Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~

櫻井音衣

あの時の気持ち、今の想い (5)

今夜は恵介の部屋で過ごすことになった。

私のマンションのそばのコインパーキングが満車で、車を停める場所がなかったので、『だったら俺の部屋においで』と恵介が言ったからだ。

私は一度部屋に帰り、着替えや化粧品などを詰めたバッグを持って恵介の車に戻った。

恵介の部屋に泊まるのは初めてだ。

久しぶりにお邪魔した恵介の部屋は、以前より少し散らかっているような気がした。

恵介は無造作に脱ぎ捨てられたシャツや床に放り投げられた雑誌を拾い上げた。

「ごめん、ちょっと散らかってるけど……」

「ううん、別にいいよ。忙しかったの?」

「忙しかったのもあるけど……とにかくなんにもやる気がしなかった。料理も全然しなかったし」

そういえば琴音がそんなことを言ってたっけ。

「恵介、泣いてたの?」

「えっ?!」

恵介は慌てふためいて、手にしていた雑誌を床に落とした。

「琴音が来た時に、恵介がベッドでボーッと天井見上げて抜け殻みたいになってたし、ちょっと泣いてたみたいだったって」

「あいつ……余計なことばっかり言いやがって……」

そう呟きながら雑誌を拾い上げる恵介の恥ずかしそうな表情がなんだか可愛くて、思わず笑ってしまう。

恵介は雑誌を部屋の隅にドサッと置いて、私を後ろから抱きしめた。

「そんなに笑うなよ。幸に会いたくて寂しくてしょうがなかったんだ。でも会いに行く勇気がなくて……一人でずっと幸のことばっかり考えてた」

「うん……私もずっと恵介に会いたかった。一緒にいられるだけで良かったのに、なんで別れるなんて言ったんだろうって、後悔ばっかりして……」

「お互い様だな。俺と幸、似た者同士だ」

「そうだね」

自分に自信がなくてなかなか想いを伝えられないところも、何かが起こる前から悪い方に考えてしまうところも、あの時こうすれば良かったと後悔ばかりしてしまうところも、本当に似ていると思う。

私と同じで、恵介もペシミストってことか。

「俺は幸と一緒なら……もっと前向いて生きて行けそうな気がするよ」

「私も。恵介が私を好きだってずっと言ってくれたら、今より少しは自分に自信持てそうな気がする」

恵介は私の頬にキスをして、素早く私を抱き上げた。

「わっ……!」

驚いて恵介の顔を見上げると、恵介は少し意地悪な笑みを浮かべながら私をベッドに運んだ。

「自信持っていいよ。俺はずっと幸に夢中だから。これからもっと夢中になるけど」

ベッドに押し倒され何度もキスをされて、そっと肌に触れられると、眠っていた全身の感覚が研ぎ澄まされたようにザワザワと騒ぎ出す。

他の人とでは感じたことのないこの感覚は、どうやら恵介に触れられた時だけ目を覚ますらしい。

恵介は首や胸元に唇を這わせながら私の服を脱がせた。

「代わりに付き合ってた時はずっと幸が欲しいの我慢してたけど、今日は容赦しない。会えなかった分、抑えがきかないと思うから覚悟しろよ」

相変わらず……というか、以前よりエロさが増しているような……。

優しい愛撫がだんだん激しくなり、私が息を荒くして身悶えると、恵介の身体も次第に熱を帯びてゆく。

「隅々まで愛して、離れられなくなるくらい幸を俺に夢中にさせるからな」

果たして私の体がもつのか心配だけど、やっぱり恵介に触れられると嬉しくて、もっと恵介を感じたくて、身体中の血が騒いだ。

「バカ……。私だって、もうとっくに恵介じゃなきゃダメなんだからね」

「そこもお互い様だな。俺も幸じゃなきゃダメみたいだ。今日は目隠ししないで、ちゃんと俺を感じて」

お互いの名前を呼んで、肌に触れて抱きしめて、心と体の奥深くまでいっぱいに満たされて、愛する人に愛されてすべてを求め合う幸せを全身で感じた。

重ね合う肌の温もりも、混ざり合う吐息も、耳元で囁き合う愛の言葉も、二人で共有する時間のすべてが愛しい。

誰の代わりでもなく、 私は間違いなく恵介が好きだ。




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