Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
一緒にいる理由 (4)
約束の月曜日。
午前中に家事を済ませ、今日は何を着ていこうかとクローゼットを開けた。
どれもこれも地味な服ばかりだ。
新しい服なんてしばらく買っていない気がする。
少しでも綺麗に見える服はないかとクローゼットの奥を漁っていると、一度も着たことのない服が出てきた。
巴と一緒に買い物に行った時、たまにはこんな服を着てみたらどうかと選んでくれた服だ。
色合いも明るめだし、胸元は開いているし、スカート丈が短い。
その時は試着をして鏡を見たら、たまにはこんなのもいいかとなんとなく思ったから買ったんだけど、家に帰ってよく見るとやっぱり私には似合わないような気がして、クローゼットの奥に封印していたんだった。
私の私服はロングのフレアースカートかパンツが多い。
制服は別として、脚に自信がないから普段は膝が見えるような丈の短いスカートは履かないし、屈むと胸が見えてしまいそうで恥ずかしいから、胸元の開いたトップスも着ない。
露出が多いのは恥ずかしいんだけど、せっかく買ったんだし一度くらいは着てみようか。
恵介がこの服を着た私を見て似合わないと言ったら、もう着るのはやめておこう。
着て行く服が決まって、今度は化粧品を紙袋から取り出した。 
こんな高いもの私にはもったいなくて、使うのを今日までためらっていた。
でもせっかく恵介が買ってくれたんだから、思いきって今日から使ってみよう。
おそるおそる化粧品を箱から出してテーブルの上に並べてみる。
剥き出しのプラスチック容器で売られている安い化粧品と違って、上品な化粧箱も品質を保持するための重厚な瓶の容器も、ただならぬ高級感に溢れている。
普段あまり化粧らしい化粧もしないのに、いきなりうまくできるかな?
アイシャドーを手に取り、少し不安に思う。
紙袋には商品を初めて買った客に配布されていると思われる薄い冊子が入っていて、商品の紹介と共に上手な使い方が掲載され、メイク初心者の私にもわかりやすかった。
それを見ながら手持ちの化粧品で少し練習してみた。
化粧をしては落とし、落としてはまた化粧をすることを何度か繰り返して、ようやくコツがつかめた。
これでなんとかなりそうだと鏡を覗き込んだら、いい歳してテキストを見ながら無心になって化粧の練習をしている自分が滑稽にも思えた。
自分を綺麗に見せようとか、デートのためにおしゃれしようとか、こんな風に頑張ったことは今までなかったな。
もうすぐ三十路を迎えることだし、いい機会だからこれからはもう少し努力しよう。
それからしばらく経った頃、恵介からメールが届いた。
【 5時半頃には出られると思う。
ビルの前のコミュニティースペースにベンチがあるから、そこで待ってて。
知らない人に着いて行くなよ 】
子供じゃあるまいし、そんなことあるわけないって。
メールを読みながら、思わず笑いがもれた。
メールには、前にお店に行ってメイクをしてもらった時に城垣店長が撮ってくれた写真が、何枚も添付されていた。
緊張してはにかんだ自分の表情が、なんだか少し照れくさい。
木曜日に恵介が送ってくれた地図でもう一度会社の位置を確認した。
恵介の会社は私の勤め先からそう遠くなく、最寄り駅が同じ。
私の勤め先の結婚式場は駅の南改札口を出た先の国道沿いで、恵介の会社は駅の北側にある繁華街の先のオフィス街の中だ。
百貨店は繁華街より少しオフィス街に近い場所にある。
この地図を初めて見た時、だから何度も恵介の知り合いに会ったんだと納得した。 
恵介は地下鉄の駅のそばに住んでいて、会社もその路線の駅の近くだから、通勤に便利な場所を選んで部屋を探したのかも知れない。
同じ駅で降りても北側と南側では雰囲気がまったく違う。
繁華街やオフィス街に用はないから、あまり北側に行ったことはない。
行ったことがあるのは、せいぜい北改札口を出てすぐのところにある銀行と居酒屋、あとは百貨店くらい。
お互いの職場が歩いて行ける距離の場所にあるなんて初めて知ったけど、すぐ近くで働いてたんだな。
通勤定期で行けるので、ちょっと得した気分。
恵介と付き合いだしてから、今まで行ったことのない場所に行く機会が増えた。
仕事と買い物に行く以外は家にこもりがちだったから、初めての場所に行くのはとても新鮮で楽しい。
最近では恵介と歩く時に自然と手を繋ぐようになったし、以前よりよく笑うようになったと自分でも思う。
それと同時に地味で冴えない自分が恵介の隣を歩いているのが恥ずかしくなったり、少しでもおしゃれをしてみようかと思うようにもなった。
少しずつ私を変えているのは、間違いなく恵介だ。
午前中に家事を済ませ、今日は何を着ていこうかとクローゼットを開けた。
どれもこれも地味な服ばかりだ。
新しい服なんてしばらく買っていない気がする。
少しでも綺麗に見える服はないかとクローゼットの奥を漁っていると、一度も着たことのない服が出てきた。
巴と一緒に買い物に行った時、たまにはこんな服を着てみたらどうかと選んでくれた服だ。
色合いも明るめだし、胸元は開いているし、スカート丈が短い。
その時は試着をして鏡を見たら、たまにはこんなのもいいかとなんとなく思ったから買ったんだけど、家に帰ってよく見るとやっぱり私には似合わないような気がして、クローゼットの奥に封印していたんだった。
私の私服はロングのフレアースカートかパンツが多い。
制服は別として、脚に自信がないから普段は膝が見えるような丈の短いスカートは履かないし、屈むと胸が見えてしまいそうで恥ずかしいから、胸元の開いたトップスも着ない。
露出が多いのは恥ずかしいんだけど、せっかく買ったんだし一度くらいは着てみようか。
恵介がこの服を着た私を見て似合わないと言ったら、もう着るのはやめておこう。
着て行く服が決まって、今度は化粧品を紙袋から取り出した。 
こんな高いもの私にはもったいなくて、使うのを今日までためらっていた。
でもせっかく恵介が買ってくれたんだから、思いきって今日から使ってみよう。
おそるおそる化粧品を箱から出してテーブルの上に並べてみる。
剥き出しのプラスチック容器で売られている安い化粧品と違って、上品な化粧箱も品質を保持するための重厚な瓶の容器も、ただならぬ高級感に溢れている。
普段あまり化粧らしい化粧もしないのに、いきなりうまくできるかな?
アイシャドーを手に取り、少し不安に思う。
紙袋には商品を初めて買った客に配布されていると思われる薄い冊子が入っていて、商品の紹介と共に上手な使い方が掲載され、メイク初心者の私にもわかりやすかった。
それを見ながら手持ちの化粧品で少し練習してみた。
化粧をしては落とし、落としてはまた化粧をすることを何度か繰り返して、ようやくコツがつかめた。
これでなんとかなりそうだと鏡を覗き込んだら、いい歳してテキストを見ながら無心になって化粧の練習をしている自分が滑稽にも思えた。
自分を綺麗に見せようとか、デートのためにおしゃれしようとか、こんな風に頑張ったことは今までなかったな。
もうすぐ三十路を迎えることだし、いい機会だからこれからはもう少し努力しよう。
それからしばらく経った頃、恵介からメールが届いた。
【 5時半頃には出られると思う。
ビルの前のコミュニティースペースにベンチがあるから、そこで待ってて。
知らない人に着いて行くなよ 】
子供じゃあるまいし、そんなことあるわけないって。
メールを読みながら、思わず笑いがもれた。
メールには、前にお店に行ってメイクをしてもらった時に城垣店長が撮ってくれた写真が、何枚も添付されていた。
緊張してはにかんだ自分の表情が、なんだか少し照れくさい。
木曜日に恵介が送ってくれた地図でもう一度会社の位置を確認した。
恵介の会社は私の勤め先からそう遠くなく、最寄り駅が同じ。
私の勤め先の結婚式場は駅の南改札口を出た先の国道沿いで、恵介の会社は駅の北側にある繁華街の先のオフィス街の中だ。
百貨店は繁華街より少しオフィス街に近い場所にある。
この地図を初めて見た時、だから何度も恵介の知り合いに会ったんだと納得した。 
恵介は地下鉄の駅のそばに住んでいて、会社もその路線の駅の近くだから、通勤に便利な場所を選んで部屋を探したのかも知れない。
同じ駅で降りても北側と南側では雰囲気がまったく違う。
繁華街やオフィス街に用はないから、あまり北側に行ったことはない。
行ったことがあるのは、せいぜい北改札口を出てすぐのところにある銀行と居酒屋、あとは百貨店くらい。
お互いの職場が歩いて行ける距離の場所にあるなんて初めて知ったけど、すぐ近くで働いてたんだな。
通勤定期で行けるので、ちょっと得した気分。
恵介と付き合いだしてから、今まで行ったことのない場所に行く機会が増えた。
仕事と買い物に行く以外は家にこもりがちだったから、初めての場所に行くのはとても新鮮で楽しい。
最近では恵介と歩く時に自然と手を繋ぐようになったし、以前よりよく笑うようになったと自分でも思う。
それと同時に地味で冴えない自分が恵介の隣を歩いているのが恥ずかしくなったり、少しでもおしゃれをしてみようかと思うようにもなった。
少しずつ私を変えているのは、間違いなく恵介だ。
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