異世界に喚ばれたので、異世界に住んでいます。

千絢

15.黒帝と夕食を②

「騎士団の方から教えていただきましたが、シヴァ様に娘を嫁がせようと狙っている大臣や貴族たちに、司書様は共に私を排除しようと話を持ち掛けたそうです」










「…あんのジジイ」










「司書様は、シヴァ様とアルベルト様が大好きですからねぇ。幸い、私一人のときに会うことはなかったんで、特に気にしてなかったんですよ」










「だからといって、やって良いことと悪いことがある。あのジジイ、どうにかしないといけないな。武力行使されて、イオに傷つけられたら堪らねえし」








「…まあ、返り討ちにしますけどね」










「過信するのも良くないぞ。ジジイはジジイでありながら、頭の回転はまだ現役だ。ジジイのおかげで助かった戦いは何十とあるからな」








「シヴァ様は、何と言いながらも司書様を尊敬なさっているんですね」








「あー…まあ、軍師としては過去最高だったからな。ジジイ個人としてはあれだが」










ワイングラスのなかで揺れる果汁。やっぱり皇族は食べるものから飲むものまで違うな。夜も遅いからと、軽めに作られた食べ物たちを口へ運ぶ。シヴァ様は、今日もワインを飲んでいた。これが後に後悔することになる。止めていたら良かった。








「イオは、ジジイみたいな人は居たか?」








「んー、居なかったですね。軍師は居ましたけど、私たちは彼らにとって駒でしかなかったので」








「そうなのか?だが、一緒に鍛練したりするだろ?」








「それはなかったです。軍事力は世界でも指折りでしたが、団結力はいまいちでした。各自が与えられた場所で力を振るうだけって感じで。団体戦でありながら、個人戦でしたね」








「団体戦で個人戦ってそりゃそうだろ?」








「うーん、なんと言えば。まとまりがなかったんですよね。だから、戦場に出ても指示通りには誰も動きませんでした」








「それ、軍師の意味ある?」








「軍師は軍師でも、お飾りの軍師だったんで。知識も力もない脆弱な人でした」










そのハゲ野郎も、戦場で亡くなったけれど。情けない終わり方だったなあ。まとまりがなくても、皆が父の、グレイアスの背について行った。間違いがないような気がしたから。大丈夫だと思えたから。










「父のような存在に、兄になってほしいものです」








「シキに?そういえば、シキは大丈夫だったのか?」








「大丈夫かどうかと言われると答えづらいですが、仕事はきちんとこなしますよ」








「リリーシャとは?」








「顔も合わせてないみたいで。でも、外野がやきもきしても仕方ないですよ。下手に手を出すより、少しだけ助言して見守るのが一番です」








「なんか、経験したみたいな言い方だな?」








「そうですか?」








んふふ、と声が漏れてしまったが別に経験した訳ではない。喧嘩中のカップルほど面倒くさいものはないのだ。私と時雨は口より先に手足を出すケンカップルだったから、周りは誰も口を挟んでは来なかったが、周りのカップルたちはそうでもなかっただけで。他所の痴話喧嘩に巻き込まれたこともある。








「そう言えば気になっていたのですが、ロベルト様は独身なんですか?」








「ロベルト?アイツはずっとちょっかいを出し続けている女性がいるぞ」








「ちょっかい?」








「あぁ。竜舎にいるが、会ったことないか?」








「…ない、ですね」








「また会ってみると良い」










竜舎の者か。確か女性が居た気がするが、話したことはなかった筈だ。ロベルト様の想い人かあ。一度見に行く必要があるなあ。明日にでも竜舎に行ってみよ。メキドに会いに行くついでとして行こ。








「イオは、そういう思いはないのか?」








「というと?」








「恋人が欲しいとか結婚したい、とかそういう思いだよ」








「…うーん」










シヴァ様は酔ったのだろうか。いつの間にかワインボトルが空いている。疲れているから酔いが回るのが早いらしかった。しかし、シヴァ様の金と銀の瞳は真摯に私を見つめてくる。 










「ない、とも言い切れないですが、今はまだって感じです。今は仕事に手一杯ですからね。仕事と俺どっちが大事なんだよって訊かれたら、仕事って答えるしかないような現状なので」








「若い女子には珍しいが、俺たちがそうさせてるんだよな…」








「え、いや、落ち込まないでください!?別にシヴァ様たちのせいじゃないですからね。とにかくですね、この件に関しては私個人のことですからシヴァ様が気に病むことはありません」
 







「だがなあ、この国の民であるお前にだって幸せになる権利はあるんだ。それを仕事で失わせるなどということがあれば、俺たちに皇帝の資格がないも同然のこと」










皇帝として無能だと続けたシヴァ様に、これ以上言うのは無駄だと私は悟った。アルコールって怖いな。もう飲ませない。私は決めた。ストレスと疲れが溜まってるときに、アルコールを含むものは何であっても飲ませてはならない!お酒は飲んでも呑まれるな、だ。明らか落ち込んでいるシヴァ様が面倒くさい。覚えてないんだろうなあ、これも。前回もあまり覚えていなかったぐらいだ。今回だって曖昧な記憶で終わる。その方が良い。










「分かりました分かりました。侍女を呼びますから、今夜は此処でお開きと致しましょう」








「…そうだな、」








「シヴァ様、少しお疲れですねえ。でも、この件が落ち着くまでへばらないで下さいね」








「お前もな」








「寝ないでくださいよー。シヴァ様、体大きいから運ぶの大変なんですから」








シヴァ様が苦笑して俯いた。うたた寝される前に、私はその間に扉の前で見張りをしている兵に侍女を呼んでもらい、さっさと引き上げる算段を頭の中で描く。










翌日、私と夜食を取ったことは覚えているが、どんな会話をしたのか覚えていないシヴァ様が居たことを記しておく。幸い二日酔いにはならず、仕事には支障がなかったので良かった。











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