Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
チョコレートとキス (1)
翌日。
日焼けして新婚旅行から帰ってきた琴音が、職場のみんなにお土産を配っていた。
海外のリゾート地に行きたいと言う琴音の希望で新婚旅行はサイパンだった。
私がツアーを組んだ新婚旅行はずいぶん楽しかったようだ。
案の定、琴音は休憩時間に新婚の幸せオーラ全開でのろけまくって、後輩たちと新婚旅行の話で盛り上がっていた。
甘ったるい話し方と、わざと私に聞こえるように話してるのかと思うほどの高い声が癇に障る。
いい気なもんだ。
聞きたくもないのに夏樹と琴音のラブラブぶりを無理やり聞かされるこっちの身にもなって欲しい。
琴音ののろけ話が耳に入るたびに、夏樹は私にはそんなこと言わなかったとか、私にはこんなことしてくれなかったとか思ってしまう。
大事にされなかったのは当然か。
琴音と違って、私は彼女じゃなかったんだから。
今更こんなことを思うのもおかしな話だけど、私って本当にバカだな。
そんなこと考えても仕方ないのに、胸の奥がモヤモヤしてムカムカして、惨めな気持ちが込み上げた。
恵介の言う通り髪型を変えて出勤した私への琴音の第一声は、“髪型変えると少し雰囲気が違うね”だった。
まあ、そんなものだろう。
夕べの帰り際、恵介に言われた。
“俺と付き合ってること、今はまだ琴音には黙ってて”と。
それはすなわち、当面の間私たちの関係は、琴音や夏樹には『秘密』と言うことだ。
恵介に言われなくたって、私は元々琴音に話すつもりはなかった。
あなたの元カレと付き合ってるの!なんて、普通は自分から言わない。
琴音が気付くまでは恵介とのことは話さないし、夏樹とのことを聞くつもりもない。
琴音のお土産のマカダミアナッツ入りチョコの箱を横目で見ながら、事務所で昼食を済ませた。
マカダミアナッツもチョコも好きだけど、食べる気がしない。
もし食べたら、一粒一粒噛みしめるごとに夏樹との3年間を振り返って泣いてしまいそうな気がする。
「西野さん、チョコ好き?」
パソコンに向かっていた西野さんが顔を上げて振り返った。
「大好きですよ」
「じゃあ、これあげる」
マカダミアナッツチョコの箱を差し出すと、西野さんは小さく首をかしげた。
「福多主任、チョコ好きでしたよね?食べないんですか?」
「ダイエット始めたところでね、いきなり挫折するのもなんだから。でも琴音には内緒にしといてね」
「そういうことでしたら、遠慮なくいただきます」
西野さんは嬉しそうにマカダミアナッツチョコを受け取った。
リゾート地のお土産の安いマカダミアナッツチョコなんか要らない。
帰りに駅前でカリスマショコラティエの高級なチョコを買って帰ろう。
仕事を終えて家に帰ると、部屋の前で恵介が待っていた。
「おかえり」
「ただいま……。連絡くれたら私が行ったのに。ずっとここで待ってたの?」
「仕事終わってから俺んち来ると、帰りも遅くなるし大変だろ。合鍵も持ってないし、首長くして待ってた」
恵介とはまだ付き合い始めたところだし、そもそも合鍵を渡すような関係じゃない。
鍵を開けて玄関に入った途端、恵介は私を後ろから包み込むようにそっと抱きしめた。
不意を突かれて、私の心臓が大きな音をたてる。
「その髪型、似合うじゃん。俺が言った通りにしてくれたんだ」
「うん……」
「幸、めっちゃかわいい。今すぐ食べたいくらい」
だああぁっ!!恥ずかしい!!
恵介は恥ずかしげもなくそんな甘ったるいことを言うけれど、言われ慣れないことを言われた私は、恥ずかしさで悶絶しそうになっている。
おまけにうなじにキスをされて、どうにかなりそうなほど頭に血がのぼる。
血管切れて死んじゃったらどうしてくれるんだ!!
「あの……とりあえず離してくれる……?ここ玄関なんだけど……マカダミアナッツの入ってない高級チョコが溶けるって言うか……」
頭に血がのぼって、自分でも何を言っているのかよくわからない。
「玄関じゃなかったら食べていいの?」
いいわけあるか!!
「食べるならこっちにしようよ……。リゾート地のお土産の安いマカダミアナッツチョコじゃなくて、カリスマショコラティエが丹精込めて一粒一粒作り上げたんだよ……。苦い思い出を噛みしめなくてもいいように……」
回らない頭で一生懸命言い逃れようとすると、恵介はおかしそうに声をあげて笑った。
「なんだそれ。幸、テンパってる?」
誰のせいだと思ってるんじゃあ!!
こちとら激甘には慣れてないんだよ!!
……なんて私の心の叫びに、恵介はまったく動じない。
当たり前か、声に出してないんだから。
「チョコ買ってきたの?」
「買ってきたの。高級な美味しいやつを」
「口移しで食べさせてくれる?」
口移しでって……チョコが溶けるっての。
って言うか、それ以前の問題だ。
この男は何考えてるんだ?
「断固お断りします」
「ふーん?じゃあ、俺はこっちもらうからいい」
靴を脱いで部屋に入ろうとしたら、頭を引き寄せられ唇を塞がれた。
突然のキスに驚いて、チョコの入った箱を落としてしまう。
ついばむような優しいキスを何度も繰り返した後、恵介は私の唇をペロリと舐めた。
日焼けして新婚旅行から帰ってきた琴音が、職場のみんなにお土産を配っていた。
海外のリゾート地に行きたいと言う琴音の希望で新婚旅行はサイパンだった。
私がツアーを組んだ新婚旅行はずいぶん楽しかったようだ。
案の定、琴音は休憩時間に新婚の幸せオーラ全開でのろけまくって、後輩たちと新婚旅行の話で盛り上がっていた。
甘ったるい話し方と、わざと私に聞こえるように話してるのかと思うほどの高い声が癇に障る。
いい気なもんだ。
聞きたくもないのに夏樹と琴音のラブラブぶりを無理やり聞かされるこっちの身にもなって欲しい。
琴音ののろけ話が耳に入るたびに、夏樹は私にはそんなこと言わなかったとか、私にはこんなことしてくれなかったとか思ってしまう。
大事にされなかったのは当然か。
琴音と違って、私は彼女じゃなかったんだから。
今更こんなことを思うのもおかしな話だけど、私って本当にバカだな。
そんなこと考えても仕方ないのに、胸の奥がモヤモヤしてムカムカして、惨めな気持ちが込み上げた。
恵介の言う通り髪型を変えて出勤した私への琴音の第一声は、“髪型変えると少し雰囲気が違うね”だった。
まあ、そんなものだろう。
夕べの帰り際、恵介に言われた。
“俺と付き合ってること、今はまだ琴音には黙ってて”と。
それはすなわち、当面の間私たちの関係は、琴音や夏樹には『秘密』と言うことだ。
恵介に言われなくたって、私は元々琴音に話すつもりはなかった。
あなたの元カレと付き合ってるの!なんて、普通は自分から言わない。
琴音が気付くまでは恵介とのことは話さないし、夏樹とのことを聞くつもりもない。
琴音のお土産のマカダミアナッツ入りチョコの箱を横目で見ながら、事務所で昼食を済ませた。
マカダミアナッツもチョコも好きだけど、食べる気がしない。
もし食べたら、一粒一粒噛みしめるごとに夏樹との3年間を振り返って泣いてしまいそうな気がする。
「西野さん、チョコ好き?」
パソコンに向かっていた西野さんが顔を上げて振り返った。
「大好きですよ」
「じゃあ、これあげる」
マカダミアナッツチョコの箱を差し出すと、西野さんは小さく首をかしげた。
「福多主任、チョコ好きでしたよね?食べないんですか?」
「ダイエット始めたところでね、いきなり挫折するのもなんだから。でも琴音には内緒にしといてね」
「そういうことでしたら、遠慮なくいただきます」
西野さんは嬉しそうにマカダミアナッツチョコを受け取った。
リゾート地のお土産の安いマカダミアナッツチョコなんか要らない。
帰りに駅前でカリスマショコラティエの高級なチョコを買って帰ろう。
仕事を終えて家に帰ると、部屋の前で恵介が待っていた。
「おかえり」
「ただいま……。連絡くれたら私が行ったのに。ずっとここで待ってたの?」
「仕事終わってから俺んち来ると、帰りも遅くなるし大変だろ。合鍵も持ってないし、首長くして待ってた」
恵介とはまだ付き合い始めたところだし、そもそも合鍵を渡すような関係じゃない。
鍵を開けて玄関に入った途端、恵介は私を後ろから包み込むようにそっと抱きしめた。
不意を突かれて、私の心臓が大きな音をたてる。
「その髪型、似合うじゃん。俺が言った通りにしてくれたんだ」
「うん……」
「幸、めっちゃかわいい。今すぐ食べたいくらい」
だああぁっ!!恥ずかしい!!
恵介は恥ずかしげもなくそんな甘ったるいことを言うけれど、言われ慣れないことを言われた私は、恥ずかしさで悶絶しそうになっている。
おまけにうなじにキスをされて、どうにかなりそうなほど頭に血がのぼる。
血管切れて死んじゃったらどうしてくれるんだ!!
「あの……とりあえず離してくれる……?ここ玄関なんだけど……マカダミアナッツの入ってない高級チョコが溶けるって言うか……」
頭に血がのぼって、自分でも何を言っているのかよくわからない。
「玄関じゃなかったら食べていいの?」
いいわけあるか!!
「食べるならこっちにしようよ……。リゾート地のお土産の安いマカダミアナッツチョコじゃなくて、カリスマショコラティエが丹精込めて一粒一粒作り上げたんだよ……。苦い思い出を噛みしめなくてもいいように……」
回らない頭で一生懸命言い逃れようとすると、恵介はおかしそうに声をあげて笑った。
「なんだそれ。幸、テンパってる?」
誰のせいだと思ってるんじゃあ!!
こちとら激甘には慣れてないんだよ!!
……なんて私の心の叫びに、恵介はまったく動じない。
当たり前か、声に出してないんだから。
「チョコ買ってきたの?」
「買ってきたの。高級な美味しいやつを」
「口移しで食べさせてくれる?」
口移しでって……チョコが溶けるっての。
って言うか、それ以前の問題だ。
この男は何考えてるんだ?
「断固お断りします」
「ふーん?じゃあ、俺はこっちもらうからいい」
靴を脱いで部屋に入ろうとしたら、頭を引き寄せられ唇を塞がれた。
突然のキスに驚いて、チョコの入った箱を落としてしまう。
ついばむような優しいキスを何度も繰り返した後、恵介は私の唇をペロリと舐めた。
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