異世界に喚ばれたので、異世界に住んでいます。
06.協力要請②
助っ人のこと、なんて切り出そうかな。黙々と仕事を続けているシヴァ様を横目に、私は書類を捲りながら考えていた。タイミングを間違えたら缶詰めにされかねない。
「イオ、何か言いたいことあるなら言え」
「ーー兄から助っ人に入れないかと訊かれました」
「助っ人?」
「ルーカスさんの休暇、ネージュダリア嬢の護衛の件、それに併せ魔物の活発化が目立つようになってきたこともあり、騎士団と魔術師団共に人手不足で魔物の討伐に手が足りないそうです。休暇も行き届いていないと。不満の声も上がってるみたいです」
「くっそ忙しい時に」
「くっそ忙しい時ですが、鼓舞するものがないですからねぇ。やる気が起きないんでしょう」
「やる気か。なら、俺も一緒に前線に出るかな」
「え?そんなことしたら、書類仕事が滞りますよ?」
「もちろん、アルベルトとロベルトにも相談するつもりだ。アルベルトが使い物になりゃ、の話だが」
「使い物になりゃ、って」
「どうやら一目惚れしたらしくてなあ」
クッと笑うシヴァ様の顔は悪どかったけど、どこか嬉しそうだ。でもそんな白帝に仕事を投げ付けようとしている辺り、公私はきっちり分けるらしい。どんまい、白帝。同情はしないけど。
「今夜の夕食も、ネージュダリア嬢と共にするとか」
「…休ませてやれよ」
私の呟きにシヴァ様は笑ったけど、それ以上は何も言わなかった。とりあえず、白帝とロベルト様と話し合いをしてから、お兄ちゃんに返答することに決まった。
「イオは、また戦いたい?」
「んー、はい」
「俺が嫌だと言っても?」
「嫌だと言っても、ダメだとは言わないんですね」
「まあ、今までのイオを見ているからね。戦闘狂なのは理解しているつもり」
「そうですね、戦いたいです。シヴァ様が嫌だと言われても、戦うことが私の存在意義ですから」
「だよねぇ。だから、俺も前線に出るって言ったわけ」
「だから、の意味が分からないんですけど」
「うん?俺は前に言ったよ」
「言いました?」
「言った」
クスクスと笑いながら、書類に判を押す。いつ言ったんだろうなあ。和やかな時間の流れはつい最近戻ってきた。殺伐としてたからね、本当。
「さて、そういうのは早ければ早いのが良いんだよな。俺も助っ人に出るとして、暫く二足草鞋生活だけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
「ならアルベルトの所に行ってこよう。イオはシキの所かな?」
「そうですね。騎士団の所に行きます」
「それじゃ、行こうか」
「はい」
シヴァ様は書類を何枚か握って、私と一緒に執務室を出た。途中まで一緒に並んで歩く。並んで歩くなんて本来ならいけないのだけど、シヴァ様が並んで歩くように‘命令’した。そういう形を取らないと、私は並んで歩くことはしないからだとか。
側仕えが、並んで歩くなど言語道断なんだけどなあ。一歩後ろを歩くと言っても聞き入れてくれなかった。
突き刺さる視線はまだ煩わしいものだ。爵位持ちや大臣たちは、未だに私を忌々しそうに見てくる。それに対して、城仕えの人たちの視線は優しくなった。気持ち的に。
「俺の事も伝えといてね」
「分かりました」
結論から行くと、騎士団と魔術師団は諸手を上げて喜んだ。ジェラール団長やマリベル様に手を握られてまで、感謝されることなんてないよね。白帝を助けた時でさえなかった。いや、彼らだけが喜んだわけではない。私とシヴァ様の参戦が瞬く間に広がり、やっと休暇が得られると喜んだのは騎士や魔術師たちで。それを咎めるなど誰にも出来やしなかった。
うん。休みがあるって嬉しいよね。それだけでも、作業効率って上がるよね。
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