Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
誕生日前夜 (3)
「幸、ごめんね。恵介って元々無愛想で口数少ないから、気にしないでね」
「うん……」
無愛想で口数少ない?
私の知っている恵介とは程遠い。
私といる時の恵介は、いつも笑ってたくさん話していたと思うけど、琴音の前では違うのかな?
私と恵介が付き合っていたことは琴音には話していないからヘタなことは言えないし、気を取り直してチキンでも食べようと取り皿を手にした時、前にここで昼食を食べるのに使ったお皿だと気付いた。
そういえば、私が作った肉じゃがをどうしたのか、まだ聞いてなかったな。
「ねぇ、ずっと聞きそびれてたんだけど、結局私が作った肉じゃがはどうしたの?」
「ん?あー、あれね。仕事で帰りが遅くなるって言われたけど、とりあえず届けた。合鍵持ってるし」
「届けたって……誰に?」
「兄貴」
知らなかった、琴音にはお兄さんがいたのか。
「なんでお兄さんに私の料理を?」
「幸と料理したちょっと前から、今もずっと元気ないんだよね。休みの日に私が部屋に行った時、ボーッと天井見上げて抜け殻みたいになってた。なんかちょっと泣いてたっぽいから、ただ事じゃないなって」
男の人も一人で泣いたりするんだな。
もしかしたら恋人と別れたとか、きっと泣きたくなるほどつらいことがあったんだ。
「まぁ、元々そういう女々しいところがあるんだけどね。自分に自信がない人だから、好きな人といい感じになってもなかなか好きって言えないで、モタモタしてるうちに他の人に取られちゃったりさ。それで後悔して自己嫌悪に陥るの」
なんとなく私と似てる。
琴音のお兄さんも、自分で自分を責める虚しさとか、自信のない自分に苛立つ歯痒さを、私と同じように何度も味わったのかも知れない。
「ずっと元気なくて食欲もないみたいだったから、せめて好きな物でも食べさせてあげたいと思ったんだけど、私が作ると下手だとかまずいとか文句言われそうだから、幸に作ってもらったの」
琴音って意外とお兄さん思いなんだ。
私には兄弟がいないから、そういうの、ちょっと羨ましい。
「私が作った唐揚げはまあまあ美味しかったって言ったのに、 幸の肉じゃがはすごく美味しかった、ホントに琴音が作ったのかって。そうだよって言ったらすごく疑われた。嘘ついてもわかるもんなんだね」
それはやっぱり兄妹だからなのかな?
もしかしたら照れ隠しなのかも。
「琴音が気に掛けてくれて、お兄さんは嬉しかったと思うよ」
「ずっとわがまま言って面倒掛けてばっかりだったからさ、弱ってる時くらいはね。また料理教えて。ついでにまた作ってやってくれる?」
「そういうことなら」
「良かった。幸の料理美味しいから、絶対元気出ると思う」
「だといいんだけど」
誰かのために料理を作るのは嫌いじゃない。
見ず知らずの私なんかが作った料理で元気になれるかはわからないけど、少しでも琴音のお兄さんの心を癒やせたらいいな。
それから少しして、琴音がお手洗いに行くと席を立ってすぐ、恵介がコンビニの袋を提げて戻ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま……。琴音は?」
「お手洗いに」
コンビニはすぐ近くなのに、タバコを買うだけにしてはずいぶん遅かったな。
そう思っていると、恵介が袋の中から取り出したものを、ためらいがちに私に差し出した。
「幸、これ……」
それは前に買ってきてくれたものと同じ、私の好きなイチゴのアイスだった。
アイスを受け取り顔を上げると、恵介は照れくさそうに首の後ろを押さえた。
「ごめん、何かあげたかったんだけど……幸の好きなものなんてそれしか思い浮かばなかったから」
「ありがとう……覚えててくれたんだ……」
ほんの些細なことを覚えてくれていたのが嬉しくて、思わず泣きそうになったけど、グッと堪えた。
「うん……」
無愛想で口数少ない?
私の知っている恵介とは程遠い。
私といる時の恵介は、いつも笑ってたくさん話していたと思うけど、琴音の前では違うのかな?
私と恵介が付き合っていたことは琴音には話していないからヘタなことは言えないし、気を取り直してチキンでも食べようと取り皿を手にした時、前にここで昼食を食べるのに使ったお皿だと気付いた。
そういえば、私が作った肉じゃがをどうしたのか、まだ聞いてなかったな。
「ねぇ、ずっと聞きそびれてたんだけど、結局私が作った肉じゃがはどうしたの?」
「ん?あー、あれね。仕事で帰りが遅くなるって言われたけど、とりあえず届けた。合鍵持ってるし」
「届けたって……誰に?」
「兄貴」
知らなかった、琴音にはお兄さんがいたのか。
「なんでお兄さんに私の料理を?」
「幸と料理したちょっと前から、今もずっと元気ないんだよね。休みの日に私が部屋に行った時、ボーッと天井見上げて抜け殻みたいになってた。なんかちょっと泣いてたっぽいから、ただ事じゃないなって」
男の人も一人で泣いたりするんだな。
もしかしたら恋人と別れたとか、きっと泣きたくなるほどつらいことがあったんだ。
「まぁ、元々そういう女々しいところがあるんだけどね。自分に自信がない人だから、好きな人といい感じになってもなかなか好きって言えないで、モタモタしてるうちに他の人に取られちゃったりさ。それで後悔して自己嫌悪に陥るの」
なんとなく私と似てる。
琴音のお兄さんも、自分で自分を責める虚しさとか、自信のない自分に苛立つ歯痒さを、私と同じように何度も味わったのかも知れない。
「ずっと元気なくて食欲もないみたいだったから、せめて好きな物でも食べさせてあげたいと思ったんだけど、私が作ると下手だとかまずいとか文句言われそうだから、幸に作ってもらったの」
琴音って意外とお兄さん思いなんだ。
私には兄弟がいないから、そういうの、ちょっと羨ましい。
「私が作った唐揚げはまあまあ美味しかったって言ったのに、 幸の肉じゃがはすごく美味しかった、ホントに琴音が作ったのかって。そうだよって言ったらすごく疑われた。嘘ついてもわかるもんなんだね」
それはやっぱり兄妹だからなのかな?
もしかしたら照れ隠しなのかも。
「琴音が気に掛けてくれて、お兄さんは嬉しかったと思うよ」
「ずっとわがまま言って面倒掛けてばっかりだったからさ、弱ってる時くらいはね。また料理教えて。ついでにまた作ってやってくれる?」
「そういうことなら」
「良かった。幸の料理美味しいから、絶対元気出ると思う」
「だといいんだけど」
誰かのために料理を作るのは嫌いじゃない。
見ず知らずの私なんかが作った料理で元気になれるかはわからないけど、少しでも琴音のお兄さんの心を癒やせたらいいな。
それから少しして、琴音がお手洗いに行くと席を立ってすぐ、恵介がコンビニの袋を提げて戻ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま……。琴音は?」
「お手洗いに」
コンビニはすぐ近くなのに、タバコを買うだけにしてはずいぶん遅かったな。
そう思っていると、恵介が袋の中から取り出したものを、ためらいがちに私に差し出した。
「幸、これ……」
それは前に買ってきてくれたものと同じ、私の好きなイチゴのアイスだった。
アイスを受け取り顔を上げると、恵介は照れくさそうに首の後ろを押さえた。
「ごめん、何かあげたかったんだけど……幸の好きなものなんてそれしか思い浮かばなかったから」
「ありがとう……覚えててくれたんだ……」
ほんの些細なことを覚えてくれていたのが嬉しくて、思わず泣きそうになったけど、グッと堪えた。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
516
-
-
107
-
-
29
-
-
337
-
-
768
-
-
2
-
-
75
-
-
6
-
-
238
コメント