Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~

櫻井音衣

選ばれなかった女 (1)

二人の幸せを祈る鐘の音が鳴り響く中、ステンドグラス越しに柔らかな陽射しを浴びて、真っ白なウエディングドレスを纏った花嫁は白いタキシード姿の運命の人と誓いのキスを交わしましたとさ。

めでたしめでたし。


……なんて、有りがちなナレーションが聞こえてきそうな、目新しさもなんの変哲もない結婚式。


花嫁は満面の笑みを浮かべながらブーケトスをしようとしている。

新郎はそんな花嫁を微笑みながら見つめている。


“キャッチできたら次の花嫁になれる”というジンクスを信じて花嫁のブーケに手を伸ばす独身女性たちは、まるで甘い飴玉にでも群がる蟻のようだ。

さしずめ花嫁は蟻の群れに飴玉を投げ込む人間様ってところか。

“次に幸せになるのはあなたよ”なんて、勝ち誇った顔で言うわけね。


花嫁の鹿島 琴音カシマ コトネは私の仲の良い同僚で、新郎の廣田 夏樹ヒロタ ナツキは私の高校時代の同級生で、ほんの数か月前まで私の部屋にしょっちゅう寝泊まりしていた。


そして私、福多 幸フクダ ミユキは今、笑顔の下に複雑な想いを隠し、幸せそうに笑う新郎新婦の二人と、ブーケに群がる独身女性たちを眺めている。



……これのどこが“めでたし”だ。




その日の夜。

高校時代からの親友の松阪 巴マツザカ トモエと、いつものダイニングバーで会った。

巴は私の夏樹への想いも、夏樹が私の部屋に泊まっていたことも知っているから、祝福する気にはなれず結婚式の招待を断ったそうだ。

「夏樹のやつ、ホントにいい根性してるよね。ついこの間まで散々幸に甘えてたくせにさぁ……」

「ホントにバカだよねぇ、私。付き合おうとか言われたわけでもないのに、勝手に期待なんかして……」

「3年も通い詰められたら期待して当然だよ!結婚式の招待状が届いた時はなんの冗談かと思ったわ!」

「その冗談みたいな結婚式を取り仕切ったんだよ、私は」

巴は苦虫を噛み潰したような顔をしてビールを飲んでいる。

私よりも巴の方が頭に来ているみたいだ。



高校2年の時のクラスの同窓会で夏樹と再会したのは今から3年と数か月前、社会人になって4年目の25歳の春。 

夏樹は昔からカッコ良かったけれど、久しぶりに会うと大人っぽくなっていて、どことなく色気もあって、昔より更にイケメンになっていた。

高校時代、巴や夏樹や他の仲の良かった友逹と一緒にいつも冗談ばかり言いながらも、私はひそかに夏樹に片想いしていた。

気持ちを伝えられないまま高校を卒業して、大学に進学してからはずっと会っていなかったから、同窓会で会えた時は嬉しかった。

ずっと夏樹が忘れられなくて誰とも付き合わなかったとか、そういうわけじゃない。

私の性格のせいか誰ともあまり長続きはしなかったけれど、大学時代には何人かと付き合ったりもした。

だけど社会人になってすぐに前の彼氏と別れた後は、新たな出会いがあっても無理して相手に合わせるのが億劫で、仕事の忙しさにかまけてずっと恋愛からは遠のいていた。

だから余計に高校時代に叶わなかった夏樹への気持ちが再燃したのかも知れない。


私は、大人の男になった夏樹にまた恋をした。 




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