異世界に喚ばれたので、異世界に住んでいます。

千絢

17.三番隊といっしょ

「おはようございまーす」








「おはようさん、早いな?」








「ジェラール団長、早朝の報告の件でちょっと」










騎士団の執務室で書類の山に囲まれた、やる気のない顔のジェラール団長と怒り顔の補佐官が居た。まぁた喧嘩していたのか。ジェラール団長も懲りないなあ。








「補佐官殿、タイミング間違えましたか?」








「いえ、大丈夫ですよ。脳筋クソ野郎に何を言っても無駄ですし。行った端から忘れていく脳筋クソですから、私が何を言っても無駄なんです」








「…ジェラール団長、補佐官殿に愛想尽かされたら騎士団終わりですからね?」










もはや暴言だ。補佐官、ぶちギレてるなあ。にっこり笑っているのに威圧感ぱねぇっす。ジェラール団長、何しでかしたんだろう。いや、大方の見当はついている。書類仕事をサボり続けていたんだろうなあ。










「あん?お前が居るだろ」








「私はシヴァ様の側仕えですから、騎士団の事務処理なんぞ知ったことか、なんですが。補佐官殿、こんな上司を持つと苦労されますね」








「本当に…。でも、惚れた弱味と言いますか」








「あー、なるほど。見捨てれなくなっちゃったんですね。でも、補佐官殿がそれで体調を崩したりすると元も子もないですから、適度に見捨てることも大丈夫ですよ」








「はは、ありがとうございます。じゃあ、ちょっと見捨てることにします。丁度、魔術師団に声かけて貰っているので、今日はそちらに居ます」








「良いと思います。ごゆっくりなさってください」








「はい。では、失礼します」










それは上司のジェラール団長にではなく、私に向けられた言葉だった。かなりのご立腹と伺える。気の毒に。馬鹿な上司を持つと、部下がしんどいよね。私も今となっては良い思い出だけど、地球に居たときは無能な上司を何度ぶち殺してやろうかと思ったことか。軍に居ても会社に居ても、無能な上司は居るものだあと入社して間もない頃に悟ったものだ。










「ほんっとうに愛想尽かされたら騎士団終わりですからね?いくら団長に惚れていても、愛想は尽きるものですよ」








「…もしかして、この現状マズイ?」








「もしかしなくても、マズイですね。補佐官殿の事務処理能力と順応性が高いので、色々な部署が声をかけているみたいですよ。魔術師団もそのひとつです」








「…ちょっと予定変更して、今日一日は書類の討伐するわ。イオリ、俺の分も外回り頼めるか?」








「良いですよ。それでですね、ルシエラ様とネージュダリア様の警護の件なんですけどーーー」










これはさすがにマズイと思ったのか、ジェラール団長は唸りながら書類を睨み始めた。警護の件も頼んだし、私は鍛練場に行って三番隊と合流しなければ。








「ウェルミスちん、やっほ~」








「おはようございます、三番隊長さん」








「今日は一日よろしくね~」








「こちらこそ、よろしくお願いします」










三番隊に気に入られてから、一日一緒ということが増えた。ぎっちぎちに詰められた魔物討伐任務。マジでぎっちぎちに詰めるからねこの人たち。八つ部隊のなかで任務数はぶっちぎりだ。










「ウェルミスさん」 








「ん?」








「こんなこと聞くの、本当は失礼かと思ったんですけど…」








「どうかしました?」








「もう、前線には立たれないんですか?」








「前線?」








「俺、東の砦にいた奴から聞いたんす。魔物の巣の討伐を一人でされたって」








「オレも。黒帝陛下とやりあったの見てたんすけど、ウェルミスさんすっごく強くて。でも足を怪我されてから、ほとんど後方援助で…」 








「俺も俺も!暴れるドラゴンを一人で抑え込んだって聞きました!!」








「その、ウェルミスさんの戦い方見たいなあって。あ、もちろん足のこともあるんで、あれなんですけど…」










三番隊って、なんでこう心をくすぐってくる狂犬ばっかりなんだろう。犬耳と尻尾の幻覚が見える。戦うところ見たいなあ、でも足を怪我してるし、ということだ。別に後方援助なのは他意はなくてだな。










「ーーじゃあ、一件目は私に任せてもらえますか?三番隊長さん、良いですか?」








「良いよ~。この子らの勉強にもなるしね~」








「ありがとうございます。勉強になるかは分かりませんが、精一杯やらせてもらいます」








「「よっしゃー!」」








「なっ、言ってみるもんだろ」








「そうだな!!ウェルミスさん、どんな戦いするんだろ、楽しみだ!!」










ハードル上げないでね、うん、お願いだから。グレイアスが父で師であることも大きいのか、狂犬たちはワクワクと話を盛り上げていた。三番隊長さんも混ざらなくて良いよ。寧ろ無駄話するなって止めてよ。








「ーーっと、お出ましのようだぜ~。ウェルミスちん、一人でいけんの~?」








「大丈夫ですよ。久しぶりだから、ちょっと加減が出来ないかもしれませんが、頑張ります」








《我が君、頑張ってね!僕も久しぶりに戦うところ見るからワクワクするよ》








「メギド、お前もワクワクするのかよ」










任務地である森のなかで、ワクワクしているメギドたちと狂犬たちが下がったのを確認して、魔物の数を数える。ざっと五十は下らないか。飛行タイプは居ないけど、地中に潜るタイプが居るっぽいなあ。








すえたような腐った臭いも、穢れきった魔力も、汚れた空気も。久しぶりに感じる。今から戦場になる。此処は戦場だと。私は腰を落として黒と白を構えた。










「まあ、これぐらいならやれるかな」










姿を見せた魔物たち。無数の赤い目が私を捉える。ゾクゾクするねぇ。此処が本来の居場所である、その事実に私は笑みが止まらなかった。いっきり大地を蹴り飛ばし、なまくらになってしまっていた双刀に息を吹き込む。なまくらではい、お前等の本分は此処戦場にある。










「さあ、行くよ!」










今までサポートに入ってたけど、どの隊に居ても後方援助だった。前線に出て戦うことはなかった。皆の気遣いなんだろう。私自身もそれで良いと思っていた。私はシヴァ様の懐刀になるのが一番の目標だったからだ。鍛練はしていたけど戦場に立つのは二の次ぐらいで。まずは、シヴァ様のお役に。そう思っていたんだけど、なあ。










やっぱり、私は戦場で生きていくのが性に合っている。事務員も良いんだけど、それでも戦闘員が一番良いかも。








戦場に立っているという高揚感が堪らなく気持ち良かった。肉を断つ感触も、耳をつんざく悲鳴も、途絶えていく命の音も、全てがクリアになって、視界が広がる。








これからが本番だよ。










 


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