異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

13.ウェルミス語る

そうこうしているうちに夜が明けた。月が沈み、太陽が顔を覗かせる。濃紺の夜空は、ゆるりと鮮血を零したような赤へと移ろい橙色へと姿を変えていくのを、私は窓から眺めていた。










休憩をはさみながら行われていた緊急会議。何も私が参加する必要はないと思うのだが、一応ドラゴンを保護した身だ。現状を知る唯一の人間ではないが、オルエをこの場に呼んで証言させるのこと程むごい話は無いだろう。








「…はー、やだねぇ。まったく、わんさかと湧いて出て来る」






「教皇派と言いつつ、名前を変えたりしてますからね」






「大本を突き止めれないのが一番の難関だがな。そろそろ見つかっても良いぐらいだ」








この会議中、魔封石に閉じ込めていた父の力を私の体に戻していた。穢れた魔力は私の魔力が喰らいつくし、穢れてしまった父の力は私の体が清めている。疲れる作業でもなかったな、と紅茶を飲み干した。ドラゴンが少し気になる所だけど、今は会議の結末を見守らなければ。








「ノルエルハ大叔父貴も動いているから、もしかすると今回で殲滅できるかもしれないが…。あくまでも、かもしれない、だからな」








「グレイアス様も不憫でなりませんな」








「…母さんとあっち元の世界で眠ってりゃ良かったのに。死体になってまで、戦場に駆り出されるとは」






「イオリ殿…」






「父は、グレイアスは最強の魔術師だったんです。召喚された時から政府に飼われ、魔術以上のチカラを含めたうえで、最強の魔術師として訓練されたそうです。私たちの世界地球は、ヒトとヒト、ヒトと魔族。すべての種族が争ってきました。何百年も何千年も。だから、四大陸が少しずつ生きとし生けるものすべてが生きれない荒地になっていきました」








私は物語る者ではない。お兄ちゃんの様な役目は持っていないから、これはただのグレイアスの人生を話しているのだ。この場には不必要な話かもしれないけれど、みんなが耳を傾けてくれたのが分かった。だから、私は続ける。










「やがてグレイアスは戦場を駆けるうちに、術師だった母と出会い志貴と依織という子を成しました。それも政府の監視下にあるまま。そうするうちに、志貴は6歳で初陣を果たし、11の頃には私が同じく初陣を6歳で果たしました。国のイヌとして、多くの命を奪って来た。それはヒトも魔物も、種族を問わず」










「けれど、そう、あれは私が16歳の時でした。ある戦場で、苦戦を強いられていました。居る筈のない魔族。何故ヒトと手を組んだのか。未だに分かりません。私と魔族。誰がどう見たって勝敗は目に見えています。この双刀を振り、魔術を展開し、私が知る全ての戦術を使っても、魔族に何て到底勝てやしなかったんです。双刀が折れた時に、魔族の剣が私の心臓を狙い振り下ろされました。そこで、やっと私は己の終わりと敗北を悟りました」










幾何の戦場を駆けただろう。戦争、戦争、戦争。そんな日々しか記憶にない。家族が揃うも戦場で。住宅地に構えた一軒家は、各自の寝床ってだけで。学校も行きながらだったけど、戦場がほとんどだったのかもしれない。それでも、私たちは家族だった。










「――私に赤が降り注ぎました。全身を真っ赤に染め上げた赤は、紛れもなく心臓を貫かれたグレイアスの血でした。一番近くに居たグレイアスが私を庇ったんです。母の悲鳴とお兄ちゃんの怒号が響き渡って、全ては無に還った」










私とグレイアスが持っていた小さなの魔封石が一つの大きな石となり、心臓を貫かれたグレイアスごと魔族を閉じ込め固めていた。すべての時が止まったように、大きな結晶を作っていたのだ。






現実から目を逸らしたかった、私が作り上げた。










「グレイアスの力は異物を分かつ力。魔封石を難なく使いこなすのも、その力があったからです。でも、グレイアスの力はあってはいけないんです。何もかもを魔封石に閉じ込めて無に還すから」








「すべてを、無に還す…」






「そう。だから、唯一力を受け継いだ私がグレイアスを魔封石から取り除いたんです。既に死んでいたけれど、グレイアスは確かに私とお兄ちゃんに意志を引き継がせた」










受け継いだのだ、偉大なる父の血を。
(金と銀。それぞれの意味を知っているから)






受け継いだのだ、最強の魔術師だった父の意志を。
(そのチカラの意味を理解しているから)








「お兄ちゃんを、志貴を呼んでください」








――いくらノルエルハが動いて居たって、お父さんは見つからないだろう。死体から感じるものは何もないのだ。ノルエルハは探知系だけど、お兄ちゃんほどでもないし。彼は彼で強いけどね。













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