ルーチェ
04.「楽して登城したい」
白んできた空を見上げる。今日も晴れた良い日になるのは違いない。けれど、私の心は大雨。大荒れだよ全く。
登城するのが憂鬱になってきた。けど、国王と王妃の命令を達成しなければならないし。
溜め息を吐きつつ、走り続けてきたせいで疲労困憊であろう馬から降りた。ふっと馬も大息を吐く。悪かったな、今の今まで走らせて。労わる様に首元を叩いてやって、近くの草原に毒草がないことを確認して手綱を木に括りつけて離してやった。
暫く、此処で休憩しよう。彩帝国を一望できる丘の上で、初めての休憩だ。
せめて、日が昇り切るその時まで。草の上に座って、アマルティア様を膝の上に乗せて胸に凭れさせるようにして抱き抱える。
 「彩帝国に入りましたよ、王、王妃」
もう天に昇ったであろう国王と王妃に届けるように呟いて、私はエノクの故郷へと飛ばした相棒を呼び戻すために指を口に当てた。
そして、息を吹き込む。
指笛と呼ばれるソレは、風に乗って青空を駆け抜けていく。暫く待っていると白んだ大空から、大きな影が降下して来た。
相棒の飛鷹だ。全長3メートル程の大きなタカで、幼いころから私と共に過ごしてきた。主に情報収集を担ってもらっている。
私の腕に留まった飛鷹は、ぐるりと鳴いて私を見つめた。赤茶の毛は今日も艶々していて、同じく赤茶の瞳は爛々と輝きを宿している。
〈漸く、入って来れたか〉
「まぁねー。飛鷹、エノクの国はどうだった?」
〈生きとし生けるもの、何も居ない焼け野原だ。ただ、王と王妃が力を使ったんだろう。誰一人として、亡骸は残っていなかったぞ〉
「…そうなの」
飛鷹の言葉に、胸の奥から込み上げてくるものがあった。けれど、此処で私が泣くわけにはいかない。何も知らないまま国が亡び、何も知らないまま嫁入りするアマルティア様の為に。
私の耳に響く声は目の前の飛鷹の声だ。張りのあるテノールで語りかけて来る心地いい。私は言葉と音を操るチカラを持つから、こうやって動物の声も聴くことが出来る。ただ、難点なのが動植物の声を聴くチカラではないから、気を許してくれた動物しか声は聴こえない。
「この国って、確かカイル兄上が騎士団に勤めていたわよね」
〈あぁ。先代皇帝に仕えると言うていただろう〉
「やっぱり、カイル兄上を通して城に入りたいな」
〈王家の印はどうした?〉
「国王、最期の最期にやらかしたのよ。持ってないわ」
〈…そうか。ならば、髪と瞳の色で行くしかなかろう〉
「カイル兄上に会いたいわー」
カイル兄上というのは、雨の怪物ガーゴイルの異名を持つ人だ。
数十年前に彩帝国の先代皇帝に何かを感じたらしく、この彩帝国に移住した。今は、彩帝国の騎士を務めている筈。怪物の名を抜きにして、己の力だけで他国の騎士団に所属し、更には上にまで上り詰めていくカイル兄上。流石としか言いようがない。
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