異世界に喚ばれたので、異世界に住んでいます。

千絢

12.新たな災厄②

私が向かった先は蒼の離宮。そこには、ルシエラ様を師と仰ぐ可愛いシエルとセリカが居る。シエルとセリカの手を借りて、何処かで魔物の討伐をしているお兄ちゃんを捕まえる予定だ。










「ルシエラ様、こんにちは」










「あら、イオリ!どうしたの?まだお仕事の時間じゃなかったかしら?」










「厄介事がありまして。シエルとセリカは居ますか?」










「えぇ、今はリア様と歴史書を読んでますわ」










「ネージュダリア嬢と?こちらへも来ているのですか?」










教本を抱いたルシエラ様は、にこりと笑って頷いた。聞けば、ネージュダリア嬢もルシエラ様に教えを説いてもらっていると。そんな伝達なかったんだけどなあ。










「城よりもこっち蒼の離宮の方が守りは良いんですのよ。それに、リア様が城の自室にいると気分が悪くなるって。アルお兄様から何か聞いてらっしゃる?」










「何も聞いてないですし、ネージュダリア嬢がこちらに居ることも知りませんでした」










「マリエに伝えに行かしたのだけれど、入れ違いになったのかしら?それより、厄介事は大丈夫なの?」










「おっとそうでした。部屋はいつもの所ですか?」










「そうよ、私も一緒に行くわ」










ルシエラ様が私の隣に並んで歩き出す。ネージュダリア嬢が居るとは思わなかったなあ。部屋に居ると気分が悪くなるって、なんか嫌なことでもあったのかな。










「イオはシヴァお兄様とどこまで進んだの?」










「え?」










「シヴァお兄様とお付き合いしてないの?」










「ル、シエラ様、何言ってるんですか。私たち、従兄妹になるんですよ」










「あら、この国では従兄妹婚は許されるのよ」










「従兄妹であってもなくても、そのようなことはありませんからね」










「どうして?」










「私は仕えているこの立ち位置が丁度良いんです。そういう関係にはなりたくない」










そうなの、とルシエラ様が呟いたあと会話は途切れた。耳を澄ませると聞こえてくるのは、楽しそうな話し声。鈴を転がしたような綺麗な声は、確かにネージュダリア嬢のもので、その声を追い掛けるように甲高い声が聞こえてきた。










「失礼します」








「あっ!お姉ちゃん!」








「今日はどうしたの?もうお仕事終わり?」










部屋は元々客室だった場所で、今はお勉強部屋として開かれている。床に敷かれた柔らかなラグに座っているネージュダリア嬢に、じゃれつく双子は本当に楽しそうだ。あぁ、ネージュダリア嬢には弟妹が居たんだっけ。










「こんにちは。シエル、セリカ、まだお仕事中なんだ。あぁ、アルベルト様の花嫁様に乗っかっちゃダメだよ。アルベルト様がガオーって来ちゃうからね」








「きゃー!リア様、ごめんなさい!アル兄様、ガオーしない?」










「リア様、アル兄様がガオーって!!」










余計な一言だったらしい。ネージュダリア嬢にじゃれついてしまった。きょとんとしたネージュダリア嬢だったけど、双子のあまりの必死さに笑い始めてしまった。










「ふ、ふふふ」










「リアさま!アル兄様のこと、絶対に止めてねっ!僕たち、頭からバリバリって食べられちゃう!」










「こら、シエル。面白がるんじゃないよ」








「へへっ。お仕事中なのに、どうしたの?」










本気で怯えるセリカと笑いが止まらないネージュダリア嬢を、更に追い込もうとしたシエルの頭をペチンと叩く。やだ、なんか腹黒くなる未来しか見えないんだけど。流石ノルエルハの息子だ、なんて思いたくない。










「あのね、お兄ちゃんが未来の花嫁様と喧嘩しちゃって行方不明なの」








「ふ、ふ、ん、お兄ちゃんが?」








「シエル。それて、シエルとセリカに精霊たちへ呼び掛けて探してほしいの」








「ふふ、んん。分かっ、た。僕、探すんふふふ」










おっかしいなあ。どこで間違えたんだろう。腹黒くなるのは確実である。笑いを押し殺そうとして失敗するシエルの旋毛を見ながら、私はこめかみを押さえた。シエルもセリカも拙かった言葉ははっきりとしたし、見えない目はまるで見えているかの様に振る舞う。やっと出て来た個性を抑えたくはないけど、シエルが腹黒くなるのはちょっとねぇ。










「お兄ちゃん、リリーシャちゃんに逃げられた、の?くふ」










「もう笑えよ。でも、お兄ちゃんの前では笑うなよ、シエル」








「んっ」










いたずらっ子で済んだら良かったのに。ぷーすか笑うシエルと、未だに抱き合っているセリカとネージュダリア嬢。さっさとお兄ちゃん探してもらお。










「セリカ、お兄ちゃんを探してほしいんだけど精霊たちにお願いできる?」










「お兄ちゃん、居なくなっちゃったの?」










「そうなの、だからシエルとセリカにお願いしようと思ってね」










「お姉ちゃんも大変だね」










5歳児に労われるとはなあ。まだ笑っているシエルの頭を軽く叩いて、私はため息をついた。ルシエラ様とネージュダリア嬢は、私たち姉弟を見て微笑ましそうに笑っているが、全然微笑ましくない。










「ーーお兄ちゃんね、東のお屋敷に居るみたいだよ」








「東のお屋敷ってノルエルハの?」








「うん。帰ってくるように精霊さんに伝えてもらったけど、帰って来てくれるかなあ」








「ノルエルハの所に居たのかあ。うん、ありがとう。お兄ちゃんが帰って来たら此処に来させるね」








「うん!お姉ちゃん、お仕事忙しい?」








「そーなの。ちょっとね、厄介事が舞い込んできちゃってさ」








「それでしたら、またシエルとセリカを私にお預けくださいな。リア様も今日から蒼の離宮暮らしですし」








「えっ」








嬉しい言葉だけど、いつネージュダリア様が此処で泊まるって決まったんだ。










「慌ただしくなるなら此処で過ごしていただく方が、一番安全ですもの。お兄様たちには、伝えておきますわ」








「それは、ありがたいですけど。流石に双子まで」








「お姉ちゃん、僕たちは大丈夫だよ。ルシエラ様もリア様も居るんだから」








「あのねっ、セリカはお姉ちゃんもお兄ちゃんも大好きだけど、ルシエラ様もリア様も大好きなんだよ」










姉としては、寂しさを覚える。こうやって、私のところから巣立っていくんだろう。まだ見ぬ遠い未来を想像して、より一層寂しくなった。兄と姉が社畜だから、分かってくれているんだろうけど、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。まだ甘えたい盛りなのに。








「こんなお姉ちゃんとお兄ちゃんでごめん、シエル、セリカ。一緒に住んでいる筈なのにね」










「んーん!!精霊たちがお話してくれるんだよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんはとっても凄いんだって!!」








「僕たちの自慢のお兄ちゃんとお姉ちゃんなんだよ。だから大丈夫!!」










ぎゅうぎゅうと抱きついてくるシエルとセリカを、私は心から抱き締めた。ほんっと可愛い私の天使たちだわ!










「よし、お兄ちゃんの行方も分かったし私は仕事に戻るわ!シエル、セリカ、また仕事が片付いたらお兄ちゃんと迎えに来るからね。ルシエラ様とネージュダリア嬢の言うことをよく聞くのよ」










「はーい!」








「ルシエラ様、ネージュダリア嬢、よろしくお願いいたします」










「かしこまりましたわ。私の方こそお兄様にもよろしくお願いします」










「はい」










さあ、仕事に戻ろう。しかしまた、なんでお兄ちゃんはノルエルハの所に居るんだろう。ジェラール団長に相談して、ノルエルハの所に行けるか聞いてみようっと。行ったことないんだよね、東の砦お屋敷って。近くまでは行ったことあるけど。

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