異世界に喚ばれたので、異世界に住んでいます。

千絢

11.新たな災厄①

ネージュダリア嬢と侍女兼護衛のマリエを城内でよく見かけるようになった。最近は、王妃様主催のお茶会にもよく参加していると小耳に挟んだ。どうやら、嫁姑問題はなさそうである。 








マリエからの報告で知ったが、王妃様だけならず側室方までもが、ネージュダリア様を気に入ったらしい。良いことだと、一緒に報告を聞いていたロベルト様と頷きあった。










「ーー地下牢に何者かが侵入し、幽閉していた女を連れ去られました」








「何?」








「警備に当たっていた騎士たちは、現在意識不明。被害は警備のみですが、追跡不可能で足取りは今だ掴めておりません」








「ジェラールとマリベルを此処に」








「はっ。失礼します」








それは、顔を付き合わせる島国タイプと呼ばれる机の並びをした共同執務室で、予算案の大詰めをしていた矢先のことである。駆け込んできた騎士は、慌ただしく要点を伝えて部屋を出ていく。白帝の書類に、インクが落ちた。一瞬の沈黙の後、先に口を開いたのはシヴァ様だった。








「…やっぱり殺しとくべきだった」








「あー、うん、そうだね。何処で彼女のことを知ったのやら」








「シキは?アイツなら探せるだろ」








「兄は、三日ほど前にリリーシャ嬢と大喧嘩して、それからずっと魔物の討伐に明け暮れているので、恐らく使い物にならないかと」 








城下にあるリリーシャ嬢の家で盛大な大喧嘩をしたとか。そこからすれ違っているらしい。お兄ちゃんは帰って来たかみたかで、魔物の討伐に出ていった。ストレス発散に持って来いの魔物である。








「…ルーカスは」 








「まだ休みですよ。あと半月残ってます」








「…どうにかならないか?」








「一度、魔物の討伐の件で呼び戻そうとしましたが、次顔を見せたら一家共々国外に行くぞと言われてしまいましたので、どうにもこうにもなりませんねえ」








「ルーカスの奴め。他には居ないのか?」








「うーん。警戒を強めて、様子伺いだけで良いのでは?今更、あの娘がどうなろうと知ったこっちゃありませんし」








「何を言ってるんですか。またシバルヴァ魔物花を広められては弱ります」








「…あー、ジエロが戻ってきている筈なので、ジエロに捜索要請してみます」








確か街に居る筈だ。例のお嬢さんと一緒に居ると思う。ごめんね、ジエロ。久しぶりの休暇なのに。なんか、災難ばっかり続くなあ。事が済んだら、厄払いでも提案してみよう。してみる価値はあるんじゃなかろうか。








「陛下、この度の失態申し訳ございません」








「ジェラール」








「侵入者に気付かず、このような失態を犯すとはお恥ずかしい限りです」








「マリベル」








執務室に入ってきて早々に頭を下げたジェラール団長とマリベル様。その顔は青い。失態っちゃ失態だけど、向こうが上手だったんだろうねぇ。でも、大陸最強という称号に傷が付いた。








「過ぎたことを言っても仕方ないだろ。とにかく、早く足取りを掴め。侵入者に関しても同じだ」








「そうだね。うちに侵入するってことは、何か良からぬ事を企んでるかもしれないし。さっさと足取りを掴んで」








「はい。あの、イオリをお借りしても?」








「え、私ですか」








「シキが離れている今、お前が黒翼近衛隊長の代理をしてほしい。頼む」








「え、嫌ですよ。私は兄ほど統率力はありません。兄と違って私は戦うしか脳を持ちませんので」








「何を言ってる。シキの妹のお前を、崇拝する奴等だって多い。統率こそすれ、勝手に奴等はお前に着いていく。が、それはジジイの嫌味だな?」








「…崇拝って。兎も角ですね、そこまで私に迷惑が被るなら兄の確保に回ります。同郷のよしみで探してくれるでしょう。身の保証は出来ませんが」








双帝の視線が冷たくなった。余計なこと言うなよ、ジェラール団長。ジェラール団長の言ったジジイとは、司書のお爺様のことだ。団長の祖父に当たるらしい。孫のジェラール団長より、双帝が可愛いとかなんとか。








司書様は、黒帝の一件から私を毛嫌いしている。顔を合わす度に嫌味を言われていて、今回は一緒に鍛練をしていた騎士たちの前で言われた。所構わず見つけたら言ってくるからなあ。騎士の誰かがジェラール団長にチクったんだろう。










「糞ジジイで本当にすまない。随分と酷いことを言っていたと聞いた。あれ、いつもか?」








「いつものことなので気にしていませんよ。客観的に見た私がどうなのか知れているので」








「どういうことかな?」








「そんな報告なかったぞ、イオリ」










「アルベルト様、シヴァ様…」








「司書様は、双帝大好きを拗らせただけです」










マリアナを捕らえたのに側仕えに復帰したこと、マリアナの件で白帝に庇われたことが、多分司書様は気に食わないんだろう。本当に、なんというか。嫉妬かよ。








「…ジジイには追々話を聞くとして、シキの確保出来るのか?」








「出来ます。してみせます。エサ希一莉乃の身の保証はしませんけどね」










とりあえずジエロにも探し始めてもらわないと。年寄りの戯れ言には耳を貸さない。これ一番大事だ。なにも、嫌味をダラダラ言うのは司書様だけではないのだ。他のジジイたちも、ダラダラ嫌味を言う。








「それじゃ、仕事に取り掛かろうか」










パチンと手を叩いたのは白帝だ。シヴァ様は、何か考え込んでいるらしく、一点を見たまま微動だにしない。ジェラール団長やマリベル様は、そそくさと執務室を後にした。私も一言告げて、執務室を出る。私も、暫くは外回りに集中するべきだろう。お兄ちゃんの代理をするつもりは更々ないが、常に人手不足なのだ。侵入者の件に割ける人員などない。

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