異世界に喚ばれたので、異世界に住んでいます。

千絢

28.竜王夫妻といっしょ②

「…なんか、恥ずかしくない?静養中のくせにって思われない?」








『大丈夫だ。不安なら、ティエラの暇潰しに付き合ったと言えば良いだろう』








「ティエラのせいに出来ない。外に出たいって行ったのは私だよ?」








『だが、お前のそれは完全にティエラが面白がったからな。それぐらい気にも止めないし許される』








アストラルの片腕に座らされる形で抱っこされている私は、いつもよりも高い視線から周りを見ていた。たまにすれ違う侍女や近衛たちがギョッとした顔で見てくる。視線が高いって良いな、と思考の片隅で思う。










「さぁ、行くか…」








『愛らしい顔をして、戦場に行くような顔をするな』








「私にとっては、戦場になりかねないよ」










呆れたような溜め息を吐いたアストラルの肩をポンっと叩いて、いざ行かんと、私は共同執務室の扉をノックした。はぁいと返事をしたのは白帝だ。アストラルに目配せして、扉を開けてもらう。気配は3つ。大方、双帝とロベルト様だと思う。










「だぁれかーーーイオリ!?」








「は?」








「なんという…」










私とアストラルの姿を捉えた瞬間、それぞれがそれぞれの反応を表す。白帝はあんぐりと口を開けて、シヴァ様は固まって、ロベルト様は眉間をつまみ天井を見上げた。








「お疲れ様です、顔見せに来ちゃいました」








「い、イオ?どうした、可愛い格好して、どうした?」








『落ち着け、お前がどうしたんだ…』








「騎士団に顔を出そうと思ったら、ティエラがしてくれたんです。そしたら、アストラルがまずはシヴァ様にお目通ししてからじゃないと不味いとかなんとか言って、此処に来た次第です」










言い訳がましくなってしまったし、ティエラを引き出してしまったけど、混乱中のシヴァ様には届いてないらしかった。落ち着け、どうした。アストラルが己の相棒に呆れ顔だ。シヴァ様はもちろん、白帝やロベルト様まで困惑っぷりを見せるものだから、私はマズってしまったのかと不安になる。けれど、その不安はすぐにかき消された。








「アストラル、よくやった」








『…はぁ、』








「わぁっ!?」










シヴァ様は、ニヤリというか悪役じみた笑みを浮かたかと思うと、アストラルの腕から私を引き下ろした。そして、さも当たり前のように私を抱き上げた。心なしか金と銀の双眼が嬉しそうな気がする。しまった、此処に来たこと失敗だったか。








「可愛いよ、イオ」








「…はぁ、そこ等のご令嬢よりマシな顔をしているとは思いますが」








「ひねくれてるなあ、素直に喜べよ。でも、ほんっと可愛い」








「素直に喜べって言われても…」








「イオはそういう感じのドレスが似合うなあ。細身でもうちょい丈が長目で、動きやすいようにスリットが入っているものでも良さそうだな」


 



 

「いや、仕事してくださいよ。てか、降ろして…」








「何種類か作らせてみるか。いっそのこと、仕事用のドレスもありだな」 


  







シヴァ様は私を抱き上げたまま、ドレスについてブツブツ考え始めた。 正気に戻ったらしいアルベルト様とロベルト様の視線が生暖かいことよ。誰も助けてくれそうにないなあ。








「シヴァ様、シヴァ様」








「ん?」








「ドレスも服もたくさん戴いてますから、お気持ちだけ戴きます。あと、仕事中はドレス着ませんからね」








「ドレスはステータスだよ、イオ」








「ドレスがステータスになるのはご令嬢やご婦人たちでしょう。私はあくまでも文官ですからね?」








「俺の文官を俺が着飾って何が悪い?」








「確かに私はシヴァ様の文官ですが、私は私のものです」










いい加減、シヴァ様の腕から抜け出したい。シヴァ様から向けられている好意をどうにかしたいし、アルベルト様とロベルト様の生暖かい視線もどうにかしたい。アストラルを見たけど、目が虚ろで使い物にはならないと判断する。多分、シヴァ様の深層心理を覗いてしまったんだろう。馬鹿だなあ。










「俺のものにはならねーの?」 








「再三再四、申し上げてますがなりません」








「ほんっと頑固。でもまあ、俺も腹をくくったかんね。イオ、覚悟しとけよ」








やだなあ、と本音が漏れたけど誰も聞き咎めなかった。ゆっくりと下ろされた私は、そのままの流れか何かでアストラルに抱き上げられた。虚ろな目のまま、シヴァ様に怯えたような色を携えて。










『そろそろ騎士団の方に行くとしようか、イオリ』








「うん。お邪魔しました」








「あ、イオリ。いつから復帰出来そう?」








「明日からでも。騎士団の方に戻るのはまだ先になりそうですが、こちらには明日から戻れます」








「ほんと?良かった。イオリが来るまでは三人で回せてた筈なんだけどね。イオリが居ないともう追い付かないんだよ」








「では、明日から戻らせてもらいます」








「うん、無理はしなくて良いからよろしくね」








明日から仕事復帰か。シヴァ様の対策を今夜中に練らなきゃなあ。恋愛など二の次三の次なんだけど、シヴァ様には伝わってないし、というか人の話を聞いてないような気がする。人の話を聞かないのは、アルベルト様もルシエラ様も同じだけど。やはり兄妹だ。








『イオリよ、なんであんな面倒な奴に惚れられたのだ』








「自分の相棒を面倒な奴って言っても良いの?惚れられたつもりはないんだけどねぇ…」








『かまわん。アルベルトが一番厄介だと思っていたが、シュヴァルツの方が厄介だぞ』








「兄弟揃って聞き分けが悪いとか…はぁ、」








『いざとなれば助けてやる、呼べ』








「とか言いながら、さっき再起不能寸前まで追いやられてたじゃん。目が虚ろだった」








『…あぁ、あれな。気にするな。シュヴァルツの中身が見えただけだ』










闇は深いなと意味深発言に私は愕然とアストラルを見た。いや気にするでしょ!!アストラルそうなるってヤバくない?ガチでヤバいやつじゃん。しかも闇が深いとかなんだよ。嫌だよ私。

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