異世界に喚ばれたので、異世界に住んでいます。
09.天使と聖女のお茶会
太陽が眩しい昼下がり。私は蒼の離宮にいた。ルシエラ様主催のお茶会に誘われたのだ。客は、私とネージュダリア様。何の面子だよ。ビクビクしているネージュダリア様を、微笑ましく見つめているルシエラ様。
「……今日は、お招きいただきありがとうございます、ルシエラ様」
「ネージュダリア様、気を楽になさってください。それから私のことはルシエラと」
「では、私のことも、ネーリアと読んでくださいませ」
「あらー。それはアル兄様だけの呼び方でしょう?私はリアと呼ばせてもらいますわ!あ、私たちも軽くいきませんか、イオリ!」
「そーですねー。ですがルシエラ様、私はシヴァ様の側仕えなだけでそこまで軽くなれません」
「もう堅いんだから!」
「ーーとはいえ、お茶会で堅苦しくしてもあれでしょうから、気持ち軽くいきますね」
そんなこんなで、お茶会が幕を開けた。ルシエラ様の選んだお茶とお菓子が美味しい。さすが皇族。ネージュダリア様も嬉しそうに食べているところを見ると、お気に召したらしい。白帝が餌付けしてたりするのかな。
「ネージュダリア嬢、良かったらこれも食べてください」
「えっ、あの、でも。イオリさんの分が…」
「私、昼食を食べすぎてしまって。良かったら食べてください」
躊躇っているのに、パァッと煌めいた氷蒼の瞳。目は口ほどに物を言うってこのことかあ。貴女は天使の化身か、それとも本物の天使か。ネージュダリア嬢は、私から恐る恐ると器を受け取った。そして、嬉しそうに微笑んだ。
あ、天使ですね。
「リア様、アルお兄様はどうですか?」
「へっ!?あ、アルベルト様は、お優しい、です」
「ふふ、そうですか。何か不自由なこととか、ありませんか?」
「えっと、ないです…」
「何かあったら言ってくださいね。もちろん、私に言いにくければイオリにでも」
「はい、私に言ってくだされば手配いたしますよ。というか、本当に不自由ありませんか?束縛されているとか、露骨なことされたりとか」
「ないです!!アルベルト様は、こんな私にも良くしてくれます。私の方が、何か出来ることはないかと…」
「そうなんですね。言葉が過ぎてしまいました、すみません」
「イオリは際どい所を攻めるのに代わりがないようですね。お兄様に叱られますよ」
「…覗き見されてませんよね、これ」
「結界などはないですから、見放題と言えば見放題ですわ」
俯き込んでしまったネージュダリア嬢に、私自身が余計なことを言ってしまったのだと理解した。最近、荒くれ者たちと仕事してるから女性らしさを忘れてしまった。なんて言うのは、言い訳に過ぎなかった。気遣いさえ出来なくなったのか、私は。
 
 
「ネージュダリア嬢、先ほどの言葉は失言でした。申し訳ございません。ですが、私は貴女に幸せになってほしいのです。相手が誰であれ、ネージュダリア嬢にこの世界は暖かいと知ってほしいんです」
「イオリさん、」
「実は、私、この世界の人間ではないんです」
えっ。ネージュダリア嬢が私を見た。純粋な驚きしかない瞳は、太陽の下で美しく輝いている。白帝が天気の良い日はこうやって外に連れ出して、デートをする気持ちが少し分かる気がする。
「元いた世界は争い事が絶えないところでした。私や兄のシキは、たくさんの命を奪ってきました。冷たくて裏切りが隣り合わせの世界で生きてきた。父と恋人が死に、兄妹が居なくなり、最後は気が狂った母も死んだ。独りぼっちになった世界は、色が褪せてつまらなくて。でも、色んな偶然が重なって、この世界に来たのは1年前なんです」
「1年前…」
「馴染んでて驚きました?いや、私も驚いてますよ。この世界に来たら、居なくなった兄妹が居たし、上司は優しいし、何より皆が温かかった。ネージュダリア嬢のこれまでが、どんな世界だったのか私には計り知れません。けれど、此処は温かい人たちばかりです。閉じ込められて良い筈がない。自由に伸び伸びとしてほしいんです」
だから、ネージュダリア嬢にも知って欲しいと思った。皆が貴女を待ち望んでいたことを。皆が貴女を必要としていることを。貴女は確かに私たちに護られていると。翼をたおるのは、白帝でも私たちでもない。
「リア様、イオリは双翼に混じって仕事をしているの。女性は他にもいるけど、彼女は格別。異世界から来たってことを抜きにしてもね。根っからの騎士だから、たまに心を抉りそうなことを言うのだけど悪気はないから許してあげて」
「ルシエラ様…。心を抉りそうなことをってどういうことですか。素直に配慮に欠けると言ってくださった方が良いです」
「つべこべ言わないの。リア様はリア様のペースで歩むのだから、私たち外野があれこれ言ったって仕方ないでしょう?」
「…大人になられましたね、ルシエラ様」
冷めきった紅茶を飲んで喉を潤す。ネージュダリア嬢は、信じられないと言った風にまだ私を見つめていた。やっぱり天使だな。白帝がメロメロデレデレなのも分かる。
まあ、私が異世界の住人だったって話は雰囲気をぶちきる為にしたわけで、私はネージュダリア嬢の純粋さを利用した。隠さなきゃいけないことでもないし。うーん。でも、覗き放題らしいし白帝とシヴァ様にどやされるのは確実だな。
「あの、」
「はい?」
「イオリさんは、何でそんなにお強いのですか?」
「強い?私が?」
「そうです。見知らぬ世界に来たのに、なんで」
「うーん。戦う術を持ってましたから、生き延びる自信はあったんです」
「戦う術…」
「ネージュダリア嬢。私の戦う術は、人を生きとし生けるもの全てを傷付けるものです。人の命だって奪ってきた。でも、それが私の戦う術であって、ネージュダリア嬢の戦う術ではありませんよ。ネージュダリア嬢には、ネージュダリア嬢の戦い方がある」
「私の、戦い方」
「リア様、焦らないで。リア様が戦うのはまだ先のこと。今は、ゆっくり体を休めてね」
「…はい」
「ネージュダリア嬢が戦うなんてありませんよ、ルシエラ様。だって白帝陛下が守るんですから」
「ふふ。そうね、アルお兄様がリア様を守ってくださるわ。アルお兄様だけじゃなくて、私たちもお守りいたしますから」
穏やかに微笑むルシエラ様は、まさに聖女そのものだ。そして、それに目を伏せるネージュダリア嬢は天使のようで。嗚呼、美しや。
「ーーさ、楽しいお茶会の続きを致しましょ」
陽が傾き始めた頃に、シヴァ様と白帝が珍しく蒼の離宮に来た。白帝はネージュダリア様を迎えに来たのだろう。そを見て、鼻の下伸びきってるわねとルシエラ様は楽しそうに呟いて、次いでシヴァ様を見やった。
「シヴァお兄様はイオリのお迎えかしら?」
「あぁ。イオ、夕食を一緒にどうだ?」
「え、シヴァ様どうしたんですか」
「明日、外回りの仕事が入ったから打ち合わせついでに」
「あー。でも、今日は兄が夜勤なんです。シエルとセリカが…」
「あら、でしたら今夜は私が一緒に居ますわ!」
「でも、ルシエラ様…」
ルシエラ様は笑って頷いてくれた。お言葉に甘えるとしよう。仕事の話をするから、どうしても血生臭くなる。それをシエルとセリカに聞かせるにはまだ早い。いや、大きくなっても聞かせたくないけれど。
蒼の離宮の一室で、勉強会をしているシエルとセリカをそのままルシエラ様にお願いした。シエルとセリカは、久しぶりにルシエラ様と一緒に眠れると嬉しそうに笑っていた。お仕事頑張ってねって。お前ら、マジ天使。この城には天使が三人も居て、聖女様もいるからな。マジ最高。
「……今日は、お招きいただきありがとうございます、ルシエラ様」
「ネージュダリア様、気を楽になさってください。それから私のことはルシエラと」
「では、私のことも、ネーリアと読んでくださいませ」
「あらー。それはアル兄様だけの呼び方でしょう?私はリアと呼ばせてもらいますわ!あ、私たちも軽くいきませんか、イオリ!」
「そーですねー。ですがルシエラ様、私はシヴァ様の側仕えなだけでそこまで軽くなれません」
「もう堅いんだから!」
「ーーとはいえ、お茶会で堅苦しくしてもあれでしょうから、気持ち軽くいきますね」
そんなこんなで、お茶会が幕を開けた。ルシエラ様の選んだお茶とお菓子が美味しい。さすが皇族。ネージュダリア様も嬉しそうに食べているところを見ると、お気に召したらしい。白帝が餌付けしてたりするのかな。
「ネージュダリア嬢、良かったらこれも食べてください」
「えっ、あの、でも。イオリさんの分が…」
「私、昼食を食べすぎてしまって。良かったら食べてください」
躊躇っているのに、パァッと煌めいた氷蒼の瞳。目は口ほどに物を言うってこのことかあ。貴女は天使の化身か、それとも本物の天使か。ネージュダリア嬢は、私から恐る恐ると器を受け取った。そして、嬉しそうに微笑んだ。
あ、天使ですね。
「リア様、アルお兄様はどうですか?」
「へっ!?あ、アルベルト様は、お優しい、です」
「ふふ、そうですか。何か不自由なこととか、ありませんか?」
「えっと、ないです…」
「何かあったら言ってくださいね。もちろん、私に言いにくければイオリにでも」
「はい、私に言ってくだされば手配いたしますよ。というか、本当に不自由ありませんか?束縛されているとか、露骨なことされたりとか」
「ないです!!アルベルト様は、こんな私にも良くしてくれます。私の方が、何か出来ることはないかと…」
「そうなんですね。言葉が過ぎてしまいました、すみません」
「イオリは際どい所を攻めるのに代わりがないようですね。お兄様に叱られますよ」
「…覗き見されてませんよね、これ」
「結界などはないですから、見放題と言えば見放題ですわ」
俯き込んでしまったネージュダリア嬢に、私自身が余計なことを言ってしまったのだと理解した。最近、荒くれ者たちと仕事してるから女性らしさを忘れてしまった。なんて言うのは、言い訳に過ぎなかった。気遣いさえ出来なくなったのか、私は。
 
 
「ネージュダリア嬢、先ほどの言葉は失言でした。申し訳ございません。ですが、私は貴女に幸せになってほしいのです。相手が誰であれ、ネージュダリア嬢にこの世界は暖かいと知ってほしいんです」
「イオリさん、」
「実は、私、この世界の人間ではないんです」
えっ。ネージュダリア嬢が私を見た。純粋な驚きしかない瞳は、太陽の下で美しく輝いている。白帝が天気の良い日はこうやって外に連れ出して、デートをする気持ちが少し分かる気がする。
「元いた世界は争い事が絶えないところでした。私や兄のシキは、たくさんの命を奪ってきました。冷たくて裏切りが隣り合わせの世界で生きてきた。父と恋人が死に、兄妹が居なくなり、最後は気が狂った母も死んだ。独りぼっちになった世界は、色が褪せてつまらなくて。でも、色んな偶然が重なって、この世界に来たのは1年前なんです」
「1年前…」
「馴染んでて驚きました?いや、私も驚いてますよ。この世界に来たら、居なくなった兄妹が居たし、上司は優しいし、何より皆が温かかった。ネージュダリア嬢のこれまでが、どんな世界だったのか私には計り知れません。けれど、此処は温かい人たちばかりです。閉じ込められて良い筈がない。自由に伸び伸びとしてほしいんです」
だから、ネージュダリア嬢にも知って欲しいと思った。皆が貴女を待ち望んでいたことを。皆が貴女を必要としていることを。貴女は確かに私たちに護られていると。翼をたおるのは、白帝でも私たちでもない。
「リア様、イオリは双翼に混じって仕事をしているの。女性は他にもいるけど、彼女は格別。異世界から来たってことを抜きにしてもね。根っからの騎士だから、たまに心を抉りそうなことを言うのだけど悪気はないから許してあげて」
「ルシエラ様…。心を抉りそうなことをってどういうことですか。素直に配慮に欠けると言ってくださった方が良いです」
「つべこべ言わないの。リア様はリア様のペースで歩むのだから、私たち外野があれこれ言ったって仕方ないでしょう?」
「…大人になられましたね、ルシエラ様」
冷めきった紅茶を飲んで喉を潤す。ネージュダリア嬢は、信じられないと言った風にまだ私を見つめていた。やっぱり天使だな。白帝がメロメロデレデレなのも分かる。
まあ、私が異世界の住人だったって話は雰囲気をぶちきる為にしたわけで、私はネージュダリア嬢の純粋さを利用した。隠さなきゃいけないことでもないし。うーん。でも、覗き放題らしいし白帝とシヴァ様にどやされるのは確実だな。
「あの、」
「はい?」
「イオリさんは、何でそんなにお強いのですか?」
「強い?私が?」
「そうです。見知らぬ世界に来たのに、なんで」
「うーん。戦う術を持ってましたから、生き延びる自信はあったんです」
「戦う術…」
「ネージュダリア嬢。私の戦う術は、人を生きとし生けるもの全てを傷付けるものです。人の命だって奪ってきた。でも、それが私の戦う術であって、ネージュダリア嬢の戦う術ではありませんよ。ネージュダリア嬢には、ネージュダリア嬢の戦い方がある」
「私の、戦い方」
「リア様、焦らないで。リア様が戦うのはまだ先のこと。今は、ゆっくり体を休めてね」
「…はい」
「ネージュダリア嬢が戦うなんてありませんよ、ルシエラ様。だって白帝陛下が守るんですから」
「ふふ。そうね、アルお兄様がリア様を守ってくださるわ。アルお兄様だけじゃなくて、私たちもお守りいたしますから」
穏やかに微笑むルシエラ様は、まさに聖女そのものだ。そして、それに目を伏せるネージュダリア嬢は天使のようで。嗚呼、美しや。
「ーーさ、楽しいお茶会の続きを致しましょ」
陽が傾き始めた頃に、シヴァ様と白帝が珍しく蒼の離宮に来た。白帝はネージュダリア様を迎えに来たのだろう。そを見て、鼻の下伸びきってるわねとルシエラ様は楽しそうに呟いて、次いでシヴァ様を見やった。
「シヴァお兄様はイオリのお迎えかしら?」
「あぁ。イオ、夕食を一緒にどうだ?」
「え、シヴァ様どうしたんですか」
「明日、外回りの仕事が入ったから打ち合わせついでに」
「あー。でも、今日は兄が夜勤なんです。シエルとセリカが…」
「あら、でしたら今夜は私が一緒に居ますわ!」
「でも、ルシエラ様…」
ルシエラ様は笑って頷いてくれた。お言葉に甘えるとしよう。仕事の話をするから、どうしても血生臭くなる。それをシエルとセリカに聞かせるにはまだ早い。いや、大きくなっても聞かせたくないけれど。
蒼の離宮の一室で、勉強会をしているシエルとセリカをそのままルシエラ様にお願いした。シエルとセリカは、久しぶりにルシエラ様と一緒に眠れると嬉しそうに笑っていた。お仕事頑張ってねって。お前ら、マジ天使。この城には天使が三人も居て、聖女様もいるからな。マジ最高。
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