ルーチェ

千絢

58.「この子は、春みたいだ」

「あぁ、だったらルル王女。私を呼ぶときはこの鈴を鳴らせば良い」












私が出した小さな金の鈴。これは、エノクの怪物たちの会議の時に着けていた髪飾りだったもので、ブレスレットとして私自身が加工したものだ。








りん。りん。りん。








鈴独特の清涼な音が響く。陛下の裾を握っていた白くて小さな手が、ゆっくりと私に伸びて来る。伸ばされた手に鈴を乗せる。あ、なんか似合う。








小さな子供に防犯ブザーを持たせた様な、そんな気持ちになった。不思議である。17歳のルル王女より華美にならず、けれど地味でもない鈴。良いね、と陛下が頭上で笑った。








「それは、私の魔力が込められている。何にも掻き消されず私の耳に届く。何時でも良い、私のことは気にせずにルル王女が私を必要だと思ったら鳴らせ」








クリクリの新緑の目が、私の顔色を伺う様に観察する。好きに観察すればいい。好きに疑えばいい。私は何度でも言おう。








「ルル王女、これは私との約束だ。良いね?」






「随分と強引なことを言うものだな、ルーチェ」






「私も、気に入ったんだ」








全てを絶望しているような目。疑って疑って、信じれなくなった瞳。ただ声なき声で叫んでいる心。自分の殻に閉じこもった、可哀想なお姫様を。








「さ、まずはルル王女に魔力の制御を教えよう。そのまま垂れ流すのも、辛いだろう?陛下と海燕殿も聞いて行くかい?」






「…それは、暗に出て行けということか?」






「まさか!逆に私と海燕殿が出て行こうか?」








私は気に入ったモノはとことん可愛がる主義だ。アマルティア様だって、甘やかしてきたし、ヘルシリアやラドン――竜族の子供も全力で可愛がってきた。痛め付けるという意味で苛めることなどありえない。








「……良い、お前がルルに魔力の制御を教えることが出来ると言うならやってみろ」






「それは、過去に試したけど無理だったと言っているのと同じだけど?」






「あぁ、その解釈で違いない」






「そりゃ、アレだよ。教えるのが下手くそだっただけだ。きっと、この子は賢いよ。何処かの誰かさんみたいに、感情のままに魔力を垂れ流していない」






「それは、誰の事だろうな?」






「さぁね」










肩を竦めて、陛下の鋭い睨みを往なす。ルル王女の魔力は穏やかで優しい。まるで、全てを包み込もうとするかの様に。陛下みたいに感情で左右されていないから、きっとこの子は簡単に制御を覚えれるだろう。










今だって私と陛下の遣り取りに、不満と不安を覚えている。表情に余り出ていないけど、私には分かる。だって、その顔は私の顏雑賀真夜だったのだから。










「ルル王女、私と陛下の間には何もないよ。あるとすれば、戦友であり主人と部下という関係ぐらいだ。案ずることはない」








本当に?そう言わんばかりの瞳。ぎゅっと無意識に握り締めている鈴を伝って、流れて来る温かな魔力。この子は、春みたいだ。温かくて優しくて、何も傷付けないように必死で。








「何なら、私は私の名前に誓うよ。陛下とは何もないって」








「…良いか、ルル。頼むから、俺とコイツの間に何かあると思わないでくれ。悍ましいから」








失礼だなコイツ。え、今ここで脳天カチ割られたいのか。いくら前世で恋人同士だったからって、何この言い方。悍ましいって何。前世でもそう思ってたのか?それとも、過去という記憶を乗り越えてそう思い始めたのか?








後で絶対に殴ってやるからな。










海燕殿が何とも言えない顔で私と陛下を見ていたのは、きっとアレの所為。前世のことを知っているうえに、目の前でふかーい口付けをかまされたからだろう。








――けど、あんなこともう二度とないわ。呪詛の件は置いといて、夜鷹姫と陛下を繋ぐ計画を飛鷹と立てているからだ。夜鷹ほど、良い物件はいない。










人間の器では、陛下の魔力を循環させるのは至難…というよりも、絶対に不可能なのだ。量は多いわ、魔力自体が濃いわ。何でそんな魔力を生産出来ているのかが不思議なぐらい、陛下の魔力は濃縮大量。








「…とにかく、陛下と何かあるって疑った瞬間から私は陛下を殺しに掛かるわ」








「本人を前に殺害予告か?あ?」








「黙れロリコン。ルル王女、こんな野郎に何かされたり言われたりしたら言っておいで。即座に、あの首と胴体を切り離してやる」










殺伐とした雰囲気に、海燕殿が溜息を、ルル王女はヒッと息を詰めたのだった。









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