ルーチェ
27.「私の考え、聞いてくれる?」
「そうです。ルー姉様には自由に動き回って欲しいのです」
「…アマルティア様、それは」
「ヴァッザー神聖国は海に面しています。カイル兄様とルー姉様、2人が揃えばあの国は一夜にして海の底です」
「おーぉ、実はめっちゃ怒ってんなァ」
「当たり前でしょう?自分の国を潰されて怒らない主など居ませんわ。ただ、私はエノクの王女。そして彩帝国第三皇子に嫁いだ。私が動くことを許されないのならば、最も近くに居たルー姉様に動いてもらうのが一番良いのです」
メル兄様に反抗的に言葉を返し、紫紺の瞳を私に向けた。エノクの意思が受け継がれた目。私が守ることを誓った人。私は、その眼を待っていたのだ。
「アマルティア様のご意思、しかとこの胸に刻み付けさせていただきます。多少の犠牲は止む負えませんが、良い結果を出させていただきましょう」
「おーお、出た出た。怪物最後の良心が」
『前世の記憶』がある分、私はあまり戦いを好まない。するときはするけど、必要以上殺したくはないのだ。まぁ、初代系統だから戦いだしたら愉しくなるのが如何せん頂けないが。
「お前、本当に俺の系統かァ?」
そう、初代系統の始まりはこの人――メルキゼデク様だ。ちょっと何年生きてんだよって思うんだけど、この人は一度死んで数百年前に生まれ変わったらしい。でも、肉体も精神も死ぬ前と変わらず。なんて恐ろしい人なんだろう。
「安心してください。正真正銘、貴方の系統ですから」
ファンタジー過ぎて、初めて耳にしたとき反応が出来なかった。というか、出来たら出来たで私の理解力半端ないだろう。順応性、そこまで豊かじゃないんだ。
「だったら、少し聞いてもらいたいことがあるのだけど…」
 「アシュル」
 「もう良いじゃないの。あたしとシェザードが仕えている北の国の王子のことなんだけどね」
 母は父に窘められようとも、諦めたように微笑んで喋り始めた。父は何かを言いたそうに眉を潜めたが、母の顔を見て溜め息ひとつ。
 「――北の国の王子、アイオリア様のお母様はもう亡くなっているんだけど、ヴァッザー神聖国の王女だったの」
「はァ?王女ォ?ヴァッザーにゃ、そんなの居たかァ?」
「極秘で存在していたんですよ。ヴァッザーも元はただの国だったんですもの。今の教皇は、亡き王女の叔父に当たります」
「…あぁ、そうだったね。神聖国とかなんとか言いだしたのは、数年前の内部抗争の末だったかな」
 北の国の王子が、実はヴァッザー神聖国の血筋に当たる。しかも直系の血筋と来た。私の脳内で目まぐるしく情報が飛び交い、作戦、対策が組み立てられていく。
どうすれば、最少の犠牲で済むのか。私の思考の結末はそこにあった。目を閉じて、眼前で交わされる情報を聞きながら私は思考を回す。
 「ルー姉様?」
 「北の国でのアイオリア様の立ち位置は?」
 「目も当てられないわ。本人は気にした風もないんだけれど、見ているこっちが殺してしまいそう」
母の危ない発言はスルーして、私は仮定を固定する。それで行こう。これで行こう。
「アイオリア様にヴァッザーを正してもらうことにしましょう。血を血で拭ってもどうにもならないんですから。私たちの名が、心が、命が潰されてしまったけれどソレを関係のないヴァッザーの民に押し付けるのは理不尽です」
「姉様!!」
批判に近いアマルティア様の叫び。分かる。彼女が言いたいことも。周りが向けて来る驚愕の視線の意味も。そして、視界の片隅で陛下が穏やかに笑ったことも。
「…アマルティア様、それは」
「ヴァッザー神聖国は海に面しています。カイル兄様とルー姉様、2人が揃えばあの国は一夜にして海の底です」
「おーぉ、実はめっちゃ怒ってんなァ」
「当たり前でしょう?自分の国を潰されて怒らない主など居ませんわ。ただ、私はエノクの王女。そして彩帝国第三皇子に嫁いだ。私が動くことを許されないのならば、最も近くに居たルー姉様に動いてもらうのが一番良いのです」
メル兄様に反抗的に言葉を返し、紫紺の瞳を私に向けた。エノクの意思が受け継がれた目。私が守ることを誓った人。私は、その眼を待っていたのだ。
「アマルティア様のご意思、しかとこの胸に刻み付けさせていただきます。多少の犠牲は止む負えませんが、良い結果を出させていただきましょう」
「おーお、出た出た。怪物最後の良心が」
『前世の記憶』がある分、私はあまり戦いを好まない。するときはするけど、必要以上殺したくはないのだ。まぁ、初代系統だから戦いだしたら愉しくなるのが如何せん頂けないが。
「お前、本当に俺の系統かァ?」
そう、初代系統の始まりはこの人――メルキゼデク様だ。ちょっと何年生きてんだよって思うんだけど、この人は一度死んで数百年前に生まれ変わったらしい。でも、肉体も精神も死ぬ前と変わらず。なんて恐ろしい人なんだろう。
「安心してください。正真正銘、貴方の系統ですから」
ファンタジー過ぎて、初めて耳にしたとき反応が出来なかった。というか、出来たら出来たで私の理解力半端ないだろう。順応性、そこまで豊かじゃないんだ。
「だったら、少し聞いてもらいたいことがあるのだけど…」
 「アシュル」
 「もう良いじゃないの。あたしとシェザードが仕えている北の国の王子のことなんだけどね」
 母は父に窘められようとも、諦めたように微笑んで喋り始めた。父は何かを言いたそうに眉を潜めたが、母の顔を見て溜め息ひとつ。
 「――北の国の王子、アイオリア様のお母様はもう亡くなっているんだけど、ヴァッザー神聖国の王女だったの」
「はァ?王女ォ?ヴァッザーにゃ、そんなの居たかァ?」
「極秘で存在していたんですよ。ヴァッザーも元はただの国だったんですもの。今の教皇は、亡き王女の叔父に当たります」
「…あぁ、そうだったね。神聖国とかなんとか言いだしたのは、数年前の内部抗争の末だったかな」
 北の国の王子が、実はヴァッザー神聖国の血筋に当たる。しかも直系の血筋と来た。私の脳内で目まぐるしく情報が飛び交い、作戦、対策が組み立てられていく。
どうすれば、最少の犠牲で済むのか。私の思考の結末はそこにあった。目を閉じて、眼前で交わされる情報を聞きながら私は思考を回す。
 「ルー姉様?」
 「北の国でのアイオリア様の立ち位置は?」
 「目も当てられないわ。本人は気にした風もないんだけれど、見ているこっちが殺してしまいそう」
母の危ない発言はスルーして、私は仮定を固定する。それで行こう。これで行こう。
「アイオリア様にヴァッザーを正してもらうことにしましょう。血を血で拭ってもどうにもならないんですから。私たちの名が、心が、命が潰されてしまったけれどソレを関係のないヴァッザーの民に押し付けるのは理不尽です」
「姉様!!」
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