犬神の花嫁

千絢

10

時が流れるのは早いもので、皐月5月になり、桜の木も花びらを散らせ、新緑の葉を生き生きと生い茂らせている。待てど暮らせど、目的の酒呑童子は姿を見せない。被害だけが拡大し増加していた。












「ーーもう何回目だろうな、これ作戦会議も」










「煌希、また元老院かいな」










「捕まえろと」










生きる屍の様な顔をした御先さん。度重なる元老院からの召集に、疲れきっていた。お蝶ちゃん曰く、元老院は呼び出す時間を考えておらず、突発的なんだそう。そりゃ疲れるよねぇ。おちおち休めもしないわ。










「何かないのか、タマ」










「何かって言われても…」










御先さんにまでタマ呼びをされるようになった私は、うーんと考える素振りをする。もうこのやりとりも何回目になるのやら。考えて、考えて、それでも出て来なーーー…いや、ないこともないし、もうそれも必要もないな。










「念願の奴さん、やっと来ましたよ」










「え?」










「あぁ、確かに来たようだな」










ハッと鼻で笑った御先さん。犬っこは、目を閉じていて余裕さえも感じられる。一宮や他の妖男子たちは違う。殺気立っていて、まるで親の仇を見るかのように外を睨む。










「タマちゃん…」










「大丈夫、私が守るから。あぁ、他のクラスの子達も此処にひと集めしてしまおう。どこにどう被害が出るか分からないしね」










「では、僕たちが呼んできます」










「お願いします」










3人の妖男子たちが教室から出て行ったのを見て、私はスペース確保のために、机や椅子を後方に集めるべく動き始めた。










「大丈夫なんですか、煌希様…」










「蝶子、何も案ずることはない。堕ちた鬼なんぞには負ける気はない」










「どうかご無事で」










死にに行くんじゃあるまいし、と思ったが強敵は強敵だからそんなものなんだろう。私が助太刀に入っても、どれだけ役に立てるか分からない。長年武道派の巫女をしてたって、相手は極悪非道の酒呑童子。どうにかなる精神で戦ったら負けそう。










「花嫁たちの避難は完了しました。妖たちにも通達してます」












「よし。教員共は?」










「はい、時雨先生に会ったところ、傍観に徹すると。校舎の破損等には目を瞑ってくださるとのことです」








「傍観に徹するんなら、当然の措置やな」










「それでも教師か、って感じだけど。元老院共々役に立たねぇ集まりだな」










「いつもより口が悪いな、朔夜」










「長いこと待たされたんだ、当然だろ」










「みんな苛立ってたんだねぇ」












のんびりと日和が呟く。手掛かりもないし、今か今かと待ち焦がれていたのだ。苛立ってもおかしくはない。特に元老院に突っつかれていた御先さんは。恨み辛みも沸々と沸き上がってくる頃だろうなあ。










「タマちゃん、本当に大丈夫ですか?」










「大丈夫だとは思うけど、酒呑童子がどれだけ強いか分からないしねぇ」










「えぇっ、そんな…」










「無責任?でも、伝承でしかアイツを知らないし、私に期待されてもちょっと応えれるかどうか」










「ーータマちゃんは、あくまでもひよたちの護衛だよ」










日和の言葉に皆が黙った。そりゃ、サポートにも入るかもしれないけど。あくまでも護衛。護衛じゃなかったら、最初から戦闘要員だよねー。日和もたまにキツいこと言うからなあ。私のためだと思えば可愛いけど。










「…そうですわ。タマちゃんは、わたくしたちを守ってくださる。ならばわたくしたちは、無事を祈るだけです」










「…蝶子ちゃん、でも」










「あら、自分の旦那様が信用できないの?斎火様や煌希様、一宮様と御三家が揃ってるんですのよ。それに、死ぬ前には帰ってきますとも」










死ぬ前にって。死にに行くんような素振りで、話をしていたのは誰だろうね。日和とが合ったけど、あえて黙っておこうと言外に告げた。お蝶ちゃんは、周りの女の子を宥めてくれただけだし。










「とにかく、私たちは此処で待機です。願いや祈りが具現し九十九神を生んだように、それは神に通じます。無事を願ってください。成功を祈ってください」








「…うん」










「負けません。誰も死にません」










手を組んで祈り始めた女の子たちを見て、お蝶ちゃんも祈り始めた。此処が戦場になるのは初めてなんだろう。妖男子たちが全員狩り出されるのは初めてなんだろう。だからこそ、不安と恐怖が大きくなる。










不安は、妖男子たちも抱いているだろうけど。私が何を語ると言うわけでもないけどねえ。










私も気合い、入れ直さないとなあ。

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