ルーチェ

千絢

00.滅んだ故郷

世界というのは、どういったカタチであれ残酷ではあるが美しいものだと思う。無残に殺されても、こうやって新たな生を持って生まれる辺りがとても――。










 「ルーチェ、我が国の宝を届けておくれ」










謁見の間にある王座に座る国王と王妃は、迫りくる火の手を後ろにして微笑んだ。どうして、そんな。次々と沸き起こって来る疑問の念。しかし、それらは声にして問わずとも答えは分かっていた。










「そんな顔をしないで頂戴な。私たちが死んだとしても、この誇りと意志はアマルティアに受け継がれるのよ」










「そうさ、ルーチェ。私たちの宝は、お前たち民の宝でもあるんだ。だから、お前が連れて行っておくれ。宝を愛してくれる、彼の下に」










とても情けない表情を王と王妃に晒しているのは自分でも分かった。分かっていたけれど!こんなことは決してあってはいけなかった!!この事態を防ぐことが出来た筈なのに!!!この事態を防ぐことが出来なかった自分の不甲斐無さに、胸の奥が鈍く鈍く痛む。








「命令だ、ルーチェ・アルグラッセル。王女アマルティア・エノクをこの国の外へと連れ出し、婚約者の下へ届けろ」






「…仰せのままに」








王に命令と言われれば、逆らうことなど出来なかった。逆らう権利を私は持ち合わせていないのだ。ただの王家に仕える人間として、私は王と王妃が望むことを成し遂げなければならない。








迫りくる火の手は、王座の真後ろまで来ていた。恐らく、もう城の半分以上は焼け落ちただろう。火は止まることを見せない。轟々と唸り声を上げて、刻一刻と背後へと迫ってくる。けれど、王と王妃は熱がる素振りを一切見せなかった。それは、私に見せる最期の強みだろうか。それならば、私はこの腕の中に眠る宝を抱いて、早急にこの国から出なければならない。ひた隠しにしているであろう熱さの苦しみから、少しでも早く解放出来るのは私だけだから。














この非常事態を見越していた王妃は、もう既に馬を用意してある。数日分の非常食も積んであるらしいから、後はこの身とかいなに抱いた宝だけ。














「幸せにおなり、私たちの愛おしい娘」














「ルーチェ、任せたよ」












最期に見せた王と王妃の笑顔は、今まで見て来たどの笑顔よりも美しくて気高くて、そして親の顔だった。














それが、この宝に見せれないことが何よりも悔しい。










王妃によって強制的に眠らされた宝こと王女、アマルティア様を抱き上げて私は一礼する。










「我が国の王よ、王妃よ。私は、私たち民は幸せでした。国の為に、全てを尽くしてきた王家の人々に永久なる祝福を」












「愛おしい宝と愛おしい民に悠久なる祝福を――」












火が燃え盛り、ゆっくりと炎の中で崩れていく城。真っ赤に燃えていく炎の糧なった我が故郷。燃え尽きた頃には、誰一人として生き残っていないだろう。












長きに渡って平和と安寧を貫いてきた小国、エノクはこの日を以って地図上から消え去った。







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