異世界に喚ばれたので、異世界に住んでいます。
26.目覚め
重たい瞼を持ち上げて、ゆらゆらとおぼろに揺れる面影を見た。金と銀の双眼。私が、敬愛してやまない人がゆらゆらと揺れる。
「おはよう、イオ。もう夕方だけどな」
「シ…ヴァ様」
掠れた弱々しい声に、思わず目を見張った。そのせいで、目尻を伝うソレ。ゆらゆらと揺れる面影がはっきり見えた。同じものがシヴァ様の頬を伝っている。泣くのか、この人も。シヴァ様の指が私の目尻を流れるソレを拭う。だから、私は、シヴァ様の頬を流れるソレを拭おうと腕を持ち上げようとした。
「長い間寝てたからなあ、」
そう笑って顔を近づけてくれたから、あまり力の入らない手のひらで撫でた。冷たくて温かい。何度もシヴァ様の頬を撫でる。少し見ない間に痩せてしまった。
真剣な顔をしてシヴァ様の頬を撫でる私を見て、シヴァ様は優しく幸せそうに微笑んだ。頬に当てられた私の手を包み込み、すり寄ってくる。おかえりと唇が動いたのが分かった。鉛のように重たい体を、シヴァ様に起こしてもらい、壁と背中の間に挟まれたクッションに体を預けた。
「イオが刺されてから1ヶ月半過ぎた。夏も終盤になってきたよ」
「1ヶ月、半」
「あぁ。毒に耐性がないから、解毒するのに時間が掛かったんだろう。傷は抜糸も済ませてあるし、あとは日にち薬ってやつだな」
「わ、私、仕事…」
「馬鹿だなあ。意識不明の重傷者が、起き抜けに仕事の心配する奴があるか。仕事はちゃんとしてるよ、大丈夫」
コップを渡されても、上手く握れなかった。滑り落ちそうになったコップを、シヴァ様がそうなることが分かっていたかのように受け止める。1ヶ月半も眠れば筋力も落ちるだろうけど、これは落ちすぎじゃない?
「ん、ゆっくり傾けるから」
「え、いや、」
「なんだ?口移しで飲ませても良いんだけど」
「あ、コップで、お願いします」
爽やかの顔で言われてもなあ。コップから飲ませてもらうのも恥ずかしいのに、口移しするとか何言ってるんだ。夏だから、頭が沸いちゃったのかな。シヴァ様により、ゆっくり傾けられたコップから口腔に流れてくる甘い水が喉を潤す。
「まだ飲むか?」
「んん、大丈夫です。あの、シヴァ様」
「分かってる。イオが刺されてからのことを聞きたいんだろ?でも、先に腹ごしらえだ。軽いものしか食べれないけど、腹に何か入れねぇと」
この国のお粥は、出来ればもう二度と口にしたくないと思った。初めて食べたけど、重湯にしては酷すぎる。薬膳にしても酷すぎる。私の口には合わなかったのだから、お兄ちゃんの口にも合わないだろうなあ。それぐらいマズイ。残したお粥はそのまま下げられるのかと思いきや、何故かシヴァ様が私の目の前で平らげた。残すなってことかな?私の食べ掛けを食べられるぐらいなら、意地でも完食する。ってか一国の主が何してんだよ。
「それで、だ。予算案会議は無事に終わった。資料はまた渡すから見といてくれ」
「はい」 
「で、イオを刺したのはマリアナの爺さんの手下だ。3番隊が捕らえて、3番隊長が引きずり回したから、ヨレヨレになってたが犯行を認めた。マリアナの爺さんに関しては、部下が失敗したから自分で乗り込んで来たからな、それを捕らえた。ん、質問か?」
「質問というほどでもないんですけど、今更復讐ですか?」
「…まあ1年は経ってるからなあ。大方、クソジジイが唆したんだろう。アルベルトも同じ見解だから、間違いはないと思う」
「司書様…」
「そのクソジジイも乗り込んで来たんだが、お前の世話役にティエラと護衛にアストラルとメギドを置いといたら、尻尾巻いて逃げたよ」
笑ってるけど笑い事なの?でも、アストラルとティエラ、メギドに世話になったんだよね。ちゃんと会ったらお礼を言わないと。シヴァ様がアストラルたちを置いたと言うんだから、随分過保護になったな。 
「あのシヴァ様」
「ん?」
「私が寝てる間に、お兄ちゃんってどうなりました?」
「あぁ、シキなら仲直りしたよ。今は家で半同棲中だな」
「家?半同棲?」
「お前等に用意した城の片隅にあるあの家だ」
「…連れ込んだの、お兄ちゃん」
そのうち街に屋敷を構えるから今だけだとシヴァ様は笑ったけど、お兄ちゃんが屋敷を構えるって。今、計画中らしい。侍女の引き抜きもする予定らしいが、今は、蒼の離宮に居る庭師の元執事を狙っているらしい。
「私が寝てる間に、色々進んだんですね…」
「あぁ。地下牢から脱走した女の足取りも掴んだし、手引きした料理人見習いの奴も取っ捕まえたところだ」
私が居ない間に進みすぎだろ。仲直りしたお兄ちゃんが、半日かけて見つけたそうだ。つまり、ノルエルハの所から連れ戻してから、本気で探していなかったらしい。ナメてんのかアイツ。
「じゃあ、俺は医者を連れてくるから待っててな」
「はい」
「良い子にしてろよ」
頭を撫でて部屋から出て行ったシヴァ様。良い子にしてろって、私はわんぱくな子供かよ。そう思う心とは裏腹なむず痒さに笑った。シヴァ様に与えられる甘ったるい感情。上司と部下にあってはならない感情だ。でも、悪くないと思ってしまった自分もいる。今だけはその感情に甘えたい。あんまり頭も動いていないし、体も動かないのだ。バチなんて当たらない、よね。
それから、お見舞いに来てくれたルシエラ様とマリベル様双方に泣き付かれてしまった。皆、見ないうちに涙腺が緩くなったなあ。ルシエラ様の涙は美しかった。ルシエラ様たちと入れ違いに入ってきたジェラール団長と補佐官殿は、良かった良かったとしきりに言って私の頭を荒っぽく撫で回した。仲直りしたみたいで良かった。私も安心した。
お兄ちゃんはリリーシャ嬢を連れてきて、私に土下座した。すまなかったって。朝の八つ当たりのことだろう、多分。本気で苛っとしたけど、リリーシャ嬢と仲直りしたから許すって言ったら、私を抱き締めて鼻を啜っていた。リリーシャ嬢も心配かけてごめんと言ってくれたかは、私は逆にクソ兄貴の理解力の低さを謝った。
優しそうなお爺ちゃん先生曰く、あと2日は胃に優しいものを食べてくださいね。過度な運動は今しばらく控えてください、とのことだった。あのクソマズイお粥だけは回避出来なさそうだ。運動はゆっくり慣らしていけば大丈夫だろうとシヴァ様が妥協してくれた。
「おはよう、イオ。もう夕方だけどな」
「シ…ヴァ様」
掠れた弱々しい声に、思わず目を見張った。そのせいで、目尻を伝うソレ。ゆらゆらと揺れる面影がはっきり見えた。同じものがシヴァ様の頬を伝っている。泣くのか、この人も。シヴァ様の指が私の目尻を流れるソレを拭う。だから、私は、シヴァ様の頬を流れるソレを拭おうと腕を持ち上げようとした。
「長い間寝てたからなあ、」
そう笑って顔を近づけてくれたから、あまり力の入らない手のひらで撫でた。冷たくて温かい。何度もシヴァ様の頬を撫でる。少し見ない間に痩せてしまった。
真剣な顔をしてシヴァ様の頬を撫でる私を見て、シヴァ様は優しく幸せそうに微笑んだ。頬に当てられた私の手を包み込み、すり寄ってくる。おかえりと唇が動いたのが分かった。鉛のように重たい体を、シヴァ様に起こしてもらい、壁と背中の間に挟まれたクッションに体を預けた。
「イオが刺されてから1ヶ月半過ぎた。夏も終盤になってきたよ」
「1ヶ月、半」
「あぁ。毒に耐性がないから、解毒するのに時間が掛かったんだろう。傷は抜糸も済ませてあるし、あとは日にち薬ってやつだな」
「わ、私、仕事…」
「馬鹿だなあ。意識不明の重傷者が、起き抜けに仕事の心配する奴があるか。仕事はちゃんとしてるよ、大丈夫」
コップを渡されても、上手く握れなかった。滑り落ちそうになったコップを、シヴァ様がそうなることが分かっていたかのように受け止める。1ヶ月半も眠れば筋力も落ちるだろうけど、これは落ちすぎじゃない?
「ん、ゆっくり傾けるから」
「え、いや、」
「なんだ?口移しで飲ませても良いんだけど」
「あ、コップで、お願いします」
爽やかの顔で言われてもなあ。コップから飲ませてもらうのも恥ずかしいのに、口移しするとか何言ってるんだ。夏だから、頭が沸いちゃったのかな。シヴァ様により、ゆっくり傾けられたコップから口腔に流れてくる甘い水が喉を潤す。
「まだ飲むか?」
「んん、大丈夫です。あの、シヴァ様」
「分かってる。イオが刺されてからのことを聞きたいんだろ?でも、先に腹ごしらえだ。軽いものしか食べれないけど、腹に何か入れねぇと」
この国のお粥は、出来ればもう二度と口にしたくないと思った。初めて食べたけど、重湯にしては酷すぎる。薬膳にしても酷すぎる。私の口には合わなかったのだから、お兄ちゃんの口にも合わないだろうなあ。それぐらいマズイ。残したお粥はそのまま下げられるのかと思いきや、何故かシヴァ様が私の目の前で平らげた。残すなってことかな?私の食べ掛けを食べられるぐらいなら、意地でも完食する。ってか一国の主が何してんだよ。
「それで、だ。予算案会議は無事に終わった。資料はまた渡すから見といてくれ」
「はい」 
「で、イオを刺したのはマリアナの爺さんの手下だ。3番隊が捕らえて、3番隊長が引きずり回したから、ヨレヨレになってたが犯行を認めた。マリアナの爺さんに関しては、部下が失敗したから自分で乗り込んで来たからな、それを捕らえた。ん、質問か?」
「質問というほどでもないんですけど、今更復讐ですか?」
「…まあ1年は経ってるからなあ。大方、クソジジイが唆したんだろう。アルベルトも同じ見解だから、間違いはないと思う」
「司書様…」
「そのクソジジイも乗り込んで来たんだが、お前の世話役にティエラと護衛にアストラルとメギドを置いといたら、尻尾巻いて逃げたよ」
笑ってるけど笑い事なの?でも、アストラルとティエラ、メギドに世話になったんだよね。ちゃんと会ったらお礼を言わないと。シヴァ様がアストラルたちを置いたと言うんだから、随分過保護になったな。 
「あのシヴァ様」
「ん?」
「私が寝てる間に、お兄ちゃんってどうなりました?」
「あぁ、シキなら仲直りしたよ。今は家で半同棲中だな」
「家?半同棲?」
「お前等に用意した城の片隅にあるあの家だ」
「…連れ込んだの、お兄ちゃん」
そのうち街に屋敷を構えるから今だけだとシヴァ様は笑ったけど、お兄ちゃんが屋敷を構えるって。今、計画中らしい。侍女の引き抜きもする予定らしいが、今は、蒼の離宮に居る庭師の元執事を狙っているらしい。
「私が寝てる間に、色々進んだんですね…」
「あぁ。地下牢から脱走した女の足取りも掴んだし、手引きした料理人見習いの奴も取っ捕まえたところだ」
私が居ない間に進みすぎだろ。仲直りしたお兄ちゃんが、半日かけて見つけたそうだ。つまり、ノルエルハの所から連れ戻してから、本気で探していなかったらしい。ナメてんのかアイツ。
「じゃあ、俺は医者を連れてくるから待っててな」
「はい」
「良い子にしてろよ」
頭を撫でて部屋から出て行ったシヴァ様。良い子にしてろって、私はわんぱくな子供かよ。そう思う心とは裏腹なむず痒さに笑った。シヴァ様に与えられる甘ったるい感情。上司と部下にあってはならない感情だ。でも、悪くないと思ってしまった自分もいる。今だけはその感情に甘えたい。あんまり頭も動いていないし、体も動かないのだ。バチなんて当たらない、よね。
それから、お見舞いに来てくれたルシエラ様とマリベル様双方に泣き付かれてしまった。皆、見ないうちに涙腺が緩くなったなあ。ルシエラ様の涙は美しかった。ルシエラ様たちと入れ違いに入ってきたジェラール団長と補佐官殿は、良かった良かったとしきりに言って私の頭を荒っぽく撫で回した。仲直りしたみたいで良かった。私も安心した。
お兄ちゃんはリリーシャ嬢を連れてきて、私に土下座した。すまなかったって。朝の八つ当たりのことだろう、多分。本気で苛っとしたけど、リリーシャ嬢と仲直りしたから許すって言ったら、私を抱き締めて鼻を啜っていた。リリーシャ嬢も心配かけてごめんと言ってくれたかは、私は逆にクソ兄貴の理解力の低さを謝った。
優しそうなお爺ちゃん先生曰く、あと2日は胃に優しいものを食べてくださいね。過度な運動は今しばらく控えてください、とのことだった。あのクソマズイお粥だけは回避出来なさそうだ。運動はゆっくり慣らしていけば大丈夫だろうとシヴァ様が妥協してくれた。
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