犬神の花嫁

千絢

04

まるで形振り構わずの威圧感に、私は目が点になった。だって、その威圧感は、










「犬神の…?」








「ーーー…何、アンタ」










カラスの濡れ羽色と称される黒髪、黒曜石の様な美しい黒い瞳。その顔の造りは、まるで神の手が掛かっているようで美しいという言葉では足りない気がした。その姿は、成長したことを除けば、私の記憶にあるままだった。








「あぁ、朔夜、戻ってきたんか。ちぃと遅かったんちゃうか?」








「いや、早い方だと思った。で、この女は誰の花嫁?」








「誰の花嫁でもない、元一般生徒や。今日付けでこのクラスの生徒やで」








「ふうん」










一宮に助けられたのが、少しばかり腹立たしいけど、この男を前にして言葉を紡ぐのが出来なかったのは事実。戦慄く唇から、言葉が出てこない。










「朔夜、入り口を塞ぐな」








「煌希は、新しい生徒のこと聞いてたの?」








「新しい生徒?そんなもん知らん」










避けた犬神の後ろから姿を見せたのは、黄金色の長い髪をひとつ結びした男。この男も美しかった。犬神のが月神に例えたとしたら、黄金色の男は太陽神だ。明るく神々しい、例えようのない目映さをもった美しさ。










「お疲れ様です、煌希様」








「蝶子、この生徒は?」










お蝶ちゃんがにっこり笑った。お蝶ちゃんの名前を呼んだということは、お蝶ちゃんの相手なんだろうな。花嫁の名前を呼ぶことができるのは、相手の妖のみ。妖が他の女子を呼ぶ時は、名字かあだ名だ。面倒くさいけど、そういうルールだから仕方がない。










「お初目にかかります、九尾の狐様、犬神様。私は栫井環妃と申します。どうぞよしなに」








「…へぇ?」








「かこい、たまき」








「タマちゃん、言ってないのに分かったの?」








「名前を耳にしたことがあるの。御先煌希おさき こうき様はね」










御先は尾裂き。つまり尻尾持ちの狐のことだ。そして、今の御先家で学園に居る者と言えば、直系の三男である煌希だろう。この三男が兄弟で一番力を持っていると言われ、御先家で唯一の九尾を持つ。










実力者も実力者。九尾の狐に、誰が敵うと言うんだ。








「でも、いま、斎火様のことを…」








「ーーー思い出した。神殺しの巫女だ」










お蝶ちゃんの疑問には、彼が勝手に答えた。なんだ、彼も覚えていたのか。でもまあ、嫌なことも一緒に覚えていたとは。眉間にシワが寄る。周りの視線が更に痛くなった。










神殺しの巫女。










今からずっとずーっと昔の話だ。まだ私の故郷が、湖の底に沈んでない頃。家族や親戚、近所のお爺ちゃんやお婆ちゃんが生きていた頃。私が、七つになったばかりの頃。

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