ルーチェ

千絢

15.「普通って言う奴が普通じゃない常識」

〈あぁ、早い者は明日の早朝には入るだろうな。明後日までは、時間も掛からないであろう。他の8人、各自一番早い手段でやって来る〉








「となると、早めに許可を貰っておかないとね」








〈宝は、何時目覚めるのだ?〉








「アマルティア様が目覚めるのは、怪物が姿を見せた時だよ。10人、揃った時に目を覚ます。それも、全てが終わった後でね」








可哀想なことだと思っているけど、幼いアマルティア様にはまだ受け入れがたい真実だ。夢の中で、事後報告として伝えられるだろう。王妃様の使う術は複雑すぎて分からないが、夢を媒体にするチカラだったから、そんなことも簡単にしてしまえるんだろう。








「――いつ揃う?」






「カイル兄上!」






「ルーチェ、飛鷹と話すのも良いが不審な目で見られておるぞ」






「いつもの事ですよ。怪物たちは、遅くても明日中には揃うかと」








音も気配もないまま、カイル兄上が部屋から出て来た。ビックリしたじゃないか。気配を読むのは、まだ下手なのだから隠したまま出て来ないでくれ。








「明日中か。よし、会議室を借りておこう」






「カイル兄上、実はキレてますよね」






「ん?そんなことないぞ、俺は普通だからな」








笑顔で言うあたり、キレていると思うんだけどな。会議室を押さえるとか、どんだけ怪物たちと語り合いたいの。否、私も語ってジューダス家を堕としたいけど。






執務室前の壁から離れて、私はカイル兄上の隣を歩く。飛鷹は腕から肩へと移動して、悠々と羽を休めている。








「まぁ良いです。怪物が揃い次第、王妃の掛けた夢が解けます」






「王妃らしく、夢の中で事後報告か?」






「恐らく間違いないでしょうね。泣かれるのを覚悟で、明日は参りましょう」






「侍女らしからぬ言葉だな。ルーチェよ」






「えぇ、アマルティア様が無事に結納を交わしたら、私も侍女を止めて騎士団にでも入ろうかと考えているのです」






「待て待て待て、話が噛み合って居らんから。お前、アマルティア様の傍を離れるのか?」






「離れませんけど、私って侍女に向いていないじゃないですか。4年前の戦を思い出すと、今でもカラダが疼きます」






「…お前、根っからのエノク初代系統だよな」








「人を戦闘狂みたいに言わないで下さいよ。身体を動かすのが好きなだけですから」








 嘘だろう?と目を見張ったカイル兄上の背中に一蹴り入れて、私は腰に穿いた刀を撫でる。実は丸腰ではなかったのだ。帯剣することの許可はカイル兄上がどうにかしてくれている、筈…。








大陸では珍しい剣で、というか私が―エノクの国王からの―特注で作ってもらった刀だ。物凄く切れ味が良くて、重宝させて貰っている。







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