、自分の手足として使役するために造ろうとする魔術師は居たけど。結局、魔族か何かに殺されたような気がする。
神や聖獣が存在しないのに、魔族や魔王が存在するという可笑しな矛盾に此処の世界に来て気付いた。でも精霊は存在していた。誰に言ったって他の誰も信じてくれなかったけど、この世界で生まれたグレイアスの血を引いていた私や志貴には視えていた。
そもそも、地球での魔術の展開の定論は可笑しなものだった。魔力に言の葉を乗せることで魔術が展開されるというものだ。そんなもの当たり前だ、何言ってんだコイツ等。グレイアスの有名な一言だ。武勇伝となって語り継がれているだろう。幼かったグレイアスでも、そんなこと知っていたし、というか精霊が居るからこそ魔術が成り立っているという定説のある世界生まれだ。
精霊により魔力が誘導され、言の葉を上乗せさせることで魔術の増幅が叶う。増幅は範囲と威力だ。私とお兄ちゃん、それからニコルと共に試験の様な試合をしたとき、私は無詠唱で魔術を展開した。それは、むやみやたらに魔術を使わないようにするため――とか、そんなこと考えてなかった。
ただ、純粋に言葉なんて要らなかった。双子の、シエルとセリカの幸せを願うだけでこの世界の精霊たちは動いてくれるから。恐ろしい話だけど、意のままに動いてくれたのだ。もう二度と、そんなことしないけどね。
「懐かしいなあ、いや本当に」
騎士団のドラゴンたち自由に離された一画で、その心傷ついたドラゴンは居た。大きさはそこそこ。無理やり成長させられた体格は、竜王のアストラルより小さくて、竜妃のティエラより大きい。無傷で捕獲したから身体の方は大丈夫そうだ。心は分からないけど。周りの騎士たちが、オロオロしながら遠巻きに私たちを見ているのを感じながら、私は真っ赤なドラゴンへと手を伸ばす。
触れそうで、触れれない距離。それで良い。というか、人間を信じれないのも当然だ。特に己と対峙したことのある人間は。一応、助けた側なんだけどなー。そう思うのも、この子次第だけれど。
「火の王の息子とお見受けするが如何に?」
『是』
「我等ではないが、人間がした行いを許してくれとは言わない。お前様は傷付いただろう。恐れただろう。悲しんだだろう。まだ幼きドラゴンよ」
火の王っていうのは、火属性の生き物の王のことだ。文字通りそのままなんだけど、そこに人間は含まれていない。簡単に言うとドラゴンが上司で、精霊が部下だ。簡単すぎる説明だが、その通りなので理解してほしい。
このドラゴンは、その息子。ということは、王位継承資格を持つドラゴンだ。そこまで詳しいことは勉強できていないが、ドラゴンは基本的に一夫一妻。子は、さぁ?ドラゴンたちにもよるだろう。
「お前様、父王は何処に?あれだけの騒ぎ、精霊たちが伝え無い筈がないだろう?」
『父王はお前等人間に殺された。母もだ。兄も姉も、火の王の家系は我のみ』
「……惨いことをしてくれたものだ。私が謝っても意味がないが、言わせてくれ。本当に申し訳ない」
今にも泣きそうな真紅の瞳。中身はまだ幼い筈だ。無理やり大人の体へとさせられた。可哀相な子。いやしかし、気になることが一つ。此処まで近づいて恐ろしい話、グレイアスそっくりの気配がある。目の前にはドラゴン。このドラゴンから、グレイアスの気配がするのだ。
「お前様、人の血肉を食ろうたな?」
『人の血肉だと?』
「あぁ、私の父だ。まあ、既に死んで何年も経っているけどな。ちゃんと全部食べきってくれたか?あれが残っていると、ちょっと面倒なんだが」
『……すまない、というべきなのか?それとも、我はとんでもないモノを食ったと嘆くべきか?』
「とんでもないモノを食ったと嘆くべきだろう。ということは、全部食らったようだな。良し。あぁ、お前様の中にあった異物は取り除いてある。だから、特段心配することは無いさ。身体の浄化もしているようだし、此処に残るか旅立つかはお前様の自由だ」
火の精霊たちがふよふよと私たちの周りに寄って来る。なんだ、ドラゴンが平常心な事に安心したのか。ドラゴンの鼻先に触れあったりと、なんとも微笑ましい絵を見ながら私は小さく笑った。
「お前様のことをずっと気になってたんだ」
だけど、少しだけ平気そうで良かったよ。心の傷はゆっくり時間をかけて直せばいい。ただ、その無理やり成長させられた身体は元には戻せないけど。
「私の名はイオリ。この世界の住民じゃないが、まあよろしく頼む」
《イオリ、お前に我の名を告げたい。良いのか?》
「生半可な覚悟で此処に来てないさ。告げろ、お前様の名前を」
《メギド》
名を交わすのは契約だ。ということで、私はドラゴンことメギドと契約したことになる。何て簡単な契約なんだろうと思うだろ?でも、名は呪なのだ。互いに呪を掛け合ったと思っていれば良い。
「火の王の子、メギド。お前を立派な火の王にしてやらなきゃねぇ。ま、ゆっくり親睦を深めようか」
《よろしくな、異世界の子。グレイアスの愛娘》
桜咲依織、通称ウェルミス。
此処で、新しく伝説を築く。
「え、グレイアスのこと知ってんのぉ?!」
神や聖獣が存在しないのに、魔族や魔王が存在するという可笑しな矛盾に此処の世界に来て気付いた。でも精霊は存在していた。誰に言ったって他の誰も信じてくれなかったけど、この世界で生まれたグレイアスの血を引いていた私や志貴には視えていた。
そもそも、地球での魔術の展開の定論は可笑しなものだった。魔力に言の葉を乗せることで魔術が展開されるというものだ。そんなもの当たり前だ、何言ってんだコイツ等。グレイアスの有名な一言だ。武勇伝となって語り継がれているだろう。幼かったグレイアスでも、そんなこと知っていたし、というか精霊が居るからこそ魔術が成り立っているという定説のある世界生まれだ。
精霊により魔力が誘導され、言の葉を上乗せさせることで魔術の増幅が叶う。増幅は範囲と威力だ。私とお兄ちゃん、それからニコルと共に試験の様な試合をしたとき、私は無詠唱で魔術を展開した。それは、むやみやたらに魔術を使わないようにするため――とか、そんなこと考えてなかった。
ただ、純粋に言葉なんて要らなかった。双子の、シエルとセリカの幸せを願うだけでこの世界の精霊たちは動いてくれるから。恐ろしい話だけど、意のままに動いてくれたのだ。もう二度と、そんなことしないけどね。
「懐かしいなあ、いや本当に」
騎士団のドラゴンたち自由に離された一画で、その心傷ついたドラゴンは居た。大きさはそこそこ。無理やり成長させられた体格は、竜王のアストラルより小さくて、竜妃のティエラより大きい。無傷で捕獲したから身体の方は大丈夫そうだ。心は分からないけど。周りの騎士たちが、オロオロしながら遠巻きに私たちを見ているのを感じながら、私は真っ赤なドラゴンへと手を伸ばす。
触れそうで、触れれない距離。それで良い。というか、人間を信じれないのも当然だ。特に己と対峙したことのある人間は。一応、助けた側なんだけどなー。そう思うのも、この子次第だけれど。
「火の王の息子とお見受けするが如何に?」
『是』
「我等ではないが、人間がした行いを許してくれとは言わない。お前様は傷付いただろう。恐れただろう。悲しんだだろう。まだ幼きドラゴンよ」
火の王っていうのは、火属性の生き物の王のことだ。文字通りそのままなんだけど、そこに人間は含まれていない。簡単に言うとドラゴンが上司で、精霊が部下だ。簡単すぎる説明だが、その通りなので理解してほしい。
このドラゴンは、その息子。ということは、王位継承資格を持つドラゴンだ。そこまで詳しいことは勉強できていないが、ドラゴンは基本的に一夫一妻。子は、さぁ?ドラゴンたちにもよるだろう。
「お前様、父王は何処に?あれだけの騒ぎ、精霊たちが伝え無い筈がないだろう?」
『父王はお前等人間に殺された。母もだ。兄も姉も、火の王の家系は我のみ』
「……惨いことをしてくれたものだ。私が謝っても意味がないが、言わせてくれ。本当に申し訳ない」
今にも泣きそうな真紅の瞳。中身はまだ幼い筈だ。無理やり大人の体へとさせられた。可哀相な子。いやしかし、気になることが一つ。此処まで近づいて恐ろしい話、グレイアスそっくりの気配がある。目の前にはドラゴン。このドラゴンから、グレイアスの気配がするのだ。
「お前様、人の血肉を食ろうたな?」
『人の血肉だと?』
「あぁ、私の父だ。まあ、既に死んで何年も経っているけどな。ちゃんと全部食べきってくれたか?あれが残っていると、ちょっと面倒なんだが」
『……すまない、というべきなのか?それとも、我はとんでもないモノを食ったと嘆くべきか?』
「とんでもないモノを食ったと嘆くべきだろう。ということは、全部食らったようだな。良し。あぁ、お前様の中にあった異物は取り除いてある。だから、特段心配することは無いさ。身体の浄化もしているようだし、此処に残るか旅立つかはお前様の自由だ」
火の精霊たちがふよふよと私たちの周りに寄って来る。なんだ、ドラゴンが平常心な事に安心したのか。ドラゴンの鼻先に触れあったりと、なんとも微笑ましい絵を見ながら私は小さく笑った。
「お前様のことをずっと気になってたんだ」
だけど、少しだけ平気そうで良かったよ。心の傷はゆっくり時間をかけて直せばいい。ただ、その無理やり成長させられた身体は元には戻せないけど。
「私の名はイオリ。この世界の住民じゃないが、まあよろしく頼む」
《イオリ、お前に我の名を告げたい。良いのか?》
「生半可な覚悟で此処に来てないさ。告げろ、お前様の名前を」
《メギド》
名を交わすのは契約だ。ということで、私はドラゴンことメギドと契約したことになる。何て簡単な契約なんだろうと思うだろ?でも、名は呪なのだ。互いに呪を掛け合ったと思っていれば良い。
「火の王の子、メギド。お前を立派な火の王にしてやらなきゃねぇ。ま、ゆっくり親睦を深めようか」
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