ルーチェ
34.「男のくせに綺麗な肌だったわ」
千景君の中の魔力を抑えている何かを見つめながら、私は滞る魔力に流れることを促す。何か。術式のようにも見えるソレ。複雑な模様だけど、よく見れば文字に見えないこともない。
これが東の島の魔術というか呪術なのか。見れば見るほど悍ましくなってくる。術式を覚えて、レイ兄様に教えないと。
 「…っふ」
 「んんぅ」
どちらともなく零れる甘い吐息。ゆっくりと千景君の身体が弛緩していくのが分かった。そして、完全に力が抜けた時にはもう千景君は眠っていた。
「…っはぁ、」
ツツと私と千景君を結ぶ銀の糸が見えた。けど、それはすぐに消える。濡れそぼった唇を舐めて、私は首を回す。ゴリッゴリッと嫌な音が鳴る。
「な、な、な、何をした!!」
「何って、魔力の循環したのよ。暫くは大丈夫だから、夜鷹姫が心配するようなことも、まずないと思うわ」
<人目を憚らずするとは…>
 <流石ルーチェというか真夜ね>
呆れたような声音を聞き流して、私は自分の用件だけを伝える。長居は無用だ。さっさとヴァッザーの方に取り掛かりたい。
「身体が楽になったからって無茶するなって伝えといて頂戴な。私、これからヴァッザーに飛ぶから」
「「はァ!?」」
「何です?あ、レイ兄様、ヘルシリアをお借りしますね」
「え、あ、はいどうぞ」
訳が分かっていないレイ兄様たち。深く言うつもりもないし、第三皇子たちを抑えているアマルティア様には感謝しきれないな。
「帰ってきたらアップルパイもお願いしますね、ルー姉様」
「勿論、最高の喜劇のお供にお作りいたします」
アマルティア様の要望に笑顔で頷いて、私は窓が開きっ放しバルコニーに向かう。必要なものはこの身ひとつで良い。戸惑うばかりのレイ兄様は、それでも合図をしてくれた。
ヘルシリアが降りて来る。立派な純白の鱗を持った竜族の中でももっとも高貴な存在。ラドンの対であり番。
「さ、ヘルシリアお願いね」
任せてと言わんばかりに高らか咆哮を上げ、私を乗せて大空へと舞い上がった。さあ、向かおう。憎きヴァッザー神聖国へ。その首を刎ね飛ばしてやろう。
3日後、此処に戻ってくる。
最高の報告を持って、戻ってくる予定だ。まぁ、国外追放にはなっていないだろう。そこは千景君が……うん、どうにかしてくれると信じたいな。
<ルチア>
「ヘルシリア、いきなりごめんね?」
<かまわん。レイヴァールもお前1人で行かせる気はさらさらなかったのだろう>
低いアルトボイスが脳裏に届く。私をルチアと呼ぶのはヘルシリアとラドンだけだ。竜たち独自の言葉―竜古語―の竜に愛された子という意味を持って、呼んでくれるらしい。
ちなみに、他の竜たちも私のことはルチアとして広めているらしい。ヘルシリアもラドンも竜の頂にいるような2匹だもんね。メル兄様やレイ兄様以上に可愛がってもらっている。
「え?ヘルシリア、私と居てくれるの?」
<当たり前だろう。あんな気が狂った国にお前だけ置いておけるか!>
「…ありがとう」
人型も取れるから、多分人型で傍に居てくれるんだろう。他の怪物たちを連れて来る気は一切なかったし、その他の誰かを連れて来る気もなかったけど、こればかりは嬉しい誤算だ。
<妾の可愛いルチア、お前だけにはさせぬよ>
「ふふ、本当にありがとう、ルリア」
ルリア、私とレイ兄様とメル兄様と番のラドンしか呼ばない愛称だ。その昔、幼かった私がヘルシリアと呼べなかったのがきっかけで、レイ兄様が愛称を考えてくれた。ソレがルリア。
ルリア、鈴の様な響きを持った竜は私の母であり姉の様な存在。メル兄様とレイ兄様に引き取られた私を、ここまで成長させてくれた育ての親。いつでも傍に居て、私に世界を教えてくれたのだ。
<さぁ、掴まってろ。速度をあげるぞ>
ルリアの言葉と肌を撫でていく風のスピードが上がったことに、私は慌ててルリアにしがみ付いた。
――ヴァッザー神聖国、崩壊まであと3日。
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