ルーチェ
62.「陛下の独断と偏見による選別です」
「ルル……?」
そう、ルル王女が自ら一歩を踏み出した。一歩を踏み出せたのだ。とんでもない呆け顔の陛下と海燕殿を見つめ、ルル王女はお淑やかに一礼して見せる。その横で、私も騎士の礼を取る。うん、なかなかイイね。
「よく出来ました。どうだい、自分で一歩を踏み出した気持ちは」
…ドキドキするね。
「だろう。何故か私までドキドキしたよ。次はどうする?自分で相談してみる?」
新緑の瞳を真ん丸にして、とても嬉しそうに笑うルル王女。どうする?と首を傾げて見せれば、流石にそれは無理だと私に説明を投げた。良いだろう、それぐらいのことはしようじゃないか。
「ルーチェ?え、なんでルルが?」
「勉強がてら外に出たいからだ。陛下に許可を貰わないと、この子は部屋から出れないんだって?お前はいつから、彼女にそんな定まりを与えたんだ」
「いや、ちょっと腹が立つんだけど話が見えないことが一番大事かな?!」
驚き顔の陛下。割かしハイテンションだな、ソレが良いのか悪いのか。今となってはどっちでも良いけど、温厚なフリしてんじゃねーよって感じである。
「だーかーら!!勉強のために外に行きたいんだって言ってんだろうが!さっさと、好きにしろと頷けば良い!!」
「お前何様!?」
「ルル王女の近衛だが何か問題でも?」
「……俺、何でお前をルルの近衛に選んだんだろう」
「陛下の独断と偏見による選別です」
頭を抱えだした陛下に、冷静にツッコミを入れた海燕殿。殆ど陛下の独断で決めたんだろうなっていう気は最初からしてた。つまり、陛下の犯したミスである。
私が気に入ったら、こうなるということは最初の時から分かっていた筈だ。可愛がって可愛がって、全力で愛でることに力を注いできた。それを間近で見ていたのは千景君だ。
「ルル王女は、勝手に外に出て陛下に怒られるのが嫌なんだってよ。まぁ、怒りっていう感情は陛下自身の体に良くないしな。それを踏まえて、許可を貰いに来たってワケだ」
「最初からそう言え。一応、俺の為に言っておくが、ルルを部屋に閉じ込めていたつもりはないからな」
「自分の為に言ったって意味がない。最初から、その意をルル王女に言っていたか?」
「…う゛」
「ルル王女にどう思われてるか、知ったこっちゃないがその点は自業自得だな」
フンと鼻を鳴らせば、陛下は恨みがましい目で私を見て来る。知るかっつうんだ。ちなみに、この間ルル王女はというと―――
陛下、大丈夫です。全然そんなこと伝わって来ませんでしたけど、私は陛下の事お慕いしておりますから、こんなことでは株なんて下がりません。そんな目でルーチェ様を睨まないで下さい。ルーチェ様は何も悪くないんです。というか蔑まされるのは嫌ですけど、私の方見てくださいよぅ。あぁ、でも私ごときが陛下を慕うことも見て欲しいって思うことも、烏滸がましいですよね。私なんか、陛下に吊りあうわけがないのに。
―――フォローかネガティブモードか訳が分からない状況に陥っていた。完全に恋する乙女であり、ネガティブ乙女である。
「ルル王女、陛下に言いたいことは?」
好きです!
…って言えたら良いですけど、外で陛下に会えただけで嬉しいですって行って貰えますか?
「外で会えただけでも嬉しいですってよ。かーぁいいなぁルル王女は。陛下なんかやめて私にしといたら?」
「ルーチェ、お前は何言ってんのかな!?」
「ルル王女の代弁して、私の本音を言ってるだけ」
「もう嫌だコイツ!!コイツをルルの近衛に選んだ俺シネ!この大事な選択を間違えるなんて、皇帝失格だな!!もう皇位破棄するわ!!海燕、今すぐ俺のクビ切ってくれない!?」
「「何言ってんだお前」」
私と海燕殿のハモったツッコミが執務室に、再び静寂を呼び込むのだった。にしても、コイツも大概失礼だよな。私を近衛に選らんだのは失敗だったな、なんて自分でも思うけど皇位破棄するとまで言われたら、なんか遣る瀬無いわ。
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