異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

06.黒帝





どうもこんにちは。






依織でございます。黒髪金目の容姿からこっちの世界で猫って意味らしい〝ウェルミス〟って異名がつけられました。何故。まだ数日と経っていない筈なのに。ちなみに元の世界でウェルミスっていうのは悪魔道の書物でした。はい。






「イオ、今朝の会議はどうだった?」




「上々です、シヴァ様。白帝はあまり手応えなさそうでしたけど、こちら側としては上々でしょう」






会議があるときは大体私が代理で出席させて貰っている。私が来る前までは、ほとんど会議に出ずに書類だけで内容を把握していたらしい。用事がある場合は、白帝に伝えてたんだとか。けど、もと事務員だった私が来た。






そもそも皇帝ともあろう人が、会議内容を書類だけで済ませるってどういうこっちゃ。いくら戦専門だからって黒帝は騎士団の、いわば総大将。要望とかもある筈。ってことで、私が代理で出席させて貰うようになった。私自身が、妃とかそんな立場じゃないから、重役ほどの権力と発言権もないけどね。








出るだけで意味があるんですよ。黒帝の傍仕えとしてね。なんせ、騎士団長ですら参加しないのだから。アンタ等は脳ミソ筋肉集団か。






「黒髪紅目だった時の私と黒髪金目の私。どちらにせよ、タヌキさん古参大臣たちは騒々しいですよね」






「皇族の証だからな、金目と銀目は。皇族の血、皇位継承者にしか受け継がれない。平和な事にヴィーもリーも受け継がれていない」






「シエルとセリカは金目銀目にはなりませんよね?」






「それは世界の愛しい子だからだ。灰色というのは中立。俺とアルの間の色だろう?」








白と黒。そして灰色。なるほどねぇ。しかし、それだとこの国が世界の中心のように聞こえる。この国が世界の中心?世界の中心がこの国?ん?






「ルシエラが聖女なのは、この国に神聖な泉があるからだ。世界樹は竜の国という場所にあるらしいけどな」






「神聖な泉、白と黒と灰色?で金目と銀目?この世界って難しいですね。東西南北に砦があるのも、その為ですか?」






「ああ。今は優先順位が変わったが、昔は泉とルシエラが最も守るべき存在だったんだ。ルシエラは聖女の資格を持つ王女だからな」






「聖女の、資格?聖女って資格要るものでしたっけ?」






「この世界ではな。まだまだ勉強不足の様だが?」




「習うより慣れろがモットーなので。にしても、奥が深い」




「図書室に行って来い。ジジイ司書に訊けば古書を出してくれる」




「そうします。けど、今日は砦の巡回日でしたよね、確か東」




「そうだがお前は非番。休みもいるだろ?」






金と銀の眼が半月を描いて、私の頭を無造作に撫でた。これだからシヴァ様は。惚れてしまいそうになる。サラサラの黒髪を結い上げ、マントを羽織る姿を見ながら私は、少しだけ早くなった心臓を宥める様に深呼吸した。






「何かあれば、いつでもお呼びくださいね」




「何かあったら戦争になっちまうだろうが」




「…それもそうか。でも、魔物が増えたと聞きましたから」




「まあ、増えたのも事実だ。怪しい動きもあるからな、いくら国内で城内だからと言っても、お前も油断はするなよ、ウェルミス」






「御意に」






颯爽と出て行った美丈夫。黒帝シュヴァルツ。齢14にして戦場で勝利を収めた戦の天才。戦場に出すのを両陛下は渋ったが、シュヴァルツは鎧を被り戦へ駆けた。赤子の時、魔力が膨大で溢れる程あったそうだ。皇子でありながら悪魔の子と一時期実しやかに批判されていたという。








けれど、シュヴァルツは悪魔の子ではなかった。






戦神だったと。






同じ戦場に出ていた騎士たちは叫び、士気を上げたと。それ以来、シュヴァルツは戦というものを極める為に、幾何の鍛錬でも行ったとかどうとか。戦術も学んだ――そのお師匠様が、シヴァ様が図書室のジジイと呼んだ司書さんである。






シヴァ様は何も言わない。だから、全部噂言にしか過ぎない。あ、お師匠様の件は事実だ。挨拶した時に教えて貰った。でも分かることがある。それは、シヴァ様が俺様風の優しい心を持った人だってことだ。








さあ、図書館に行って来よう。勉強不足と言われてしまえば、少し悔しい。一刻でも早くシヴァ様の役に立てるように頑張らねば。









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