Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
恋人っぽいこと始めました (1)
付き合うことになった翌日から、富永さん……いや、恵介は、夏樹と同じように仕事の後に私の部屋にやって来るようになった。
夏樹と違うのは、部屋に来るのが深夜ではないことと、私を気遣って優しくしてくれること、そして必ず自分の家に帰ることだ。
キッチンで一緒に夕飯の支度をして、向かい合って食事をして、食後のコーヒーを飲みながら他愛ない話をする。
遅くまで長々と居座ることもなく、ある程度の時間になったら“おやすみ、また明日ね”と言ってあっさり帰っていく。
最初の約束通り、恵介は私の嫌がるようなことは一切しない。
それどころか、手土産に私の好きなアイスを買ってきてくれたり、凝り固まった肩を揉んでくれたり、私を抱き寄せて優しく頭を撫でてくれたりする。
あまりの心地良さにウトウトして、恵介の前で自然と無防備な姿をさらしてしまったときには、夏樹はこんなことしてくれなかったなと頻繁に思っている自分に気付いた。
恵介自ら夏樹の代わりになると言ったとは言え、比べるのは失礼かとも思うけれど、恵介と夏樹はとことん正反対だ。
隣にいる人が変わると、一緒に過ごす時間がこうも違うのかとしみじみ思う。
夏樹とは一緒にいても、それぞれが別々にそこにいるように感じていた。
恵介は一緒にいる時はもちろん、別々にいる時でさえ常に私を気にかけてくれて、連絡もマメにしてくれる。
おかしななりゆきで付き合い始めたけれど、恵介と一緒にいることはちっともイヤじゃないし、むしろこれが自然なような気までしてくる。
つい何日か前まではよく知らない人で、好きになって付き合ったわけでもないのに、なんだか不思議な人だ。
付き合い始めてから初めての日曜日、私が仕事を終えてブライダルサロンを出ると、恵介がサロンの前で待っていた。
恵介は私の姿に気付くと、軽く右手をあげてニコッと笑った。
「幸、お疲れ様」
「迎えに来てくれたの?」
予定外のことに驚いて尋ねると、恵介はおかしそうに笑みを浮かべた。
「迎えに来たくらいでそんなに驚くか?俺、一応幸の彼氏だよ?」
“幸の彼氏”という響きがなんとなく照れくさい。
「まさか迎えに来てくれるとは思ってなかったから」
「俺は今日休みだったから、仕事でお疲れの幸と一緒に食べようと思って、夕飯を用意したんだ」
「ホント?嬉しい!」
恵介は優しいな。
夏樹は一方的な都合で私の部屋に来ていただけで、夕飯の支度をしてくれたことはなかったし、仕事の後に迎えに来てくれるなんて夢のまた夢だった。
それが当たり前だったから、恵介の気遣いとか優しさが身に染みる。
「じゃあ行こうか」
恵介は笑って手を差し出した。
持ってもらうほどの重い荷物があるわけではないし、何かを渡せと要求されているわけでもない。
じゃあ、この手は何?
「えっと……?」
「手ぐらい繋ごうよ、恋人同士なんだし。それとも俺とは手を繋ぐのもイヤ?」
夏樹とは外で会ったりはしなかったから、手を繋いで歩いたこともなかった。
いい歳して少し恥ずかしいような気もするけど、彼氏と手を繋いで歩くことにちょっと憧れていたから、なんだか嬉しい気もした。
「イヤ……ではない、かな……」
「良かった」
恵介は私の手を取り指を絡めた。
これが巷で言うところの、恋人繋ぎとかいうやつ……?
普通に手を繋ぐより密着感があって、なんとなく裸で絡み合っている男女の姿を想像させるような、二人の親密さを周りにアピールしているような、そんな気がする。
“私たちお互いを知り尽くした深い仲ですよ!”って……?
そんな風に考え始めると、この手の繋ぎ方がすごく恥ずかしい。
「あの……ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「ん?なんで?」
「こういうの、慣れてなくて……」
「そうなんだ。俺も今まであんまりこういうことしなかったな。でもこれ、俺が幸を独り占めしてるって感じで、なんかいいね」
何、この甘々な感じ……?
恋人気分が盛り上がって、本来の目的を忘れてる……?
「恵介って彼女にはこんな感じなの?」
「こんな感じって?」
「甘いって言うか……」
「そうでもない。甘やかすとダメになって、ろくなことなかったから。その点、幸は安心して甘やかせる」
「ふーん……」
夏樹と違うのは、部屋に来るのが深夜ではないことと、私を気遣って優しくしてくれること、そして必ず自分の家に帰ることだ。
キッチンで一緒に夕飯の支度をして、向かい合って食事をして、食後のコーヒーを飲みながら他愛ない話をする。
遅くまで長々と居座ることもなく、ある程度の時間になったら“おやすみ、また明日ね”と言ってあっさり帰っていく。
最初の約束通り、恵介は私の嫌がるようなことは一切しない。
それどころか、手土産に私の好きなアイスを買ってきてくれたり、凝り固まった肩を揉んでくれたり、私を抱き寄せて優しく頭を撫でてくれたりする。
あまりの心地良さにウトウトして、恵介の前で自然と無防備な姿をさらしてしまったときには、夏樹はこんなことしてくれなかったなと頻繁に思っている自分に気付いた。
恵介自ら夏樹の代わりになると言ったとは言え、比べるのは失礼かとも思うけれど、恵介と夏樹はとことん正反対だ。
隣にいる人が変わると、一緒に過ごす時間がこうも違うのかとしみじみ思う。
夏樹とは一緒にいても、それぞれが別々にそこにいるように感じていた。
恵介は一緒にいる時はもちろん、別々にいる時でさえ常に私を気にかけてくれて、連絡もマメにしてくれる。
おかしななりゆきで付き合い始めたけれど、恵介と一緒にいることはちっともイヤじゃないし、むしろこれが自然なような気までしてくる。
つい何日か前まではよく知らない人で、好きになって付き合ったわけでもないのに、なんだか不思議な人だ。
付き合い始めてから初めての日曜日、私が仕事を終えてブライダルサロンを出ると、恵介がサロンの前で待っていた。
恵介は私の姿に気付くと、軽く右手をあげてニコッと笑った。
「幸、お疲れ様」
「迎えに来てくれたの?」
予定外のことに驚いて尋ねると、恵介はおかしそうに笑みを浮かべた。
「迎えに来たくらいでそんなに驚くか?俺、一応幸の彼氏だよ?」
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「まさか迎えに来てくれるとは思ってなかったから」
「俺は今日休みだったから、仕事でお疲れの幸と一緒に食べようと思って、夕飯を用意したんだ」
「ホント?嬉しい!」
恵介は優しいな。
夏樹は一方的な都合で私の部屋に来ていただけで、夕飯の支度をしてくれたことはなかったし、仕事の後に迎えに来てくれるなんて夢のまた夢だった。
それが当たり前だったから、恵介の気遣いとか優しさが身に染みる。
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恵介は笑って手を差し出した。
持ってもらうほどの重い荷物があるわけではないし、何かを渡せと要求されているわけでもない。
じゃあ、この手は何?
「えっと……?」
「手ぐらい繋ごうよ、恋人同士なんだし。それとも俺とは手を繋ぐのもイヤ?」
夏樹とは外で会ったりはしなかったから、手を繋いで歩いたこともなかった。
いい歳して少し恥ずかしいような気もするけど、彼氏と手を繋いで歩くことにちょっと憧れていたから、なんだか嬉しい気もした。
「イヤ……ではない、かな……」
「良かった」
恵介は私の手を取り指を絡めた。
これが巷で言うところの、恋人繋ぎとかいうやつ……?
普通に手を繋ぐより密着感があって、なんとなく裸で絡み合っている男女の姿を想像させるような、二人の親密さを周りにアピールしているような、そんな気がする。
“私たちお互いを知り尽くした深い仲ですよ!”って……?
そんな風に考え始めると、この手の繋ぎ方がすごく恥ずかしい。
「あの……ちょっと恥ずかしいんだけど……」
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