犬神の花嫁

千絢

20

「さーて、誘拐された女の子たちは無事かなあ」










「無事かなあじゃないよね。無事じゃなかったら、不味いからね」








「分かってますって」 








知り合いの神主さんに頼み、仕えている神様にお願いしてもらい近くの神社にを繋いでいただき、京都の丹後、大江山の麓にいた。










肌に突き刺さるような禍々しい気配を感じながら、私たちは淀んだ空を仰ぐ。強気で色々言ってきたが、生きて帰れるだろうかと一抹の不安を覚える。大丈夫。私はやれる。深呼吸を何度か繰り返し、不安を圧し殺した。










「大丈夫か?」








「あ、うん。ちょっと久しぶりだから、緊張してきたみたいで」








「なに可愛子ぶってんの」








「うっさい!緊張ぐらいするわ!!」








「緊張しなかったら心臓に毛が生えてるのかと思うし、まあ、うん、安心したよ?」








「フォローにすらなってねぇな!良いけど!!殺ってやるクソ野郎!!」








何処かホッとしたように笑う男子たちに吐き捨てて、私は終宵さんから貰った刀の柄を握りしめた。ちくしょー!どいつもこいつも、ふざけんな!!お前等より働いてやる!!










「あ!!先に行くな!!」








「うっさい!!お前らもろとも塵にすっぞ!!」








「あーあ、怒らせた。あの怒り方、父上にそっくりだな」










後ろで犬っこが懐かしそうに呟いていたけど、黎明様ってこんな怒り方してたっけ?記憶が薄れているのか思い出せないけど。










まあ、色々と戦ったのは割愛する。口を揃えて『化け物かありゃ、』なんて言っていたが、保護者や師匠に負けた怪我した死んだという報告は出来ないから頑張ったよ、私。近年稀に見る本気度だったと思う。 








「雑魚は雑魚だな、うん」








「名だたる妖を雑魚って言えるお前はバケモンか」








「ワタツミ様の巫女ナメんなよ?」








「うぃーっす」










妖男子たちや、同業の協力者たちが腐りきった妖魔を消していくのを横目に、私は酒呑童子の前に立っていた。真っ黒に汚れきった酒呑童子は、虚ろな目をして私を見てくる。








「ーーまだ、まだ堕ちてはないみたいだね」








「は?もう完璧に堕ちてんだろ」








「まだだよ。多分、明日の満月で完全体になるんだと思う」








「完全体?」








「うん。堕ち神、祟り神になるってこと。まだ、妖としての酒呑童子が残ってる」








「もう、どうにもならねぇぞ」








「分かってる。こいつは、終宵さんに、ワタツミ様に祟り神として認められたからね。それに、たくさんの花嫁の心に傷を与えたから、救おうとも考えてない」








「じゃあ、何を躊躇っている?」










9本の尻尾が揺らめき、鋭く冷えた金の目に睨まれる。さっさと片を付けろと言いたいのだろう。それは、御先さんだけじゃなくて犬っこたちも同じ様に私を見ていた。










「ーー残留思念ひとつ残さず消す方法ってあると思う?」








「はぁ?」








「千々に切り裂いても、どんなに擂り潰しても、思いだけは残る。魂の片隅に残った思いだけは、誰にも犯されず残るもの。それが残留思念」








「その残留思念がどうした」








「第二の酒呑童子が生まれる種になるの。深い話が聞きたいなら、帰ってからしよう。残留思念は妖だけの、特徴なんだけどね。あぁ、もう。酒呑童子が祟り神になってたら気にせず殺れたのに」










妖の残留思念は妖を生む。酒呑童子が最後に何を思うかによって、次の酒呑童子の性格が違ってくる。だから、少しばかり厄介なのだ。ちなみに、茨城童子はーーー…。










「よし、とりあえず酒呑童子が完全に祟り神になる前に殺すとしようか」










茨城童子は堕ちていても尚、恋人だった酒呑童子を想っていた。静かに、幸せに、暮らしたいと願っていた。封印される前の時のように、一緒に笑って過ごしたかった。










「酒呑童子、茨城童子の元に還ろうね。だぁいじょうぶ、今度は引き離されることもないし、誰にも邪魔されないからね」








次生まれ変わったら、隣には茨城童子が居るよ。



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