ルーチェ

千絢

17.「剣を向けられたらへし折りたい」

「さぁ、私たちは私たちの仕事に参りましょうか?」










 「そうだな」








眠るアマルティア様の頬を一撫でして、私たちは部屋を後にした。










これより目指すのは、怪物たちがこの彩帝国に入るための許可を得る為に、第三皇子が居るだろう部屋だ。というか、アマルティア様の寝室の隣の部屋なんだけどさ。










第三皇子は、物凄い程アマルティア様を溺愛している。一体、何が彼女を溺愛するきっかけになったのだろうか?まぁ、それは後々に分かるだろう。14歳の少女を、18歳の少年が愛するきっかけの話はまた後日――。












「翔陽様、失礼します」










「あぁ、カイル団長?どうかしたのかな?」










笑っていない碧眼の目の奥には、私を敵視する色が見え隠れする。他人の顔色を読むことには、長けていると思っている。何せ、思惑いっぱいの王家付きの侍女をしてたから。








「各地に散らばったエノクの民が此処へ集まることを、お許しください」






「エノクの民?アマルティアと君と、そこの彼女だけじゃないのかい?」








「怪物の名を持つ者は、未だ死してはいません。エノクの宝であるアマルティア様の下へ、今一度集まりたいと思っているのです」










「ふぅーん。僕やアマルティアは兎も角、二の兄上に迷惑を掛けないって条件が前提ね」








「お許しくださいますか?」








「良いよ、許可しよう。あ、それと・・・。そこの侍女、二の兄上とはどんな関係かな?」










敵意が詰まった碧眼を私に向け、くるりと指先でペンを回す。手元の書類にインクが飛び散らない様にしながら、器用にくるり、くるりと回す。私に向いたのは敵意。私に与えたのは発言権。










「陛下にお聞きくださいますよう、どうぞご容赦くださいませ」






「へぇ?侍女なのに、随分な口の利き方をするんだね」








「そうなのです。私は一介の侍女にしかすぎません。陛下との間柄に、関係などという言葉を付けるということだけでも烏滸がましく思いますのに」








「よく言うよ」








第三皇子は回し続けていたペンを置いて、おもむろに立ち上がったかと思うと、机の横に立てかけていた剣を鞘から抜き剣先を私に向けた。








キラリと煌めく剣先と第三皇子の鈍い灯りを放つ碧眼に、私はカラダの奥、もっとも深い場所で燻るソレを抑える為に手を強く握る。








「翔陽様!!」






「カイル団長の知り合いらしいけど、二の兄上の周りに居させるのはなぁんか不都合なんだよね」








「――そんなことが聞きたいのではありません!貴方では、この怪物に勝てるはずがありません!!」








「…何だって?」










カイル兄上、それはっきり言っちゃうんだ。言っちゃっても良いものなんだろうか?不敬罪になること間違いなしだ。だが、既に放ってしまった言葉は取り戻すことはできない。










「僕が、たかが侍女に負けると?」










 「たかが侍女ではありません!彼女はエノクの民の中でも数少ない初代系統に当たるのです!4年前の、エノクの国に滅ぼされた大国をご存知でしょう…!?アレは彼女がたった1人でしたんですよ!?」








「…ねぇ、常々思って来たんだけどエノクの民って一体どんな存在なのさ」












呆れた様な、毒気が抜けた様な声。第三皇子は、カイル兄上の言葉に気が削がれたのか剣を鞘に戻し、もと居た場所に戻った。そして、剣ではなくペンを握り直す。









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