ルーチェ
42「痛みは今でも俺を苛む」
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「いつまで待っても真夜が戻って来ない。そういえば、保健医すら帰って来ていない。回らない頭と動こうとしない身体を動かして、俺は保健室を出た」
唇を噛み締める夜鷹と飛鷹の頭を撫でる。なぁに、アレはお前等が悔いることじゃない。誰も予測することさえ出来なかった。回避することも、何もできなかった。
「そこで、俺が見たのは閑散と静まり返った世界だった。時間さえも止まったような空間。俺は体の不調も忘れて、一目散に真夜の居る所まで走った」
震える手。震える声。震える吐息。今でも鮮やかに思い出せる『前世』の記憶。俺の中で、消えることのない疵を与えた。
「扉を開けた時、真夜と対峙する黒ずくめの姿があってな。真夜は俺に背を向けていた。それで、扉が開いた時に振り返った。俺を見て目を見開いて、来るなって大声で叫んで俺の下へと駆け付けようと走った」
それが、合図だった。
「真夜の四肢が撃ち抜かれ、それ以外にも撃たれていたな。何発もの弾丸が、真夜の身体に撃ち込まれる」
『真夜、真夜、真夜ァァァアアアアアアアア!!!』
響く銃声。響く悲鳴。響く絶叫。響く慟哭。
「そして、真夜は俺の眼の前で殺された。真っ赤な鮮血に染められ、光のない瞳を俺に向けて、伸ばした手が届かなかった」
直ぐに冷たくなっていく真夜の身体を抱き抱えた。動かない。喋らない。俺を見ない、人形のように――否、死体となった真夜。
「それから、黒ずくめたちは俺を撃った。穴だらけだったんじゃないかな、きっと」
そして、死んだ俺たち。
そして新たな生を持って、この世界に生まれ落ちた俺たち。
「とまぁ、そんな前世だったんだ。魔法もないし、魔物もいない。戦いとは無縁の平和な国だったんだ」
「…ぜん、せ」
「そうして、こうやって世界と時を超えて俺と真夜は再会した。夜鷹と飛鷹が再会した。だから、アイツが俺に対してあぁなのは気にしてないし、気にするまでもないことなんだ」
翔陽も海燕も間抜けな顔で俺を見て来る。なんだ、そんな顔をするな。確かに、今の俺も病弱だろうがな。今の俺は、あんなに弱ったことなどない。
「ただ、今の俺は彩帝国という国の上に立つ人間だからな。真夜じゃないな、ルーチェもその辺は弁えているだろう。」
「…メルキゼデク様、この話はどう思われますか?」
「嘘はねぇみてーだしなァ…」
「当然のことだが、信じていないな」
俺は苦笑するだけだったが、飛鷹はそうもいかないらしい。信じがたい話をしたんだから、別に疑っても良いと思うんだけど。夜鷹も同意見らしく、睨む様にエノクの怪物たちを見ていた。
「飛鷹王、ちと信じるのは無理があるぞォ?」
「そうかも知れぬが、疑うのはまぁ人間の性なのだな。これはヘルシリアやラドンたち竜の一族は知っていることぞ」
「竜の一族まで関与するのかい?」
「竜たちは一番神に近いからなァ。ただな、信じれねぇものは信じれねぇんだよ」
「…ふん、それで良いさ。信じるも信じないも自己次第だ。それよりも、食事を用意させよう。腹が空いただろう?」
飛鷹を宥めるのは夜鷹に任せるとして、食事を取ったらルーチェが動きやすい様にしておくか。ヴァッザー神聖国。ルーチェを怒らせた愚かな国よ。
 「ルーチェの恐ろしさをとんと知るが良い」
そして、後悔しろ。ルーチェの怒りを買ったことを。
【千景SIDE END】
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