ルーチェ
28.「偽善以外の言葉など持ち合わせてない」
「良いですか、アマルティア様。私はジューダス家を滅ぼしたいと思っています。簡単には死なせてやらない。ゆっくり、苦しみながら死ねばいいと思ってます。ジューダス家を唆したヴァッザー神聖国も潰したい。けれど、それをして国王や王妃、民たちは戻って来ますか?血を血で拭っても、また溢れだした血を血で拭うことになるんです」
私は語りかけるように言う。アマルティア様だけでなく、私の言葉に耳を傾けてくれる人の心に届く様に。
「平和を望むのは万国共通でしょう?誰が好き好んで血を流したいですか。誰も傷つかない世界なんてないんです。それでも、そういう世界を望むことは悪い事じゃない。寧ろ、そう望むことで何かが変わると思いませんか?」
「…ルー姉様、何が言いたいんですか?初代系統の姉様が、今更、何を言うんです。私の目の前で嗤いながら何十人も殺してきた貴女が、何を偽善ぶって言っているのですか?!」
「えぇ、これは偽善ですよ。それ以外何もありません。だって、私は初代系統。戦うことが好きなんですもの。それでも、平和ぐらい望みますよ」
アマルティア様の声は冷たい。冷め切った声だからこそ、私の思いが届いていない。まだ14歳だ。下手に感情を隠されるより良い。だから、もっとその感情を見せて欲しい。
「アマルティア、貴女はこの件を私たちに任されたんですよ。貴女の思いがどうであれ、この件は私たちが終わりまで持って行きますから。今、自分がルーチェに何を言ったのか考え直しなさい」
――レイ兄様が静かに告げた。レイ兄様が怒っているのは、きっと私のためだと思う。彼が一番私を可愛がってくれていたから。
だけど、レイ兄様の言葉で私に向かう目線が冷たくなった。そういやあ、レイ兄様とメル兄様以外ってエノク限定アマルティア様至上主義だっけ。忘れてたわー。どうでも良い事だから。
別に喧嘩がしたいわけではない。暗いベールを通して怪物たちの顔を見渡す。私に対する、憎悪に近い感情。
「良いねぇ、その眼」
ベール越しだというのに、この腹の底から湧きあがってくる何か。ぞくぞくと粟立つ肌。戦慄。思わず唇を舐めて嗤う。カイル兄上たちに緊張が走ったのが分かった。
「潰すのはヴァッザー上層部、教皇派だ。民は殺す必要はない。なぁに、虚構の信仰は直ぐに消え失せるさ。海に面した貿易が盛んな国だからねぇ、領地にしてしまえばいい。利用できるものは利用しないと無駄だ。それに、」
私は言葉を区切る。
「アマルティア様が自ら、私に動くことを望んだ。私のすることに口を出さないでいただきたい」
ベールを脱ぎ捨てる。紫紺の、群青の、紺藍の、エノクの民にしかない色の瞳を見つめた。怪物たちの私に対する感情は、僅かな怒り。
「おれ、お前を殺したくなるの久しぶりダヨ」
「ははっ、オリアスク兄上も面白いことを言いますね。でも、見っとも無いから殺し合いなんかしませんよ?」
オリアスク兄上の不満を笑って返しながら、私は息を吸い込む。向けられる感情に煽られるな。冷静になれ。落ち着け。
 「お前、やっぱ俺の系統だわ。傲慢だ」
「褒め言葉です、それ。傲慢で何が悪いんですか。偽善で何が悪いんですか。私の本音だというのに。まぁ、楽しみにしててくださいよ。下手な復讐劇よりも、上手な喜劇を見せてあげます」
メル兄様はクツクツと喉の奥で笑う。どうやら、メル兄様は賛成してくれるらしい。
「良いだろう!この件はルーチェに任せる。カイル、オリアスク、グレイアス、アシュル、シェザード、イゼベル、アマルティア、お前たちは黙って見ていろ。エノクの民を滅ぼした愚かな国の行く末を!」
「海の怪物が奏でる物語を見届けましょうね、皆さん」
ほんっとメル兄様とレイ兄様のお気に入りで良かったよ。視線はかなり冷たいし痛いけどね!そんなの『前世』でへっちゃらなんだけどさ!
私は語りかけるように言う。アマルティア様だけでなく、私の言葉に耳を傾けてくれる人の心に届く様に。
「平和を望むのは万国共通でしょう?誰が好き好んで血を流したいですか。誰も傷つかない世界なんてないんです。それでも、そういう世界を望むことは悪い事じゃない。寧ろ、そう望むことで何かが変わると思いませんか?」
「…ルー姉様、何が言いたいんですか?初代系統の姉様が、今更、何を言うんです。私の目の前で嗤いながら何十人も殺してきた貴女が、何を偽善ぶって言っているのですか?!」
「えぇ、これは偽善ですよ。それ以外何もありません。だって、私は初代系統。戦うことが好きなんですもの。それでも、平和ぐらい望みますよ」
アマルティア様の声は冷たい。冷め切った声だからこそ、私の思いが届いていない。まだ14歳だ。下手に感情を隠されるより良い。だから、もっとその感情を見せて欲しい。
「アマルティア、貴女はこの件を私たちに任されたんですよ。貴女の思いがどうであれ、この件は私たちが終わりまで持って行きますから。今、自分がルーチェに何を言ったのか考え直しなさい」
――レイ兄様が静かに告げた。レイ兄様が怒っているのは、きっと私のためだと思う。彼が一番私を可愛がってくれていたから。
だけど、レイ兄様の言葉で私に向かう目線が冷たくなった。そういやあ、レイ兄様とメル兄様以外ってエノク限定アマルティア様至上主義だっけ。忘れてたわー。どうでも良い事だから。
別に喧嘩がしたいわけではない。暗いベールを通して怪物たちの顔を見渡す。私に対する、憎悪に近い感情。
「良いねぇ、その眼」
ベール越しだというのに、この腹の底から湧きあがってくる何か。ぞくぞくと粟立つ肌。戦慄。思わず唇を舐めて嗤う。カイル兄上たちに緊張が走ったのが分かった。
「潰すのはヴァッザー上層部、教皇派だ。民は殺す必要はない。なぁに、虚構の信仰は直ぐに消え失せるさ。海に面した貿易が盛んな国だからねぇ、領地にしてしまえばいい。利用できるものは利用しないと無駄だ。それに、」
私は言葉を区切る。
「アマルティア様が自ら、私に動くことを望んだ。私のすることに口を出さないでいただきたい」
ベールを脱ぎ捨てる。紫紺の、群青の、紺藍の、エノクの民にしかない色の瞳を見つめた。怪物たちの私に対する感情は、僅かな怒り。
「おれ、お前を殺したくなるの久しぶりダヨ」
「ははっ、オリアスク兄上も面白いことを言いますね。でも、見っとも無いから殺し合いなんかしませんよ?」
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