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ただいま冷徹上司を調・教・中・!

伊吹美香

贅沢なのにもどかしい関係(12)

ちゃんと凱莉さんに説明した方がいいのだろうか。

けれどそれも悩むところだ。

なにせ私達の関係は正式なものではない。

人との……ましてや同僚との男性トラブルなんて、やっぱり凱莉さんの耳に入れないほうがいいだろう。

「いくら急いでいたとしても、約束のキャンセルは人に頼みません」

短く溜め息をついてそう言うと、凱莉さんも「そうか」と溜め息交じりに呟いた。

「じゃ、千尋のお母さんの話は?」

「めちゃめちゃ元気で、今のところ倒れる要素はゼロですね」

苦笑いした私に安心した凱莉さんは、よかったとでもいうように私の頭を撫でてくれた。

「梨央はそれだけしか言いませんでした?」

あの梨央が、そんなに簡単に引き下がるはずはないのだけれど。

「ああ、まあ……」

「……嘘ですね」

なんて誤魔化し方の下手な人なんだろう。

まあ、そっちの方がわかりやすくて安心するからいいが。

「その……植村は、俺と千尋が付き合ってることを知らないのか?」

「いいえ、知ってますよ」

仮ということまでは知らないけれど。

「やっぱり何かあったんですね」

目を細めて白状しろとばかりに先を促すと、凱莉さんは言いにくそうに口を開いた。

「……誘われた」

「やっぱり」

そんな事だろうと思っていた。

あの梨央が私と凱莉さんの予定を割いておいて、それだけで満足なんてするはずがないのだから。

「ちゃんと断ってるからな。すぐに引き返して、ちゃんと家に帰ってる。千尋から電話もらった時も、そう言ったろ?」

断固として無罪だと凱莉さんは全身でそう言った。

「その話は後でじっくり聞きます。でも凱莉さん、土曜日は仕事のトラブルで来れなくなったんじゃなかったんですか?」

「なんだそれは」

「私は梨央からそう聞いたんです。それに電話した時、凱莉さんがそんな風なこと言ってたじゃないですか」

私の母親のことは置いておいて、凱莉さんのトラブルはどうなったというのだ。

「トラブルなんて起きてないぞ?俺は千尋のお母さんが倒れたと聞いたから帰ったんだ」

「私は凱莉さんの担当の病院で機械トラブルがあったから来れなくなったって聞きました」

二人で顔を見合わせて、私達はもう一度、電話の会話を再検討することにした。

私達の与えられた情報は梨央の策略によって与えられた誤ったもの。

でも二人で会話をしたことは事実。

けれどそれも、思い込みによって認識違いをしてしまった。

そうとしか考えられない。

「私は凱莉さんの仕事の都合。凱莉さんは私の母の急病として考えましょう」

「そうだな」

まず始めは……。

梨央と別れた私から、凱莉さんに電話をしたんだ。

検証1『ごめんな、わざわざ電話してくれて』

「これは話を聞いた私が凱莉さんよりも先に連絡したことによる言葉だと思ってました」

「俺はお母さんが倒れて大変な時に、わざわざ連絡くれたことによる申し訳なさで……」

なんと第一声から食い違っている。

検証2『こちらこそ、すみません。こんなときに。平嶋課長、大丈夫ですか?』

「これは、トラブル対応をしなゃいけない大変な時に電話してしまって申し訳ないなって思ったのと、トラブルに対して大丈夫ですかっていう意味です」

「俺はデートの約束をしていたのに、こんなことになってすみませんって思ってた」

いやいや、取り方ひとつでこんなにも意味合いは変わるものなのか。

検証3『ああ。問題ない。悪いが今、社内なんだ』

「これですよ!凱莉さんが社内だって言ったから、本当だって思ってしまったんです」

「俺が言ったのは社内じゃなくて車内だ。電車の中だったから長々と話せないっていう……」

「うそぉ……」

私はこれで、珍しく梨央の言っていることが本当だと思い込んでしまった。

検証4『あ、すみません。落ち着いたらまた連絡……』

『わかった。ごめんな』

「これはもう……」

「検証しなくてもわかるな……」

「凱莉さんは私が落ち着いたら連絡してくると思っていて」

「千尋は俺が落ち着いたら連絡してくると思っていた、ということだろ?」

そう、つまりは全て誤解だったんだ。

私達は面白いほど簡単に、梨央から遊ばれたのだ。

しかしアイツはそんなに頭脳派だっただろうか?

どちらかというと、頭使うより肉体使うのを得意としていたはず。

ということは、当然、凱莉さんにだってやってるはず。

「ねぇ、凱莉さん」

「うん?」

「梨央からの誘いって、どんなものだったんですか?」

私がそう聞くと、凱莉さんはさり気なく視線を逸らす。

「なんで逸らすんですか」

「いや、特に意味はない」

「…………」

わかりやすい嘘つき。

「怒りませんから」

「俺は怒られるようなことしてない」

「じゃ、素直に言いましょ?」

「千尋とあの子の関係に変化があったら困るだろ」

そんなもの凱莉さんが考えてくれる前に、梨央の方から簡単に壊されてしまったというのに。

私のことを考えて黙秘しようとしてくれている凱莉さんの気持ちは、申し訳なくなると同時に嬉しいものだった。

「凱莉さん、私が吉澤さんと別れた理由は……梨央です」

「……どういうことだ?」

「吉澤さんと梨央の情事を聞いちゃいました」

今でも思い出したくもない、あの時の軋む音と甘い空気。

初めて聞いた梨央の喘ぎは、私の全てを叩き壊した。

「吉澤がペラペラ話したのか?」

「いえ。吉澤さんの家に行ったら……聞こえました」

「……そうか」

凱莉さんは言葉を失ったのか、愕然としたようだ。

けれど次の瞬間、私を優しく優しく抱きしめてくれた。

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