Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~

櫻井音衣

親友の後押し (3)

その日、自宅に戻って入浴を済ませた後、クローゼットにしまい込んでいた化粧品と髪飾りを紙袋から出した。

手に取ると、あの時の恵介の優しい顔が脳裏に浮かんだ。

これは私が少しでも自信が持てるようにと恵介が買ってくれたものだから、その気持ちを無駄にしないように、使うことにした。

明日はピンクのシュシュで髪を結んで仕事に行こう。

化粧品を変えたり少し着飾ったくらいですぐに綺麗になれるわけじゃないけれど、できる努力は少しでもしてみようと思う。



それから小さな努力を続けつつ、何事もなく半月が過ぎた。

パソコンに向かって書類を作成していると、隣のパソコンでシフト表を確認していた琴音が私の方を見た。

「幸、明後日誕生日?」

「ああ……うん」

うちの会社ではバースデー休暇というものがあって、誕生日に休みが取れることになっている。

今年の誕生日は土曜日だ。

土日は挙式予約で一杯になるから、普段はめったに土曜日なんて休めないけど、せっかくだから年度始めから日付通りに休暇を申請して、挙式予約を入れないようにしていた。

だからと言って何があるわけでもないけど、たまにはゆっくり休もうと明日もシフトを休みにして、連休を取ることにしている。

「いいなぁ、金曜土曜と連休なんだね」

「なんの予定もないけどね。ずっと忙しかったから、とりあえずゆっくり休もうと思って」

「せっかくだから旅行にでも行けば?」

「一緒に行く人もいないのに?」

書類の作成を済ませ、椅子から立ち上がって伸びをした。

ずいぶん肩が凝っている。

頑張って働いた分だけ疲れが溜まってるんだ。

温泉旅行とまではいかなくても、スーパー銭湯にでも行って、ゆっくりお湯に浸かるのも悪くないな。

「明日はスーパー銭湯にでも行こうかな。お風呂に浸かってマッサージしてもらって、日頃の疲れを癒してもらうか」

「えーっ、何それ寂しい」

寂しいのかな?

一人で過ごす休日にしては贅沢だと思うんだけど。

琴音は少し考えて、何をひらめいたのかポンと手を叩いた。

「じゃあ、明日は私も休みだし、夏樹は明日から慰安旅行でいないから、お風呂でゆっくりした後でうちにおいでよ。1日早いけどバースデーパーティーしよう。ケーキとかチキンとか用意するから」

唐突に何を言い出すのかと思ったら……。

バースデーパーティーなんて、子供の頃以来してもらったことないよ。

「パーティーって……私、29になるんだよ?子供じゃあるまいし」

「誕生日はいくつになってもおめでたいの!生まれてきたことに感謝してお祝いするんだよ」

琴音はポジティブだな。

そういうところは見習うべきか。

「じゃあ、誕生日前夜を琴音に祝ってもらおうかな」

「そうしよう!じゃ、そろそろお客さん来る頃だし、サロンに行ってくるね」

「行ってらっしゃい」

琴音はニコニコ笑いながら手を振って事務所を出た。

まさか琴音が私の誕生日をお祝いしてくれるなんて、半年前には考えられなかった。

琴音が夏樹とのことを話してくれてから、わだかまりがなくなった。

同僚として、友人として、以前よりも今の方がいい関係だと思う。

そう言えば、夏樹とのことは聞いたけど、恵介との関係をハッキリとは聞いていない。

明日もし機会があったら聞いてみよう。



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