Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
もうやめる (1)
翌朝。
目覚まし時計の音で目が覚め、重いまぶたを開いた。
どんなにつらいことや悲しいことがあっても、朝は容赦なく訪れる。
顔を洗って、泣き腫らしたまぶたを冷やした。
今週末からブライダルフェアが始まる。
今日からその準備で忙しくなるんだから、しっかりしなきゃ。
普段よりも帰宅時間が遅くなるし、恵介と会うのをやめるには、ちょうどいい機会なのかも知れない。
夕べ切ったままだったスマホの電源を入れると、不在着信通知や未受信メールが一気に届いた。
今どこにいるんだとか、連絡してくれとか、恵介からのいくつかのメールを確認した後、不在着信通知も未読だった残りのメールも一気に削除した。
本当はどうでもいいくせに。
心配するふりなんかしてくれなくていい。
思わせ振りな態度に腹が立つ。
ドラッグストアで買った安い化粧品でいつも通りの簡単な化粧をして、いつものバレッタで髪を束ねて、私らしく地味な服装をして家を出た。
夏樹を見返すためとか、恵介を喜ばせるために綺麗になる努力をするなんて、バカらしいことはもうやめよう。
そんなのはやっぱり私らしくない。
どんなにしっかりメイクをして派手に着飾って見た目を変えても、中身はやっぱり私でしかないんだから。
地味な格好をしていても仕事はできる。
結局、私を裏切らないのは仕事だけなんだ。
お昼になる少し前、ブライダルサロンの事務所でパソコンに向かっていると、琴音が休憩をしに戻って来た。
「幸もコーヒー飲む?」
「今はいいわ、ありがとう」
琴音はカップにコーヒーを注ぎ、椅子に座って大きなため息をついた。
「疲れたぁ……。壮絶な嫁姑バトルだった……」
「お疲れ様」
「やっぱりあれね。母親がしゃしゃり出てくると、まとまるものもうまくまとまらない」
「家同士の付き合いとか、親の出身地のしきたりとか、いろいろあるから。難しくなることは確かね」
そういえば琴音は、夏樹の母親とはもめなかったな。
持ち前の外面の良さと甘え上手な性格で、夏樹の両親をうまく懐柔したって感じだった。
自分達のしたいことを優先しながら親の希望もうまく取り入れていたから、驚くほどスムーズに準備が進んだ。
その辺はやはり、ブライダルアドバイザーを職業としているだけはある。
「あのお嫁さん、やっぱり結婚辞めます!って言いそうな勢いだったよ」
「そうなんだ。新郎さんが間に入ってうまくまとまればいいけど」
「難しいんじゃないかな?親の言いなりって感じで、お嫁さんと二人で決めたこともあっさり覆しちゃって。お嫁さんは姑さんよりも新郎さんにムカついてたと思う」
「なるほどね……。結婚式までの道のりは険しいか」
パソコン入力を終えて、クルリと椅子を回した。
猫舌の琴音はコーヒーをふうふう吹き冷ましながら、熱そうにチビチビ飲んでいる。
「それで、新婚生活はうまくいってるの?」
勝手に口が動いた。
こんなことを聞いてどうするつもりなんだろう?
自分でもわからない。
私の言葉がよほど意外だったのか、琴音はキョトンとしている。
「まぁ、それなりに。仕事ある日は何もできないから、休みの日は家事で手一杯だけどね」
……ってことは、今のところ家事の怠慢で夏樹ともめたりはしていないんだな。
「ふーん……。私には想像もつかないわ。独身だから自分の世話だけしてればいいし、気楽なもんね」
「幸はなんでもできるもん、いつ結婚しても大丈夫よぅ。でも私は家事が苦手だからさぁ」
「そうなの?」
恵介から聞いて琴音が何もできないことを知っているのに、わざとらしく尋ねた。
「でも二人だとどうにかなるもんだね。 完璧にこなすのはまだ無理だから、手抜きしまくりだけど」
「ふーん……。それはのろけなのかな。仲のよろしいことで……」
なんだ、こっちはこっちでうまくやってるんだ。
予想は大きく外れたみたいよ、恵介。
やっぱり恵介との恋人ごっこは、もう終わりにしよう。
これ以上一緒にいたって、お互いの目的は果たせそうもないってわかったから。
目覚まし時計の音で目が覚め、重いまぶたを開いた。
どんなにつらいことや悲しいことがあっても、朝は容赦なく訪れる。
顔を洗って、泣き腫らしたまぶたを冷やした。
今週末からブライダルフェアが始まる。
今日からその準備で忙しくなるんだから、しっかりしなきゃ。
普段よりも帰宅時間が遅くなるし、恵介と会うのをやめるには、ちょうどいい機会なのかも知れない。
夕べ切ったままだったスマホの電源を入れると、不在着信通知や未受信メールが一気に届いた。
今どこにいるんだとか、連絡してくれとか、恵介からのいくつかのメールを確認した後、不在着信通知も未読だった残りのメールも一気に削除した。
本当はどうでもいいくせに。
心配するふりなんかしてくれなくていい。
思わせ振りな態度に腹が立つ。
ドラッグストアで買った安い化粧品でいつも通りの簡単な化粧をして、いつものバレッタで髪を束ねて、私らしく地味な服装をして家を出た。
夏樹を見返すためとか、恵介を喜ばせるために綺麗になる努力をするなんて、バカらしいことはもうやめよう。
そんなのはやっぱり私らしくない。
どんなにしっかりメイクをして派手に着飾って見た目を変えても、中身はやっぱり私でしかないんだから。
地味な格好をしていても仕事はできる。
結局、私を裏切らないのは仕事だけなんだ。
お昼になる少し前、ブライダルサロンの事務所でパソコンに向かっていると、琴音が休憩をしに戻って来た。
「幸もコーヒー飲む?」
「今はいいわ、ありがとう」
琴音はカップにコーヒーを注ぎ、椅子に座って大きなため息をついた。
「疲れたぁ……。壮絶な嫁姑バトルだった……」
「お疲れ様」
「やっぱりあれね。母親がしゃしゃり出てくると、まとまるものもうまくまとまらない」
「家同士の付き合いとか、親の出身地のしきたりとか、いろいろあるから。難しくなることは確かね」
そういえば琴音は、夏樹の母親とはもめなかったな。
持ち前の外面の良さと甘え上手な性格で、夏樹の両親をうまく懐柔したって感じだった。
自分達のしたいことを優先しながら親の希望もうまく取り入れていたから、驚くほどスムーズに準備が進んだ。
その辺はやはり、ブライダルアドバイザーを職業としているだけはある。
「あのお嫁さん、やっぱり結婚辞めます!って言いそうな勢いだったよ」
「そうなんだ。新郎さんが間に入ってうまくまとまればいいけど」
「難しいんじゃないかな?親の言いなりって感じで、お嫁さんと二人で決めたこともあっさり覆しちゃって。お嫁さんは姑さんよりも新郎さんにムカついてたと思う」
「なるほどね……。結婚式までの道のりは険しいか」
パソコン入力を終えて、クルリと椅子を回した。
猫舌の琴音はコーヒーをふうふう吹き冷ましながら、熱そうにチビチビ飲んでいる。
「それで、新婚生活はうまくいってるの?」
勝手に口が動いた。
こんなことを聞いてどうするつもりなんだろう?
自分でもわからない。
私の言葉がよほど意外だったのか、琴音はキョトンとしている。
「まぁ、それなりに。仕事ある日は何もできないから、休みの日は家事で手一杯だけどね」
……ってことは、今のところ家事の怠慢で夏樹ともめたりはしていないんだな。
「ふーん……。私には想像もつかないわ。独身だから自分の世話だけしてればいいし、気楽なもんね」
「幸はなんでもできるもん、いつ結婚しても大丈夫よぅ。でも私は家事が苦手だからさぁ」
「そうなの?」
恵介から聞いて琴音が何もできないことを知っているのに、わざとらしく尋ねた。
「でも二人だとどうにかなるもんだね。 完璧にこなすのはまだ無理だから、手抜きしまくりだけど」
「ふーん……。それはのろけなのかな。仲のよろしいことで……」
なんだ、こっちはこっちでうまくやってるんだ。
予想は大きく外れたみたいよ、恵介。
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