犬神の花嫁
06
「ーーー栫井、嵬、席につけ。元老院から通達があった」
御先の冷たい声音に従いながら、私は首を傾げた。元老院とは、王政ローマにおいて王の助言機関で、のちの共和政ローマにおける統治機関。更にその後のローマ帝国皇帝の諮問機関を指した言葉で、現代では上院の呼称に用いたりする。
しかし、この場においての元老院は少しばかり意味が違う。
「なんや、あの老いぼれがまた文句でも言ったんか?」
「聞こえるぞ、嵬。元老院が酒呑童子の封印が解けたのを確認したそうだ」
「のんびり言うことちゃうぞ、煌希。目覚めた奴をどうせぇっちゅうんや」
ざっと説明しとこう。長老会は妖世界の重鎮で、七種の妖から構成されている。所謂、ジジイ共の集まりだ。そして、酒呑童子とは酒飲みな鬼のこと。日本三大妖怪の一席に数えられ、それは一条天皇の時代、かの安部清明がバリバリの現役だった時にまで遡る。京の都の若者や姫君が次々と行方不明になったことから、その物語は始まった。
「元老院から通達ってことは、」
「まさか退治しろってか…?」
オチだけ言えば、京の都を恐怖に貶めた鬼は源頼光一行に討伐された。そういや、人間を生きたまま喰っていたという話も残っているらしい。
「いやいや、あの酒呑童子だぜ?」
「マジで言ってんすか、御先さん」
絶世の美少年という言い伝えもあり、元は人間だったのだが母親の胎内で16ヵ月過ごし、生まれながらに髪と歯が生えそろっていたとか。産毛じゃなかったってことだったか?
「マジマジ」
「元老院はオレ等に死にに行けと…?」
で、6歳にして母親に捨てられ全国各地を放浪して鬼の道を極めたとかどうとか。まあ、そんな詳しい話はどうでも良いか。
「ーーもう一度、封じれば良いだけだ」
静まり返った教室で、死ぬまでもないだろ、と呆気からんと犬っこは言った。いや、お前だからそうやって言えんだよ。誰も反論しないけど、多分みんな総じて思ったはずだ。
「封印し直すって言っても、誰がやるんだよ。かの酒呑童子だぞ。易々と封印させてくれるわけねぇよ」
「巫女なんて沢山いるだろ、と言いたいところだけどほら、居るじゃん、そこに」
「…あぁ、なるほど」
私に降り注ぐ視線。なんとなく話の流れで分かってたけど、わざわざ私がする意味ある?別に私じゃなくても、犬っこでも出来るんだけど。
「ちょっと、アンタさ。女の子を巻き込むのはどうかと思うわよ」
「…女の子?」
「誰が女の子やねん。素手で鬼に殴りかかってくる奴が女の子っちゅうんなら、それ言うの止めや」
「犬っころ、鬼っころ、今すぐ表に出ろや。どいつもこいつも失礼だぞ」
「それがあかんのや。女の子は怖い顔して表に出ろなんて言わへんで」
「…酒呑童子と一緒にお前も封印してやろうか?あぁ?」
犬っこも一宮もぶっ飛ばすぞこの野郎が。
「で?栫井は酒呑童子を封じること出来るんか?」
「…はぁ。出来ないこともないですが、したいとはあまり思わないです」
「なんでや」
「鬼との相性が最悪でさあ」
「「…は?」」
「一宮相手に喧嘩早くなるのも、そうなんだけどさあ。なんて言うのかな。鬼を相手にすると血が滾ってくるってゆーかぁ」
本能のままに暴れたい。祓うのではなく、討伐に近い。持てる力(物理)で戦いたいのだ。ちなみに、この鬼に対する反射条件のようなものは、保護者の終宵さんに植え付けられた。終宵さんは、これでもかと言うほど鬼神と相性が悪い。
「…どんなんだよ、それ」
「だから、まあ…封印はあまり」
「別にかまわん。封印が出来なけりゃ、倒すまでだからな」
結局は私まで借り出されるわけだ。一応女の子なんだけどなあ。犬っこに肩をポンと叩かれたのが、少しだけ虚しさを誘った。
御先の冷たい声音に従いながら、私は首を傾げた。元老院とは、王政ローマにおいて王の助言機関で、のちの共和政ローマにおける統治機関。更にその後のローマ帝国皇帝の諮問機関を指した言葉で、現代では上院の呼称に用いたりする。
しかし、この場においての元老院は少しばかり意味が違う。
「なんや、あの老いぼれがまた文句でも言ったんか?」
「聞こえるぞ、嵬。元老院が酒呑童子の封印が解けたのを確認したそうだ」
「のんびり言うことちゃうぞ、煌希。目覚めた奴をどうせぇっちゅうんや」
ざっと説明しとこう。長老会は妖世界の重鎮で、七種の妖から構成されている。所謂、ジジイ共の集まりだ。そして、酒呑童子とは酒飲みな鬼のこと。日本三大妖怪の一席に数えられ、それは一条天皇の時代、かの安部清明がバリバリの現役だった時にまで遡る。京の都の若者や姫君が次々と行方不明になったことから、その物語は始まった。
「元老院から通達ってことは、」
「まさか退治しろってか…?」
オチだけ言えば、京の都を恐怖に貶めた鬼は源頼光一行に討伐された。そういや、人間を生きたまま喰っていたという話も残っているらしい。
「いやいや、あの酒呑童子だぜ?」
「マジで言ってんすか、御先さん」
絶世の美少年という言い伝えもあり、元は人間だったのだが母親の胎内で16ヵ月過ごし、生まれながらに髪と歯が生えそろっていたとか。産毛じゃなかったってことだったか?
「マジマジ」
「元老院はオレ等に死にに行けと…?」
で、6歳にして母親に捨てられ全国各地を放浪して鬼の道を極めたとかどうとか。まあ、そんな詳しい話はどうでも良いか。
「ーーもう一度、封じれば良いだけだ」
静まり返った教室で、死ぬまでもないだろ、と呆気からんと犬っこは言った。いや、お前だからそうやって言えんだよ。誰も反論しないけど、多分みんな総じて思ったはずだ。
「封印し直すって言っても、誰がやるんだよ。かの酒呑童子だぞ。易々と封印させてくれるわけねぇよ」
「巫女なんて沢山いるだろ、と言いたいところだけどほら、居るじゃん、そこに」
「…あぁ、なるほど」
私に降り注ぐ視線。なんとなく話の流れで分かってたけど、わざわざ私がする意味ある?別に私じゃなくても、犬っこでも出来るんだけど。
「ちょっと、アンタさ。女の子を巻き込むのはどうかと思うわよ」
「…女の子?」
「誰が女の子やねん。素手で鬼に殴りかかってくる奴が女の子っちゅうんなら、それ言うの止めや」
「犬っころ、鬼っころ、今すぐ表に出ろや。どいつもこいつも失礼だぞ」
「それがあかんのや。女の子は怖い顔して表に出ろなんて言わへんで」
「…酒呑童子と一緒にお前も封印してやろうか?あぁ?」
犬っこも一宮もぶっ飛ばすぞこの野郎が。
「で?栫井は酒呑童子を封じること出来るんか?」
「…はぁ。出来ないこともないですが、したいとはあまり思わないです」
「なんでや」
「鬼との相性が最悪でさあ」
「「…は?」」
「一宮相手に喧嘩早くなるのも、そうなんだけどさあ。なんて言うのかな。鬼を相手にすると血が滾ってくるってゆーかぁ」
本能のままに暴れたい。祓うのではなく、討伐に近い。持てる力(物理)で戦いたいのだ。ちなみに、この鬼に対する反射条件のようなものは、保護者の終宵さんに植え付けられた。終宵さんは、これでもかと言うほど鬼神と相性が悪い。
「…どんなんだよ、それ」
「だから、まあ…封印はあまり」
「別にかまわん。封印が出来なけりゃ、倒すまでだからな」
結局は私まで借り出されるわけだ。一応女の子なんだけどなあ。犬っこに肩をポンと叩かれたのが、少しだけ虚しさを誘った。
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