Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
一人で大丈夫 (1)
「2番テーブルのお客様、鰹のたたきと生中一丁追加でーす!!」
「はい、喜んでーっ!!」
ざわついた店内に、威勢の良い店員の声が響き渡った。
見たところ店員たちは、二十歳そこそこの大学生のアルバイトって感じだ。
若い子は元気だな。
なんとなくこっちまで元気になれそうな気がする。
忙しそうに店内を行ったり来たりする店員をぼんやりと眺めていると、ポンと肩を叩かれた。
「幸、飲んでるか?」
声を掛けられて顔を上げると、秋一がジョッキを片手にニコニコ笑っていた。
しばらく会わない間に、ずいぶん大人っぽくなった気がする。
年齢的に大人なんだからそれは当たり前なんだけど、昔の秋一は少し童顔で可愛らしかったから、大人の男になると変わるものだと感心した。
「うん、飲んでるよ」
秋一は空いていた私の隣に座った。
さっきまで隣にいたはずの巴は、向かいの席で片瀬と恋愛論について盛り上がっているようだ。
「それにしても久しぶりだな。何年ぶりだ?」
「大学卒業する前に会って以来だから、6年半ぶりくらいかな」
「そうかぁ。もう29だもんな。道理でみんな老けるわけだ」
「老けた……?大人になったってことにしとこうよ、そこは」
今日集まった同級生の中には、既に29歳の誕生日を迎えた者もいれば、かろうじて28歳の者もいる。
秋一は前者だ。
クラスの人気者だった秋一は、学食でクラスメイトから誕生日を派手に祝われていたから、今でも秋一の誕生日は覚えている。
5月生まれなのになんで秋一?って、同級生からよくネタにされていた。
「私はまだ28なんだけどね。秋一はもう29になったんでしょ?5月12日だったっけ?」
「よく覚えてんなぁ……。出張先のインドネシアで一人寂しく29歳の誕生日を迎えたよ」
「そうなんだ。じゃあ今日は本社に帰ってきたお祝いと、誕生日の分もみんなに祝ってもらいなよ」
「だーっ、それより彼女に祝ってもらいてぇよ、俺は!転勤とか海外出張ばっかりで、誰と付き合っても全然長続きしなかったんだよーっ!!」
そんなことを言いながらも、ちっとも悲壮感がない。
相変わらず秋一は明るいな。
「でも本社に戻れたんでしょ?これからいい出会いがあるんじゃない?大手の企業だから、若くて可愛いOLとの社内恋愛とか……」
「うちの会社、社内恋愛禁止なんだよな。本社に戻って可愛い子がいても、恋愛はしちゃいけないの。このつらさ、わかる?」
秋一は大袈裟に肩を落とした。
コミカルな動きに思わず笑ってしまう。
そういうところは変わってない。
「わかんない。私の職場は女性しかいないから。男の人はお客さんと業者さんくらい」
男性のお客さんはこれから結婚を控えた新郎さんと、そのカップルの父親くらいだし、出入りしている業者さんも既婚のオジサンばかりだ。
恋愛対象には程遠い。
「まさしく女の園だな……。羨ましい」
「秋一は男だから、私と同じ立場なら男オンリーの職場ってことになるね」
「やっぱ羨ましくない……」
昔も結構モテたはずなのに恋には不器用なのか、秋一に彼女がいるところを見たことがなかった。
秋一は誰と付き合っても長続きしなかったと言ったけど、同じ場所に落ち着いて勤められるようになったのなら、すぐにいい人ができそうだ。
「幸は結婚式場で働いてるんだって?」
「うん、ブライダルサロンの主任やってる」
「へぇ、役職就きかぁ。すげぇじゃん」
「真面目だけが取り柄だからね」
「あー、幸は高校時代も真面目だったもんな。委員の仕事とか掃除当番とか、絶対サボらなかったし」
真面目だけが取り柄の私が、目立つメンバーばかりのこのグループにいたことは、今でも不思議でしょうがない。
地味で真面目であまり友達のいなかった私に秋一が積極的に声を掛けてくれて、クラスのみんなと自然と打ち解けることができた。
「高校卒業して何年だっけ」
「えーっと……10年か。もうそんなに経つんだ、早いね」
「幸はあんまり変わらないな」
ん……?
誰がどう見ても見た目は変わったし、それでも変わらないって言うことは、成長してないってこと?
「それ、けなしてるの?」
「違う違う!むしろ誉めてんの!見た目は大人っぽくなったよ?変わってないのは中身のこと。ずっと純粋って言うか、すれてないって言うか」
「はい、喜んでーっ!!」
ざわついた店内に、威勢の良い店員の声が響き渡った。
見たところ店員たちは、二十歳そこそこの大学生のアルバイトって感じだ。
若い子は元気だな。
なんとなくこっちまで元気になれそうな気がする。
忙しそうに店内を行ったり来たりする店員をぼんやりと眺めていると、ポンと肩を叩かれた。
「幸、飲んでるか?」
声を掛けられて顔を上げると、秋一がジョッキを片手にニコニコ笑っていた。
しばらく会わない間に、ずいぶん大人っぽくなった気がする。
年齢的に大人なんだからそれは当たり前なんだけど、昔の秋一は少し童顔で可愛らしかったから、大人の男になると変わるものだと感心した。
「うん、飲んでるよ」
秋一は空いていた私の隣に座った。
さっきまで隣にいたはずの巴は、向かいの席で片瀬と恋愛論について盛り上がっているようだ。
「それにしても久しぶりだな。何年ぶりだ?」
「大学卒業する前に会って以来だから、6年半ぶりくらいかな」
「そうかぁ。もう29だもんな。道理でみんな老けるわけだ」
「老けた……?大人になったってことにしとこうよ、そこは」
今日集まった同級生の中には、既に29歳の誕生日を迎えた者もいれば、かろうじて28歳の者もいる。
秋一は前者だ。
クラスの人気者だった秋一は、学食でクラスメイトから誕生日を派手に祝われていたから、今でも秋一の誕生日は覚えている。
5月生まれなのになんで秋一?って、同級生からよくネタにされていた。
「私はまだ28なんだけどね。秋一はもう29になったんでしょ?5月12日だったっけ?」
「よく覚えてんなぁ……。出張先のインドネシアで一人寂しく29歳の誕生日を迎えたよ」
「そうなんだ。じゃあ今日は本社に帰ってきたお祝いと、誕生日の分もみんなに祝ってもらいなよ」
「だーっ、それより彼女に祝ってもらいてぇよ、俺は!転勤とか海外出張ばっかりで、誰と付き合っても全然長続きしなかったんだよーっ!!」
そんなことを言いながらも、ちっとも悲壮感がない。
相変わらず秋一は明るいな。
「でも本社に戻れたんでしょ?これからいい出会いがあるんじゃない?大手の企業だから、若くて可愛いOLとの社内恋愛とか……」
「うちの会社、社内恋愛禁止なんだよな。本社に戻って可愛い子がいても、恋愛はしちゃいけないの。このつらさ、わかる?」
秋一は大袈裟に肩を落とした。
コミカルな動きに思わず笑ってしまう。
そういうところは変わってない。
「わかんない。私の職場は女性しかいないから。男の人はお客さんと業者さんくらい」
男性のお客さんはこれから結婚を控えた新郎さんと、そのカップルの父親くらいだし、出入りしている業者さんも既婚のオジサンばかりだ。
恋愛対象には程遠い。
「まさしく女の園だな……。羨ましい」
「秋一は男だから、私と同じ立場なら男オンリーの職場ってことになるね」
「やっぱ羨ましくない……」
昔も結構モテたはずなのに恋には不器用なのか、秋一に彼女がいるところを見たことがなかった。
秋一は誰と付き合っても長続きしなかったと言ったけど、同じ場所に落ち着いて勤められるようになったのなら、すぐにいい人ができそうだ。
「幸は結婚式場で働いてるんだって?」
「うん、ブライダルサロンの主任やってる」
「へぇ、役職就きかぁ。すげぇじゃん」
「真面目だけが取り柄だからね」
「あー、幸は高校時代も真面目だったもんな。委員の仕事とか掃除当番とか、絶対サボらなかったし」
真面目だけが取り柄の私が、目立つメンバーばかりのこのグループにいたことは、今でも不思議でしょうがない。
地味で真面目であまり友達のいなかった私に秋一が積極的に声を掛けてくれて、クラスのみんなと自然と打ち解けることができた。
「高校卒業して何年だっけ」
「えーっと……10年か。もうそんなに経つんだ、早いね」
「幸はあんまり変わらないな」
ん……?
誰がどう見ても見た目は変わったし、それでも変わらないって言うことは、成長してないってこと?
「それ、けなしてるの?」
「違う違う!むしろ誉めてんの!見た目は大人っぽくなったよ?変わってないのは中身のこと。ずっと純粋って言うか、すれてないって言うか」
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