ルーチェ

千絢

26.「おはようございます、我等が宝」

その光が宿った紫紺の瞳に、私の心は、私たちの心は歓喜に震えた。誰もが立ち上がり、アマルティア様に忠誠を誓う様に跪く。








「おかえりなさいませ、我等が宝、エノクの宝」






「―――…唆され謀反の旗を掲げた彼等は神聖国に居ます」








少し掠れた綺麗なソプラノボイスが、儚く宣託の様に告げる。彼等とはジューダス家の人間のことだろう。これまでのことを『視』て来たアマルティア様の顔は悲痛に満ちているが、エノクの光は潰えてはいない。








私たちは立ち上がって、何もなかった様に席に着く。彩帝国側は呆然としているが、彼等は見学者だ。気にしない。呼んでおいて悪いが、彼等の扱いは空気と同然なのだ。










「神聖?あァ、ヴァッザー神聖国かァ」








「メル兄様、ご存じで?」








「あそこは、アレだ。アクアディゲンとかいう生き女神を崇め立てる宗教国家だ」








「生き女神ぃ?そんなモン、存在するんですか」








「ただの人間だ。その女に虜にされた教皇が代々食えねェ男でな」








昔、ウチとドンパチしたことあるんだぜェ?






メル兄様はそう言うが、ソレはざっと200年前の話だ。私たちが知るわけがないだろう。ふざけているのだろうか、この人は…。ふざけていなくても、この調子だから分からないのが難点な所だ。








「兎も角、そこに居るってことはジューダスはヴァッザー神聖国に唆されたってことカナ?」






「違いないでしょう」






「あーぁ、そういうことか。ジューダス家は、近親相姦がなかったな。今まで生き延びて来れたのは、祖国から婿なり嫁なり娶ってたからか」








グレイアス兄上とカイル兄上の考察が飛び交う。強ち、読みは間違っていないだろう。ヴァッザー神聖国、別名が水の国という水源豊かな国である。、国王や皇帝ではなく教皇が国の頂点に立ち、国の采配を揮う。








ジューダス家は、ヴァッザー神聖国に呑み込まれた。








「ジューダス家については、貴方がた怪物たちに任せます。焼くなり煮るなり、好きにしてください」








「アマルティアの許可が下りたぞォ、カイル」






「姫の言葉、ありがたく頂戴いたします」








からかう様に笑うメル兄様とアマルティア様の言葉に頭を下げるカイル兄上。カイル兄上は余程ヴァッザー神聖国を潰したいとう伺える。








「ジューダス家のみならず、ヴァッザーまで潰すのかい?」








「あの国には迷惑しているんだ。あの国に名を潰されたのは彩帝国だけじゃない。俺たちの名を、心を、命を潰された…!!」








 「…それじゃあ、情報は僕が経由しようか。なぁに、叩けば埃はたくさん出て来るよ。それなりの理由を用意してあげる」








「おれはグレイアスの手伝いをするヨ」








カイル兄上に便乗したのは、オリアスク兄上とグレイアス兄上。くつくつ、くすくす、からから。3人は面白そうに楽しそうに笑っている。








「カイル、オリアスク、グレイアス、落ち着いてください。その不気味な笑い方に彩帝国の方々が引いていますよ。それに、一先ず話をまとめましょう。潰すお話はそれからです」








レイ兄様の言葉で、ピタッと笑うのを止めた3人。笑っていた顔がスッと引き締まり真顔になる。この間、約2秒程だ。この身代わりの早さには、いつも惚れ惚れとしてしまう。








「イゼベル姉様は私の侍女を引き受けてくださいませんか?」






「私が、ルーティの侍女を?」






アマルティア様からの突然の振りにイゼベル姉上が固まった。勿論、固まったのはイゼベル姉上だけではない。現侍女の私もだ。







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