犬神の花嫁

千絢

19

戻ってきたら皆が注目してくれた。そんなに見つめないでくれよ。今日は返り血も浴びてないし、綺麗な方だと思うけどな。










「ただいま戻りました。どうかされましたか?」








「いや、1時間丁度だったから。帰って来るの早いな?」








「あぁ、行きも帰りも扉を繋げてくれたんですよ。私のお師匠様なんですけど、茨城童子が槍を奪いに来たらしくて。行った時にはもう虫の息でしたけどね」








「…お前の師匠?」








「はい。人名は風伯ふうはく志那様。神名はシナツヒコ様です」








覚えてないだろうが、犬っこは会ったことがある筈だ。犬っこの名付けに、終宵さんと志那様も来ていたから。失礼だけど神様の中席に名を連ねていた黎明様が、なんでワタツミやシナツヒコと知り合いなのだろう。終宵さんを兄としているあたり、仲がすごく良かったし。










「…お前の周りって神様しか居らへんのか?」








「いや、そんなことないよ?気に掛けてくれる神様は終宵さんと志那様ぐらいだし、山神様みたいに私を呪ってる神様もいるからね!」








「嘘つくな!ワタツミ様!?シナツヒコ様!?何者なんだよ!!お前んとこの巫女は!!」








クワッと牙を向いたのは、北の学園の生徒だ。その生徒だけならず全員が似たような反応で、うちの生徒たちに尋ねていた。顔を見合わせて悩む姿は、呑気さ丸出しである。








「何者なんだよって言われてもな?」








「何って言やぁいいのか」








「斎火さんの、花嫁候補とか?」








鎌鼬の男の子が放った言葉に、皆が顔を見合わせて頷き始めた。いや、違うだろ。誰が誰の花嫁候補だよ。どこをどう見たらそうなるんだ。もっと考えてみろ。花嫁候補より、なんか違うのがあるだろうが。








「は?斎火の花嫁候補は岩蕗いわぶき 芹那せりなじゃなかったのかよ?!つか、お前何人候補作りゃ気が済むんだ!?こっちにも寄越せ!!」








 「え、何、犬っこってそんなに花嫁候補いるの?というか今時、花嫁候補って珍しいわよ。モテるのねえ、アンタ」








「ーーうっせぇ。周りが勝手に花嫁候補だって言ってるだけで認めてもねえよ」








「と言いつつ、その芹那って子の捜索は必死よね。片思いしてんの?」








「セリは御所様の娘だ」








「へー。つまり、あの山神様はお前を完璧に取り込みたいわけだ」










なるほど。私の言い方が悪いかもしれないが、それは犬っこも思っていたことらしく、何も言い返してこなかった。あの山神様は犬っこが可愛くて仕方ないらしい。まあ、黎明様と樟葉様の形見だからだろうが。










「ま、山神様の娘だろうが犬っこの花嫁候補だろうが関係ないか。とりあえず、酒呑童子の居所が分かりました。京都の大江山を根城にしています」








「京都ぉ?」








「かの土蜘蛛や三鬼の存在も確認出来たので、気を引き締めてお願いします。明日は満月ですので、今日中に意地でも決着を着けたいと思います」








「ちょ、ちょい待ち!!そんな急に決着なんぞ無理やろ!!俺らを殺す気か!?」








「なら一番力が満ちる時に戦いますか?その方が負傷率ともに死亡率も、格段と上がりますけど」








「う"っ」








「まあ、作戦を練るだけ無駄だろうな」








「煌希までそんなこと言うん!?マジかよ!!」










あんぐりと口を開け間抜け面を晒す一宮に、何人かが彼の肩を宥めるように叩いた。一宮って案外短気だからね。何度も殴り合えば(物理)、キレる頃合いも分かってくる。










「お宅の巫女さん、マジで何なのよ?コイツが指揮とるのか?」








「ナメてっと痛い目に合うぞ?」








「あのワタツミ様の巫女だからなあ」








「はっ?まじ?」








「神殺しの巫女、」








「あー…はいはい、人名は海神終宵、神名はワタツミの巫女でーす。古い妖さんや神様方には神殺しの巫女って呼ばれてます。指揮を取るっていうか、私は酒呑童子の首を取るために此処に居るので」








「…神殺しの巫女といえ、アレに敵うのかよ」








「仰せつかっているので、必ず首を取ります。神様を殺せるのは私だけですし、祟り神になった酒呑童子を殺せるのもまた私だけですから」








「うぇえ、なんつー女だよ」








「知ってたか?俺たちがサポートされるんやのうて、俺たちがサポートするんやで?」








「ついていける気がしねぇ!!」








「でも神殺しの巫女なんて、本当に実在していたんですねぇ。昔話かと思って…ぇ?」








「…ん?」










年齢を聞く時と聞いたあとは慎重にならないと、ね?たんこぶを作った何人かを横目に、私はため息を吐いた。緊張も何もないなあ。それで良いけど。










「ま、とにかく。やる気を出して、楽しみながら、酒呑童子及び手下どもの撲滅頑張りましょう」








「なんだよ、楽しみながらって」








「勢いつけましょってことです」










どうやることやら。でも、誰一人として死なせるつもりはない。一度は逃がしてしまったけど、今度は逃がすつもりもないし、こちらの完全勝利で納める。

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