ルーチェ

千絢

36.「神の体を蝕むことさえ否とせず」

真夜、ルーチェ、ルゥ、ルー、海の怪物、セイレーン、ルチア。










彼女を示す名前が少なくともこれだけある。彼女の存在を表す名前が、こんなにもあるのだ。












ルーチェを可愛がる竜が付けた、竜古語のルチア。竜の愛し子。生みの親がすぐに彼女を手離したとしても、誰も愛してないことなどない。竜たちだけでも愛する。竜たちが気付いてしまったその魂の行方。










〝存在する必要がなかった存在〟と気付いてしまったが最後、竜たちは否定するように傍に居続けた。決して、必要ない存在ではないのだと。そう願って付けたのだと黒竜が言ったことがある。












「あの子が戻らなかったのは、あの暑い日だけだ。今は戻ってくる。此処に姫も居るのだ、千景も居るし俺も夜鷹も居る。帰って来なければならない」












〈飛鷹、飛鷹!!〉










「戻らなければメルキゼデクとレイヴァールが迎えに行く。否、それよりも先に竜たちが駆け付けてしまうか」










〈本当に、戻るのね!?千景の下に、戻って来るわよね!?〉










「戻るとも、戻るとも。なぁに案ずるな。あの子は初代と二代目から、ありとあらゆることを叩きこまれているんだ、それを水の泡にするほど阿呆でも愚かでもない」










俺と夜鷹を見守る奴等の目には、きっと可笑しな不気味な存在として映っているのだろう。何せ、俺は今人型なのだから。










「―――で、どうしてお主が千景と契約を交わしていないんだ?神獣であるお前とさえ契約を交わせば、多少なりと魔力の循環が楽に出来るだろうに」










「「は?」」








「飛鷹王、今、何と?」








俺の言葉に、彩帝国側が固まった。代表してカイルが俺に尋ねて来る。もう一度言えと?お前等も割と無礼なことをサラッとするよな。










「俺たちは神獣、神の遣いだからな。魔力も持っているし、それなりに魔力の器が大きい方だ。夜鷹は体は小ぶりだが、俺よりも凌ぐ力を持っている」










〈だって、だって…!!〉










「俺に出来てお前に出来ない筈がない。その逆も然り。ルーチェに出来て千景に出来ないことがないだろう。目を覚ましたらやってみろ、手ぐらい貸してやる」










〈…だって、〉










「なんだ?今更自信がないなど抜かすなよ、夜鷹。俺たちは誰の物だ?俺はルーチェの物で、お前は千景の物だろう?何をそんなに不安がるのだ」












俺たちが前世で気付いて来たものは、そんなに柔なモノではない筈だ。何よりも強固で、頑丈で、しっかりしているものだと思っていたが。












「案ずるな、夜鷹」










夜鷹の美しい黒い毛並みに唇を寄せる。震えなくとも良い。何も恐れることなどない。大丈夫だ、俺とルーチェが居るから。










「ルーチェは決して千景を死なさぬ。己の力を使ってでも、あやつは千景を生かすだろうよ。だが、それは俺とて同じ。夜鷹、お前も千景に生きて欲しいのだろう?幸せになって欲しいのだろう?」










〈当たり前じゃない!!もう何年一緒だと思っているの!?〉












我等の願いは、ルーチェ、否、真夜と千景が共に幸せになることだ。前世で幸せになれなかった分、あの子たちは幸せにならなければならない。














異世界の神の身勝手な喧嘩に巻き込まれ、意味も理由もなく命を落とすことを余儀なくされた哀れな少女と少年。










あの子供たちが、幸せにならなければ我等は神を呪い続けるだろう。全ての力を怨念と変え、神の御体を蝕んでやろう。










俺たちは、あの子供たちが幸せになるのを待っているのだ。









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