ルーチェ
45.「違う意味でトキメキを覚えたわ」
ルリアの手によって、着飾られていく私。
セイレーンの名を継いだ怪物になる。
化粧を施し、紅を差し、髪を結い上げ、血生臭い戦場に出るよりも、この姿は本能と権力と金の戦場に出る様な、まるで娼婦にも似た姿となる。
「あぁ、美しゅう出来たぞ」
ルリアの麗しい溜め息と共に、私は目を開けて鏡を見つめる。本当に、血生臭い戦場には似合わない姿が目の前に映っていた。
「美しい毒、流るままに水を穢し、憎き男の喉を締めてやれ。妾は見届けよう、ルチア」
「ありがとう。ルリア、最高の喜劇になりそう」
エノクの衣装を纏い、刀を腰に佩く。エノクの正装であり、エノクの鎧。黒い生地に描かれた金色の水蓮の花。背中に水蓮を背負い、足元や前側には長い蔦と蝶が刺繍された鎧を身に付け、私は扉を押し上げた。
百歩譲って、教皇はこの国の王家派にくれてやる。ただし、チャンスは1回。それを逃せば私が斬る。愚かなジューダス家を唆し、チカラ欲しさに我がエノクを滅ぼしたヴァッザー神聖国。
権力と金にまみれ、欲に忠実になった者どもよ。
「喰ろうてやろう、血肉を啜り、骨さえも残せさぬ様に」
刀の柄を撫で、太陽が沈み紫燈から濃紺へと移り変わる空を見上げて私は嗤った。
私は海の怪物セイレーン。
一夜にして大国を滅びの道へ導いた海の歌鳥。この羽を捥ぐ者は誰も居ない。
精々、私たちの手の平の上で踊り狂え。そして、死ね。
「…わぁ、」
「すげぇ」
賛嘆の声。敬意と畏怖の視線。ごちゃ混ぜになった感情。それらを目の前に、私は腰から抜いた刀を鞘のまま掲げる。
「――さぁ、麗しき水の国の精鋭たちよ!」
謳え。
「今こそ牙を向け!愚かな女を祀る男に制裁を!愚かな女には死を以って粛清を!」
謡え。
「我はエノクの怪物。海の怪物セイレーンの名を持つ者!今宵、主らに力を貸そう!この国を取り戻し、再び水のように清らかに自由な国に戻そうではないか!」
唄え。
「戦え!祈れ!守れ!願え!望め!!この国の行く道を、この国に生まれて来る新たな命の未来を!!」
歌え!!
「撃ち落とすのは教皇派!血に濡れろ!そしてこの様な出来事をもう二度と起こさぬ様、流した血に誓え!血に濡れた誇りを忘れるな!」
下した刀の切っ先を城へと向ける。今から落とす。王家派はこの日の為に力を蓄え、情報を得て来た。無闇に命を奪わぬ様に、侍女や使用人たちを調べ、潜ませてきたのだ。
「お嬢ちゃん。盛大な叱咤激励をありがとう。民たちの避難は済んだ、いつでも行けるぞ」
「ラルファ、まずはこの王家派を今日まで導いてきた騎士団長に会いたいんだけど」
「あぁ、そう言うだろうと思って連れて来たよ」
ラルファの影から出て来たのは、随分とガタイの良い男だった。威圧感といい、圧迫感といい、まるで覇王の様な男ではないか!短く刈り上げた金髪と鋭い青眼の男。これが、この国の騎士団長!!
セイレーンの名を継いだ怪物になる。
化粧を施し、紅を差し、髪を結い上げ、血生臭い戦場に出るよりも、この姿は本能と権力と金の戦場に出る様な、まるで娼婦にも似た姿となる。
「あぁ、美しゅう出来たぞ」
ルリアの麗しい溜め息と共に、私は目を開けて鏡を見つめる。本当に、血生臭い戦場には似合わない姿が目の前に映っていた。
「美しい毒、流るままに水を穢し、憎き男の喉を締めてやれ。妾は見届けよう、ルチア」
「ありがとう。ルリア、最高の喜劇になりそう」
エノクの衣装を纏い、刀を腰に佩く。エノクの正装であり、エノクの鎧。黒い生地に描かれた金色の水蓮の花。背中に水蓮を背負い、足元や前側には長い蔦と蝶が刺繍された鎧を身に付け、私は扉を押し上げた。
百歩譲って、教皇はこの国の王家派にくれてやる。ただし、チャンスは1回。それを逃せば私が斬る。愚かなジューダス家を唆し、チカラ欲しさに我がエノクを滅ぼしたヴァッザー神聖国。
権力と金にまみれ、欲に忠実になった者どもよ。
「喰ろうてやろう、血肉を啜り、骨さえも残せさぬ様に」
刀の柄を撫で、太陽が沈み紫燈から濃紺へと移り変わる空を見上げて私は嗤った。
私は海の怪物セイレーン。
一夜にして大国を滅びの道へ導いた海の歌鳥。この羽を捥ぐ者は誰も居ない。
精々、私たちの手の平の上で踊り狂え。そして、死ね。
「…わぁ、」
「すげぇ」
賛嘆の声。敬意と畏怖の視線。ごちゃ混ぜになった感情。それらを目の前に、私は腰から抜いた刀を鞘のまま掲げる。
「――さぁ、麗しき水の国の精鋭たちよ!」
謳え。
「今こそ牙を向け!愚かな女を祀る男に制裁を!愚かな女には死を以って粛清を!」
謡え。
「我はエノクの怪物。海の怪物セイレーンの名を持つ者!今宵、主らに力を貸そう!この国を取り戻し、再び水のように清らかに自由な国に戻そうではないか!」
唄え。
「戦え!祈れ!守れ!願え!望め!!この国の行く道を、この国に生まれて来る新たな命の未来を!!」
歌え!!
「撃ち落とすのは教皇派!血に濡れろ!そしてこの様な出来事をもう二度と起こさぬ様、流した血に誓え!血に濡れた誇りを忘れるな!」
下した刀の切っ先を城へと向ける。今から落とす。王家派はこの日の為に力を蓄え、情報を得て来た。無闇に命を奪わぬ様に、侍女や使用人たちを調べ、潜ませてきたのだ。
「お嬢ちゃん。盛大な叱咤激励をありがとう。民たちの避難は済んだ、いつでも行けるぞ」
「ラルファ、まずはこの王家派を今日まで導いてきた騎士団長に会いたいんだけど」
「あぁ、そう言うだろうと思って連れて来たよ」
ラルファの影から出て来たのは、随分とガタイの良い男だった。威圧感といい、圧迫感といい、まるで覇王の様な男ではないか!短く刈り上げた金髪と鋭い青眼の男。これが、この国の騎士団長!!
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