ルーチェ
24.「初っ端から挫けそうだ…!!」
圧倒的な威圧感が広がる空間に、私は思わずと小首を傾げた。メル兄様はまだ到着していない筈だ。なのに、この圧倒的な威圧感は誰?会議室を見渡す様に私は視線を彷徨わせる。なんとも居心地の悪い威圧感だ。
会議室の中央には、長方形の長い机が置かれていた。その周りに席が設けられている。端には陛下が座っていて、対面は空席。恐らくアマルティア様の席だろう。
「――やぁっと来たネ」
「オリアスク兄上、これは一体どういう状況で?」
「これはね。皇帝陛下のご機嫌が麗しくないだけサ。とりあず、座りなヨ」
オリアスク兄上に勧められるがままに、私はアマルティア様の左隣の席に腰を下ろす。そして右側はメル兄様が座ることだろう。
アマルティア様を席に座らせ、イゼベル姉上はメル兄様の隣の空席へと腰を下ろした。アマルティア様の首がガクンと落ちていて、糸の切れた操り人形のようだ。けれど、美しさは損なわれていない。エノクの宝ゆえだろうか。
「久しぶりね、ルーチェ」
「お久しぶりです、母上」
うっとりと微笑む彼女は私の母親で、複合の怪物キメラの名前を持つ人だ。縹色の瞳を細ませて私を見る。その瞳に映った感情を読み取ることが出来ないけど、多分私の成長を喜んでくれているんだろう。
「ルーチェ、アマルティアの様子は?」
鉄納戸の瞳でアマルティア様を見つめる彼は私の父親だ。巨人の怪物、ネフィリムの名を賜った通り、誰よりもずば抜けて体格がイイ。国王とは幼馴染だったらしく、アマルティア様のことは娘の私よりも可愛がっていたと思う。
「眠っているだけですので心配はありませんよ。それよりも、メルキゼデク様とレイヴァール様はまだ到着なさらないんですかね?」
ちょっと遅いんじゃないかな?父から目を逸らして、目を閉じているカイル兄上を見た。その瞼が上がった時、憤怒の色を隠しきれていない群青色の瞳が私たちを捉える。
「カイル兄上、落ち着いてください」
「落ち着いている」
 「この短時間で、何でそんなに雰囲気が変わるんですか」
私は煽られないように、そっと溜め息を吐きながら言う。カイル兄上は温厚だけど、スイッチが存在する。オンとオフ。それはまるで正反対の性格。オリアスク兄上と似ていて異なる。オリアスク兄上は、温厚そうに見えるだけで実は腹の中に狂気を飼っている様な人だ。
事実、カイル兄上は温厚だ。
「ルーチェ、諦めなって。もうカイルは切り替わってるよ」
「…はぁ」
ビシバシと感じる威圧感。カイル兄上の威圧感と、皇帝陛下自身の威圧感。混ざり合った、二つの違和感に溜息を吐かずにはいられない。
煽られない様に、煽られない様に。
憐れむような目で見るなよ、グレイアス兄上もイゼベル姉上も。くっそ。一番影響の少ない第四系統だからって。クッソ。
「メルキゼデク様とレイヴァール様、もう領域内に入ったわ。あらあら、珍しいことね。お2人とも、一緒に居るわよ」
イゼベル姉上は私を憐れむような目を見ていたのに、途端に何かに気付いた様な素振りを見せる。弾んだ声が会議室に響く。
その刹那――轟々と唸る大気の音が耳をつんざき、今にも喰いかかって来そうなほどの大きなシルエットが視界の隅に入った。
場所は、バルコニーへと続く大きなガラス窓。
会議室の中央には、長方形の長い机が置かれていた。その周りに席が設けられている。端には陛下が座っていて、対面は空席。恐らくアマルティア様の席だろう。
「――やぁっと来たネ」
「オリアスク兄上、これは一体どういう状況で?」
「これはね。皇帝陛下のご機嫌が麗しくないだけサ。とりあず、座りなヨ」
オリアスク兄上に勧められるがままに、私はアマルティア様の左隣の席に腰を下ろす。そして右側はメル兄様が座ることだろう。
アマルティア様を席に座らせ、イゼベル姉上はメル兄様の隣の空席へと腰を下ろした。アマルティア様の首がガクンと落ちていて、糸の切れた操り人形のようだ。けれど、美しさは損なわれていない。エノクの宝ゆえだろうか。
「久しぶりね、ルーチェ」
「お久しぶりです、母上」
うっとりと微笑む彼女は私の母親で、複合の怪物キメラの名前を持つ人だ。縹色の瞳を細ませて私を見る。その瞳に映った感情を読み取ることが出来ないけど、多分私の成長を喜んでくれているんだろう。
「ルーチェ、アマルティアの様子は?」
鉄納戸の瞳でアマルティア様を見つめる彼は私の父親だ。巨人の怪物、ネフィリムの名を賜った通り、誰よりもずば抜けて体格がイイ。国王とは幼馴染だったらしく、アマルティア様のことは娘の私よりも可愛がっていたと思う。
「眠っているだけですので心配はありませんよ。それよりも、メルキゼデク様とレイヴァール様はまだ到着なさらないんですかね?」
ちょっと遅いんじゃないかな?父から目を逸らして、目を閉じているカイル兄上を見た。その瞼が上がった時、憤怒の色を隠しきれていない群青色の瞳が私たちを捉える。
「カイル兄上、落ち着いてください」
「落ち着いている」
 「この短時間で、何でそんなに雰囲気が変わるんですか」
私は煽られないように、そっと溜め息を吐きながら言う。カイル兄上は温厚だけど、スイッチが存在する。オンとオフ。それはまるで正反対の性格。オリアスク兄上と似ていて異なる。オリアスク兄上は、温厚そうに見えるだけで実は腹の中に狂気を飼っている様な人だ。
事実、カイル兄上は温厚だ。
「ルーチェ、諦めなって。もうカイルは切り替わってるよ」
「…はぁ」
ビシバシと感じる威圧感。カイル兄上の威圧感と、皇帝陛下自身の威圧感。混ざり合った、二つの違和感に溜息を吐かずにはいられない。
煽られない様に、煽られない様に。
憐れむような目で見るなよ、グレイアス兄上もイゼベル姉上も。くっそ。一番影響の少ない第四系統だからって。クッソ。
「メルキゼデク様とレイヴァール様、もう領域内に入ったわ。あらあら、珍しいことね。お2人とも、一緒に居るわよ」
イゼベル姉上は私を憐れむような目を見ていたのに、途端に何かに気付いた様な素振りを見せる。弾んだ声が会議室に響く。
その刹那――轟々と唸る大気の音が耳をつんざき、今にも喰いかかって来そうなほどの大きなシルエットが視界の隅に入った。
場所は、バルコニーへと続く大きなガラス窓。
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