ルーチェ

千絢

33.「今度は誰の手でもなく私の手で」

〈で、どうなの?出来ないの?〉










「…夜鷹姫、ほんっとうに大好きなんだねぇ。良いよ、やろうじゃん」










夜鷹姫の冷たい声なんて出来るなら聴きたくないよ。それに、私も陛下の身体が心配だ。こんな状態で、よく今まで生きて来れたって感じだし。前世からの縁ってことで、私は恥も何もかも捨ててやろう。










「当人の置いて、話を進めないでほしいけどな」








「当人を置いて話を進めなければ、きっと話は進みませんからね。堂々巡りなど時間の無駄ですから」












「お前、言うようになったな?」










 「前と違って図太さも手に入れたものでね」












そこに居たのは、皇帝陛下ではなくただの千景君だった。図体に似つかわぬ儚げ笑みを浮かべ、彼は目を伏せる。










「この命、どこまで保つか心配だったんだ。魔力の所為でそう長くは生きられないからな」












いきなりの告白に、誰もが動きを止めた。夜鷹姫も飛鷹王さえも。この人は、いつまで生きれるか心配と不安の中で生きて来た。誰にも言わず、1人で苦しんできた。










「だが、どうやら俺は翔陽とアマルティア姫の晴れ舞台を見ることが出来そうだ」








「あに、うえ」










「あとは2人の御子を見るだけだな」








その子が、この国に立ってくれれば俺は何も思い残すことはないだろう。










嗚呼、兄弟仲は美しき哉。










前世での千景君って、実は凄いネガティブだったのね。まさかそれが今も発揮されているなんて思わなかったけど。つか、サポート役を務めて来たであろう海燕殿は物凄く泣きそうな顔なんですが。










意味が分からない。








「――あのさ、」












空気が読めてねーな!みたいな目で見ないでくれるかな、怪物の君たち。確かに空気読めてないと思うけど。自覚はあるのよ、これでも。












「ぶっちゃけて言うけど、第三皇子とアマルティア様、その他国民の幸せを見つめるだけで満足なわけ?他人の幸せは自分の幸せとか言うなよ」










私の冷め切った声が響き渡った。








「ル、ルーチェ?いくらなんでも、それはないだろ…?」










「カイル兄上は黙ってて。私、本気で言ってるから。生まれてこの方20年、こんなに本気になったの4年ぶりだよ」








「いや、おま、でもな?」








「大陸一の軍事力を擁する帝国の頂点に立つ人でも、今なら殺れる気がするんだわ。分かる?私、凄い怒ってんの。今から助けようかって人が、実は死ぬ覚悟してて?弟の幸せを見れただけで十分とか抜かしたんだよ?自分の幸せを置いて、弟の幸せだよ?殴りにかからなかっただけ賢いよ、私」








「何でそんなに怒ってんの!?」










ギロリと陛下を睨んだ。否、陛下じゃなくて千景君。ただの彩牙千景を。いきなりのことに、少し体を揺すらしたけど流石大帝国の皇帝。直ぐに私を睨み返す。










「ふふ、ルー姉様は陛下にも幸せになって欲しいんですわ。だから、諦めた様な陛下が許せないのでしょう」










「もうアマルティア様、流石です。今度、チェリーパイを贈らせてください」










「あら!本当?嬉しい!」












アマルティア様は多分だけど、目覚めて初めての笑みを浮かべてくれた。花が綻んだような笑顔で、本当に可愛らしい。












「アマルティア様が代弁してくださりましたが、私は諦めていることに非常に腹を立てております」












カツ、カツ。靴が鳴る。私と千景君の距離が少しずつ縮まって行く。一歩、また一歩と距離を縮めた。












「誰かの呪いで殺されるぐらいなら、今度は私に殺されてよ」












千景君の前に立った私は、腰を屈めて耳元で囁く。その心、その魂すらも愛おしい。だから、誰かに殺されるぐらいなら、私が貴方の心臓を刀で貫いてあげる。










「そして、もう一度ゼロから始めましょう?」










カタチの良い耳朶をなぞり、輪郭をなぞって、私の名前を呼ぼうとした口に口付け。薄くもなく厚くもなく、その乾いた唇を舐めて、深く深く唇を合わせた。











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